(2)
「シノブさんは、平和なところから来たのかもしれませんね」
「へ?」
「だから、そんなに優しいのかもしれない」
目を細めて彼女を見るその眼差しはどこか嬉しそうだ。
最果ての下民。みすぼらしいガキ。視界に入るだけで苛立った顔をする奴等もいた。
(彼女から、そんな罵倒の言葉は一言も漏れたことはない。泣きそうな顔でアスタと自分に回復薬をくれた時、どれ程嬉しかったか)
「なんだか、母親みたいだ」
「えぇ!?私まだ20代だよ?」
「雰囲気が」
「そ、そう…(所帯じみてるとか?)」
「あの…オレとアスタとシノブさんが試験に合格して魔法騎士団に入るなら。シノブさん、どっちに着いてくる─?」
「は…」
「どっちかと一緒にいたら、安心するかなと思って」
「おぉ、なるほど!」
無邪気に考え始めた彼女は気づかない。アスタとユノが合格する前提で話が進んでいることを、彼がどれだけ歓喜してるかを。
「ぶっちゃけると、アスタ君だな。安心というか…怪我してばっかりなんだもん!」
「監視ですね」
「二人とも一緒が一番安心なんだけど…」
「「ライバルだから」」
「…ね?」
「ふふっ、はい」
お互いの肩をくっつけ合いながら、二人は会話を続けた。
「二人とも助けるし、友達?でいたいけど…もしそうなったら、アスタ君にくっついていくね?」
「分かりました。──ただ、オレは。俺達は。もうシノブさんを家族のように思ってます」
「うん」
「だから、不安なら言ってください」
「うん。ユノ君もね」
「分かった」
「……ねぇ、ちょっとお姉ちゃんと」
「イヤだ」
「即答かぁ〜!」
笑いながら話は終わり、ユノも微笑みながら立ち上がった。
「じゃあ試験で会いましょう。姉さん」
「そうだ、ね…ユノ〜!」
「おっと」
「何で逃げるのさ!?」
「これも特訓」
「マジか!」
じゃれあいながら二人は教会の周りを駆け回る。途中で子供達が合流し、鬼ごっこに移行したそれは、誰もが笑顔だった。
「さて、やりますか」
偲は森の中で魔導書を開いた。じっくりと中のページを見たことが無かった彼女は適当に捲ってみる。
「白紙、白紙、白紙…ん〜、おかしいな」
代々伝わる魔導書であるはずなら、以前使用した形跡があると踏んでいた予想は外れた。偲が出したことのある呪文以外、どのページも白紙。インクの掠れすらない。
「何でだ?」
どうやらこの魔導書は、知ってる魔法や呪文を使うと自動ラーニングするらしい。
「オリジナリティ出せよ!お前の呪文が見たいんだよ!」
「本当に?」
「そりゃ…は?!」
自分以外誰もいないはずの場所から声が聞こえて、彼女は辺りを見渡しビビる。
「魔導書を見ろ」
「え?」
「やぁ、新しいご主人様」
「う、」
「…う?」
「胡散臭い」
「本から生える生首に大層なご挨拶だな」
「だって!だって!」
「分かった。ビビらせて悪かった。手汗すごいぞアンタ」
「ベチャベチャにしてやる」
「止めて〜!お願いだから止めて〜!」
暴れる生首に汗を擦り付けながら偲は顔を見た。
「イケメン滅べ」
「いきなり罵倒!?…お?もしやオレ、アンタの好み?」
「いや肉体美を見ないことには…筋肉が無いと話にならん!」
「そ、そう…」
ムキムキ!マッチョ!そう叫ぶ偲に魔本の悪魔は若干引いていた。
「で、悪魔さんや。見せてくれないの?」
「あ゛?」
「貴方の魔法。見たいな私」
「は──」
「あ、仲良くもなりたい。何で本の中に居るの?一人で寂しくない?ていうか君の本の置かれ方雑だったよ!?本棚の裏とかゴキブリ湧くじゃん!」
ありえない!と叫ぶ彼女は想像したのだろう。両腕を擦っている。
「いやアンタ」
「あ、ごめんね。私は天池偲って言います。字はこうね。違う世界から来ました。貴方の名前は?」
「はぁ?……いや、はぁっ!?」
悪 魔 は 混 乱 し た。