(3)
「おいスマホとやらを弄るな」
「だって出れないし…証拠を保存しとこうと思って」
「カメラついてんのか?」
「そう。鍵は開いてるけど出れませんよ〜ってところを」
「ふぅん」
「あ、まずアルと撮ろう。ここ見て」
「おぉ?」
カシャカシャとシャッター音を響かせるこの空間には誰も来ない。
外側は防音されているのか、空間ごと隔絶されているのか分からず。扉に蹴りを入れる偲。
彼女は魔法を使うことを躊躇っていた。
「どう思いますか?アルさんや」
「試験の妨害が騎士団側から行われるとは考えにくい。それなら最初から会場に入れないようにすればいいからな」
「じゃあ、同じ受験生達からの妨害が一番可能性が高いね。高度な魔法使えそうな人はいた?」
「いたにはいたが…受験生に空間ごとどうこう出来る奴はいなかったな」
「よし。なら大丈夫だね」
「えっ?」
「ボンバーダ!」
扉と、その前に積まれていた大きな岩は爆発し吹き飛ぶ。
瓦礫と埃にまみれながら、偲は立ち上がった。
「うぇっほっ!ゲホゲホ!…うわぁ」
「見張りがいたのか」
騎士団の魔導士の格好を真似た男が、瓦礫に埋もれ伸びていた。
「はい、チーズ」
「ハハハ!よく撮れたな」
証拠となる写真を撮り終えると、偲は会場に急いだ。
(あ、でも女子トイレに放置はまずいか)
「…」
「来ないなぁ、彼女」
「やっぱ尻尾巻いて逃げ出したんじゃねぇのか?なぁ、ヤミ?」
「…さぁな」
最終試験は最後の一組だけ。
彼女が試験を受けるには、もうこの場に立っていなくてはいけない。
騎士団長達は、七つ葉の魔導書がどのような魔法を駆使するのかをじっくり見るために、彼女を最後の順番にしたのだ。
「…仕方がない。彼女は後日騎士団員に探させ」
「遅くなってすみません!試験はまだやってますか!?」
「「「!」」」
「やっと来たか」
息を切らせながら、会場に駆け込んできた彼女にヤミは笑う。
時間ギリギリになって、偲は試験に間に合った。
「随分便所遅かったな?腹下したか?」
「いいえ。個室の入り口を岩で封鎖され、穏便な解決方法を模索していました。結局みんな吹っ飛ばしたましたけど。この人が見張りとして立っていました」
ズリズリと引き摺りながら彼女が連れてきた男の姿に会場は騒然とした。
「な、何でそいつが此処に…」
「あれ、知り合い?」
偲の対戦相手は、自分の足元に放り投げられた男を見て顔色が悪くなる。
「騎士団の魔導士さんかなとも思ったけど、違うみたいだね」
《アルの言ってた通りだ》
《だろ?》
「──お、お前みたいな下民が七つ葉の魔導書を持っているのはおかしいからだ!」
「はぁ?」
男は震える手で偲を指差した。
「だから、だから…!」
「お前会話のクッション言葉に下民入れないと喋れないの?」
「えっ?」
「魔法を国民のために、国を護るために奮うのが魔法騎士団なんじゃないの?恥を知れ。お前のちっさいプライド云々の話に、下民が、騎士団が何の関係がある?」
「な、なに…」
「断言する。貴方の器は"下民(それ)以下"だ。下民を見下してる人の方がよっぽど下民ってるとは…お家の代表として立つ気無いの?おもしろ」
《おぉ、煽るねぇ〜》
対戦相手の男は侮辱に震えていた。身なりからして良いところの出なのだろう。
徒党を組んで偲を陥れようと画策していたのが白日の元に曝された彼は、きっとどの魔法騎士団にも入れてもらえないだろうことは確実だった。
「お前、ぉ£+sh※vzな仝¢ぁあ─!」
「おい!開始の合図は…!」
「いいよ。そのまま始めて」
「え…は、始め!」
半狂乱で魔法を放ってきた男。
氷の刃の数々が偲に向かって飛んでいく。しかし、彼女は動かない。
「"ギガ・ラ・セウシル"」
「ぎゃぁああああっ!!!?」
小さな呟きと共に。透明な半円形状のバリアが対戦相手と、そいつが放った魔法を包み込む。
バリアに氷の刃が触れた途端、魔法は術者に跳ね返った。すれすれに刺さる刃の数々に、対戦相手は失禁し気絶。
「おもしろすぎて笑いも出ないわ」
どこまでも、相手を見下ろす偲の視線は冷たかった。