(4)

「おい触んな。ナメてんのか」
「いや全然?」
「なら止めろ、ってオイ!」

偲は逃げようと身体を起こした悪魔の膝の上に座り込み、胴体を背凭れにした。

「重いんだよこのデブ!」
「うるせぇ引きこもりぼっちニート。三重苦とかマジかわいそう」
「い、いきなりガチトーンやめろ…」
「でも、私と友達になったら一人じゃないよ?」
「は?」
「友達出来たら外にも出れるし、魔法見せてくれたらニート脱却だよ?おすすめの物件かと思いますが〜?」
「…」
「ねぇ、名前は?」
「──っ!」
「友達の名前知らないなんて、おかしいでしょ?」
「…好きに呼べ。無価値なオレを生まれ変わらせろ」
「何で上から目線?うーん…じゃあ、アルで」
「─どうしてアルなんだ?」
「外国の言葉で"argent(アルゲント)"は銀色って意味なんだ。貴方の髪の色と一緒!それから取ったんだけど…駄目かな?」
「ふぅん。まぁクソ野郎よりは響きがいい」
「いや比較対象が酷いよ!?」
「じゃあ今日からオレは"アル"だ。よろしくな、偲」
「うん!よろしく!」

ニコニコと笑う偲に邪気が抜かれる。

(まったく、仕方ねぇな)

七つ葉の魔導書に棲む悪魔アルは、太陽の光に髪を輝かせながら答えた。

「で?どんな魔法をご所望かい?」
「いや、魔法が使われないところから来たから…じゃあ軽めなやつを」
「おう。"天降(あも)りつく光よ。大地を見下ろす雷光よ。我が傍らに依りて、暫し力を貸したまえ"」

二人の頭上に何処からか暗雲が発生すると、アルの隣に雷が落ちる。

「うわぁっ!?」
「大丈夫だ。よぉーしよしよし、久しぶりだな」

魔力により雷から形作られた狼犬が、アルの手に鼻先を擦り寄せている。

「オレの使い魔だ。流し込む魔力によっては身体を大きくしたり、呼び出す数を増やすことが出来る」
「すっげぇ…かっこいい…!」
「今のオレのご主人様だ。…前のとは違う。分かるよな?」

喉を鳴らした狼は、尻尾を振りながら偲に突進した。

「うぶわぁっ!?…あははははっ!くすぐったいくすぐったい!」
「クゥン…」
「あはははっ!あひっ、もうダメッダメッ!そこは…うくくっ、あぁんっ!」
「おい止めろ馬鹿!」

魔力は散逸し、狼は姿を消した。
首筋を舐められていた偲は身体をびくびくと震わせている。

「悪りぃ。アイツ、久々に喚ばれたからはしゃいでたみてぇで」
「だ、大丈夫…笑い死ぬかと思ったけど」
「すまん…」

彼が取り出した布でゴシゴシと魔力の痕跡を拭う。
舐められ続けるような感触が消え、偲はほっとした。

「これで顔合わせが済んだな。アイツに気に入られるとは…幸先が良いな」
「本当?嬉しいな。私も呼べるかな?」
「たぶんいけるだろう。今度はオレの魔力は込めねえから、偲だけの魔力を呪文に込めな」
「や、やってみる。えーと"天降りつく光よ。大地を見下ろす雷光よ。我が傍らに依りて暫し力を貸したまえ"─!」

雷は彼女の右隣に落ちた。
土煙がもうもうと上がり、視界が遮られる。

「あれ?おいで〜?」
「グルルゥ…」
「お、成功だな」

煙が収まり現れた狼に、偲は顔を綻ばせた。

「群れの長であるコイツを喚べたなら、他のも大丈夫だろう。あと二十九匹?くらいいるけど、そこは追々だ」
「そんなに?!」
「あぁ。アンタの魔力の器をでかくして、コントロールもつけさせないと危険だから今回は無理だが」
「目指せ!もふもふ天国!」
「…やる気があって何よりだ」

くすりと、アルが笑う。

「ちなみに彼に名前はあるの?」
「無いが…確かガルムって呼ばれてたな。あれ?ケルベロス?フェンリルだったっけ?」
「ハァ!?」
「元は凶暴だから、喰われなくてよかったな」
「ほんとそれな!?」

偲は今日一番の同意を示した。
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