(2)
その場に蹲る偲。
彼女のその姿にも嘲りと批判の声が掛けられた。
試験監督の魔導士が代えの箒をどうするか指示を仰いでいるのが聞こえる。
(酷いことするなぁ暇人め)
折れた箇所を撫でながら、彼女は唱えた。
「レパロ」
傷など無かったかのように元の状態に戻る箒。
彼女が立ち上がりその様子が明らかになると、周囲からは困惑の声が漏れた。
「えっ?何で?」
「確かに今…折れてたよな?」
「直したの?木属性の魔法かしら?」
ざわつく会場を尻目に、彼女はスッと胸の高さの位置に手を伸ばす。
「上がれ」
吸い込まれるかのように箒は彼女の手の中に収まった。
跨がる前に座る箇所にクッション魔法を使う。
(これでケツが痛くない)
悠々と、自由自在に箒で飛び出した偲に、一部を除き誰もが驚愕の表情を浮かべた。
幾人か偲を地面に叩き落とそうと突進する輩もいたが、難なく避けたため事なきを得る。
「いやっほぉ〜っ!」
(アスタ君はアスタ君らしくしていれば大丈夫。私は自分の心配をしないと…)
フッハ!と笑う声が聞こえたが、偲は敢えて近づかなかった。
第二の試験は魔法攻撃力を見るために、的として作られた壁を破壊することに。
「何がいいかな…」
《好きにやれよ。アンタの自由だ》
「うーん…《選択肢が多いというのも困るものだね》」
魔力を用いての念話をアルとしながら、偲は呪文を唱えた。
「黄昏よりも─」
《待て待て待て!そんなもん唱えたら皆消し飛ぶぞ!?小規模、小規模な範囲のやつ!》
《子供の頃からの夢でさ、唱えてみたかったんだよ…分かった。簡単なやつにしよう》
《そうしてくれ》
「…レダクト!」
その一言で壁は木っ端微塵に粉砕され、様子を見ていた両隣の受験生は無言で離れていった。
第三、第四の試験もそつなくこなした彼女は最終試験へ挑むことに。と、その前に。
「…ユノ君」
「どうした?シノブさん」
「緊張しちゃって…ちょっとトイレ行ってくる」
「試験監督の魔導士にも伝えてくださいよ?」
「はーい」
緊張でトイレが近くなった偲は、試験監督の魔導士に伝えてから会場を抜け出した。
「はー…」
《大丈夫か?》
《吐きそうですね》
《回復魔法使える魔導士もいるし、なんとかなるだろうさ。受かんなくてもオレがいる。大事なものは護れるさ》
《そうだね。でも、貴方と頑張った結果を此処で出したいなとも私は思ってるんだ》
《…そうかよ》
だから余計緊張するのかも。と笑う偲にアルも笑う。
《なら、こんなところで閉じ籠ってないで行かなくちゃな》
《うん!…あれ?》
《どうした?腹下したか?》
「扉、開かないんだけど」
《悪戯してる?》
《そんなことしねぇって。…閉じ込められたなこりゃ》
「えぇぇえええっ!?誰かいませんかぁー!」
《いても犯人だろうがな》
「どうしよう、このままじゃ最終試験に間に合わないよ!」
試験監督の魔導士が騎士団長の側に歩いていくのを、ユノは横目で見ていた。
あれから20分以上が経過し、最終試験までの試験が終わった受験生達から不満の声が上がり始めていた。
「いつまで待たせるんだよ」
「一人のためにとか、特別待遇じゃない?」
「七つ葉の魔導書だからって、最果て出身じゃ、ねぇ…?」
「逃げ出したんじゃない?」
魔法騎士団長達も事態が掴めずにいた。
「カッ!敵前逃亡するやつなんざ、騎士団には要らねぇなあ!」
「ふむ…」
「それが真実ならば、だが─」
「長ぇウンコじゃね?」
「汚らしいぞ貴様!」
「でも、マジでただの便所なら、あんまり騒ぐと恥ずかしくて出てこられないんじゃね?公衆の面前で下痢してましたとか自己申告すんの拷問だよ、拷問」
「…なら、彼女の順番は最後にしようか」
「そ、それが妥当だな」
方向性が決まり、騎士団から受験生全員に通告される。
試験開始を喜ぶ声の中に舌打ちが紛れたことを、団長達は気づかなかった。