(8)
「……」「相変わらず無愛想な爺だな」
「ふん、何の用だ」
「冷やかし」
「帰れ」
灯りの下にいる初老の男性とヤミが話しを始め、偲とマグナは黙って成り行きを見守る。
それだけ通路の奥にいた男性には威圧感があった。
「ってのは冗談で。見せたい奴がいるから連れてきた」
「あ、あの…こんにちは」
「……いいだろう」
「えっ?」
「入れ。女子よ」
「今日はレディースデイだってよ。ほら」
「お、お邪魔します…?」
顎で示され、偲は通路奥の部屋に足を踏み入れた。
中は普通の室内より少し暗かったが、それよりも彼女の目を惹いたのは。
「あっ──!」
この地では見ることが叶わないと思っていた"日本の品の数々"だった。
壁では般若や能面がこちらを見下ろし、目の冴えるような朱色に豪奢な鳳凰が描かれた打ち掛けや、着物になる前の布の巻物を守るが如く構えている。
螺鈿の細工が施された化粧箱や大きな三面鏡。男性の側にある籠に入っている刀や鎧兜、階段箪笥が偲を別世界にいるように思わせた。
「言葉にならんか」
「っ!」
「お主が何処から来たかは知らんが、これらに見覚えはあるか?」
「あります…!」
「さようか。なら、心行くまで見ていけ」
「ありがとうございます。お爺さん」
「…ダイゴロウだ」
「私は天池偲と申します。本日は価値ある品々を拝見することができ、恐悦至極に存じます。もしお許しをいただけるのであれば、今後も目の保養に訪れたいのですが…」
「─いいだろう。どうせ道楽。来るのは迫害する異国の民か冷やかしの小僧くらいだ。まぁ話し相手にはなってもらうがな」
「ありがとうございます!…あ、だから場所が変わるんですか?」
「応。小僧の知り合いに弄らせた。一度使えば魔法とやらも便利で可笑しいものよ」
大笑するダイゴロウに偲も微笑む。柔軟な思考はあるようだ。
「店の目印になるものと、記念に何か包んでやろう。何が良い?」
「えっ?」
「好きなものを選ぶといい。どうせ小僧の賭博事に巻き込まれたのだろう?」
「そ、そうですけど…」
「外にいる色付き眼鏡の小僧の時もそうだ。喧嘩やら賭博やら…まったく…」
何処で覚えたのやらとぼやきながら、ダイゴロウは辺りを漁る。
彼が部屋中をひっくり返す前に、偲は物品を選ばなければいけなくなった。
「こ、これがいいです!」
「ん?ほほう…それかぁ」
「駄目でしょうか?」
「ワシは良いが、小僧がどう言うか…」
「えっ?予算の範囲内でなら好きなものいいって言ってましたよ?」
「ふっ、くくく…そうか」
「?」
「なら大丈夫だろう。それだけでいいのか?」
「はい、見てるだけで綺麗だし!」
「今使ってみるか?」
「はい!」
日が傾き、稜線に隠れつつある中。
マグナとヤミは骨董屋の入り口で夕日を眺めながら時間を潰していた。
「お。来たか」
「ダイゴロウさん。また来ます」
「応。小僧にでも連れて来てもらえ」
「俺はアッシー君かよ」
「ではな」
「ありがとうございました!」
「ねぇ、一貫してシカト?」
「あれだけ意識されないのも面白いよな」
「何が…──!」
自分から離れ、マグナと話す彼女の髪を見てヤミは気づいた。
「気張れよ小僧。あれは"良い"」
「…変態臭いぞ爺」
「男なんぞ下半身で生きてるものさ」
「意地と誇りと根性くらい持てや」
「おぉ、良いことを言うようになったな」
「ハァ……」
ダイゴロウにのらりくらりと誤魔化されて、ヤミは溜め息を吐く。
七つ葉の発見後すぐ、国王から魔法帝を通して魔法騎士団全員に命令が与えられた。
保持者を発見次第監視し、場合によっては"剥奪"しろと。
「…分かってる」
「ならばよし。きちんと報告をしろよ」
「はいはい。王国に対する反抗的言動無しってな。王都行きたくねぇなぁ、あのピーナッツ目キモいし」
「ワシは知ら〜ぬ」
「切り殺すぞジジイ」
「そんな度胸があるのか小僧?」
「あ゛?」
「ヤミさぁーん!シノブさんの門限が〜!」
「「…」」
苛立った氣を鎮め、ヤミは歩き出した。その背をダイゴロウは見つめる。
(最初に見つかったのがヤミでよかったな、偲とやら。そうでなければ今頃──…お主は生きていないだろうて)
彼等の行く先を案じながら、ダイゴロウは店の中へと戻っていった。