(3)
「なるほどなぁ…」「ねぇ…」
「波乱万丈過ぎねぇ?」
「デスヨネー」
事情を話すと悪魔は混乱から立ち直ったが、そのまま頭を抱えてしまった。
明らかに面倒くさそうにしている。
(何か企みでもあったのだろうか?)
「勝手に名乗ってくれたし、楽に乗っ取れると思ったんだけどなぁ…」
「うわっ、案外悪だね」
「おう。だから騙されてこんな魔導書に閉じ込められて、懲役終わるまで人間に使役される羽目になってんだよ」
「なるほどなるほど、君が呼んだんじゃないんだ?」
「そうだ。あ゛あ゛あ゛ぁ!面倒だなぁっ!!因果の断ち切りに、魂の構築も半分だけなのをどうにかしないとだし」
「え?半分?」
「何かアンタ曖昧な感じになってんだよ。こう、ふわふわとだな。だからどこかにあるアンタの魂を引っ張って来て此方側の物にしないと」
「料理の手間暇かけるみたいだね」
「それな」
指があればビシッと指されていただろう。我が意を得たりと頷く悪魔を偲は観察する。
「皆食べちゃうの?」
「あぁ、腹が減るからな。魔力も頂くが、何より堕ちた魂が一番旨い」
「へっ!ぼっち乙!」
「その言い方何か腹立つ」
「ふふふっ」
「あんだよ?」
「お互い大変だね」
「まぁな」
「ねえ。今一番何がしたい?」
「…いきなりなんだよ」
「いいから」
「……外に。外に出てえなぁ」
「じゃ、いいよ」
「え?」
偲は顔を抱き締める形で引き上げる。
悪魔は首、二の腕の出た辺りで両の腕をページから引き抜いた。その手を彼女が引く。
羽、胴体、腰に両足の爪先までが引き抜かれた頃には、偲はすっかり消耗していた。
悪魔の現界に魔力をほとんど持って行かれたからだ。
「お前、何で…」
「え?だって、たまにはご褒美あった方が頑張れるじゃん」
「!?」
「あぁ〜…風が気持ちいい…疲れた……」
「─馬鹿だなあお前」
「うーん」
「オレが自由になると大変なことに」
「知るかよそんなこと。いいからおいで。寝っ転がると気持ちいいよ」
「…」
一歩一歩、地面を踏み締めて。彼は偲の側に来た。
風が前髪を悪戯に弄ぶ。見上げた空は青く、どこまでも広い。
「…お前、やっぱ馬鹿だろ」
悪魔は彼女を見下ろす。
偲は魔力を使いすぎて気絶していた。額には汗を掻いている。熱が出たのかもしれない。
目を瞑ったまま動かない偲にため息をついた後、彼は魔力を戻した。
「ぐっ…!」
偲の状態は安定したが、魔導書から出てきた鎖と枷が悪魔を拘束する。
彼は舌打ちしつつも身体に繋がれたそれを享受した。
「ん…」
「おう。おはよう」
「おはよ…」
「テメェ、加減が分かんないのに無茶してんじゃねぇよ」
「うん、ごめん…」
「ったく、忌々しい鎖と枷がまた付いちまったじゃねえか」
「え、えぇ!?首から下そんなことになってたの!?」
「そうだ。ちなみにまだまだ増えるがな」
偲の側で寝転んでいた悪魔の右手首と右足首には、光を放つ拘束具が付いていた。
「これが解けるのは契約者かご主人様だけだ」
「契約者?ご主人…?どう違うの?」
「ご主人様は魔導書の持ち主兼以前のオレの餌共。契約者はオレを騙して封印したクソッタレさ」
「…そう。じゃあ契約者に解除してもらうのが一番速そ」
「駄目だ」
「え?何で?」
「その気は無ぇからさ。後何年待てばいい?最初の何百年は提示された条件下で柄にもなく真面目にやってたさ。だが与えられた期間を満たしても奴は来なかった!だから力尽きる前にオレは魔力を、名声や地位を持ち堕落した魂を食った。自由になりたかったからだ!存在が保てなきゃ意味が無い!でも、何人の魂を食おうが奴は来なかった」
「そんな…」
「もうオレのことなんて忘れてんのさ」
「無責任だね」
「あぁ、非道い話だろう?」
「うん」
そっと、偲は悪魔の髪を撫でた。