倣うなら慣れろ

「これから魔法漬けの日々を送ろうと思います」
「えっ?今とどう違うの?」


朝食のお祈りを済ませ、パンを千切り始めた面々に偲は告げた。子供達の中からごもっともな反応が返ってきて、やはり日常茶飯時に魔法を使っている人は違うなと一人感心する。


「じゃあもしかしてシノブお姉ちゃん、魔法騎士団に入るの?」
「すごーい!」
「どの団に入るのか決めた?銀翼の大鷲?紅蓮の獅子王?」
「お姉ちゃんには碧の野薔薇団が似合うよ!」
「金色の夜明け団は!?」
「馬鹿。彼処はエリート、貴族しか入れないんだよ」
「え〜!でもぉ〜」
「はいはい、皆静かに。続きは朝食を食べてからね」

カチャカチャと食器が擦れる音が聞こえる。いつもよりスピードアップしているのは気のせいではないだろう。
目当ては偲が昨日土産に買ってきた焼き菓子か、話の続きか。

「とりあえず修行で居なくなりますので、そのお知らせでした」

食堂内がまた騒がしくなったのは、言うまでもないだろう。



質問攻めが落ち着き一人木の根元に腰掛けていると、アスタが来た。

「何でシノブさん修行するんスか?七つ葉でちょちょいのチョイじゃ?」
「…護るため、かな」
「え?」
「自分、アスタ君、ユノ君、教会の皆。この前言われたんだ。七つ葉の魔導書は狙われるって」
「そう、なんだ…」

ユノの四つ葉が狙われた時を思い出したのか、険しい表情を浮かべる彼に、逆に偲は質問した。

「アスタ君」
「はい?」
「魔法を人に向けるのって、怖くないの?」
「え?」
「冗談とかじゃれあいでも、本当は私、怖いんだ。皆優しいし、そんなことないと分かってるんだけど」

アスタが血を流しているのを見て、やっと自覚したのだ。
自分は異分子で、結末を知っていても、危険なことから彼を護れなかったのだと。

「今まで魔法を使ったこと無かったからさ、アスタ君と一緒で」
「え?だって教会の手伝いの時は─」
「皆の魔力に便乗して補助みたいな形では使っていたよ。でも、今までそんなの使ったこと無いのに凄いとか言われても何か、何か…普通じゃないし」
「普通」
「うん……あはは、変なこと言ってごめん。忘れて」

苦笑をこぼし、彼女は立ち上がる。
これから自分一人で、あの得体の知れない魔導書の魔法に慣れなければいけないのだ。
研究の時間が惜しい。

(どんな危険な呪文があるか分からないんだ…使いどころを間違えないように理解しないと)

「オレの普通には、もうシノブさんがいます!」
「!?」
「何か難しいことはよく分からないけど…シノブさんは間違えないって、オレは信じてます!!」
「アスタ君…」
「だから頑張ってください!オレも頑張ります!!」

きらきらとした笑顔を見て、偲も微笑む。スッと心に入ってきた言葉が温かい。

「アスタ」
「お!どうしたユノ?」
「次はオレだ」
「え?」
「シスターが、皆一斉に行ったらシノブさんが困るからと」
「分かった!じゃあまた!」

スタタタターーー!!

「足早いなぁ…」
「…」
「あ、どうぞユノ君」
「失礼します」

ユノは静かに隣に腰掛ける。
風がそよいで二人の間を通った後、彼は口を開いた。

「盗み聞きしてすみません」
「いきなりだねっ!?い、いいよいいよ」
「後、怖がらせてもいたみたいだし…」

項垂れるユノ。

「あ〜…言葉が足りなくてごめんね。ユノ君や皆が怖いんじゃないの」
「え?」
「魔法でじゃれてたりすると、皆が傷つくんじゃないかと思っちゃうんだよね。心配性でごめん」
「─…はぁ」
「私は、自分が一番怖いんだよ」
「シノブさん?」
「七つ葉だからって近づいて来る人が、今後沢山現れるって言われてさ。調子乗らないかとか事件に巻き込まれないかとか、皆が私のせいで酷い目にあわないかとか…自分のことばっかり心配してる」
「…」
「傷つくのが怖いんだ」

そう早口で呟くと、偲は膝を抱え顔を伏せた。
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