06


《くっそぉ…魔法でグーパンしたかった》
《残念だったな》



気絶から目が覚めた偲は念話でアルに愚痴った。

石造りの部屋は彼女に割り当てられた場所なのだろう。夜の帳が下りた暗い室内を古ぼけた燭台に灯った明かりが照らしている。
それを頼りに、数少ない荷物が床に置いてあるのを彼女は見つけた。

《あの明かりはアルが?》
《いや、さっきまで様子を見に来ていたあの…酔っぱらいで露出してた女が》
《へぇ〜…何か用事だったのかな?》
《身体の調子は?》
《少し頭が痛いけど、それ以外は大丈夫》
《よし。それにしても無茶し過ぎたな》
《うん……そうだね。魔力量増やすのと配分をもっと気をつけなきゃ》
《それもそうだが、逃げたっていいんだぞ?》
「え?」

突然の言葉に偲は思わず声を漏らす。

《七つ葉だからと、今後戦いを強要されることが出てくるかもしれない。今回は入団試験のために軽くで済んだが、敵国との戦闘では気絶したからといって攻撃を緩めてくれる訳ではない。生かされても、拉致や魔法の実験体にされる可能性だってある。これからは命のやり取りだ。死がテメエの喉元に喰らいつこうと、あの手この手で襲い掛かってくる》

魔導書から上半身だけ現界したアルは彼女の首元に手を伸ばす。
我が子を慈しむかのように、獲物を味見する獣のように這う彼の手は。

《そうか…死ぬのは怖いなぁ……》
《だろう?》
《でも、目の前にいるのに、助けられないのも嫌だなぁ》
《─逃げないのか?》
《逃げるときは逃げるよ。でも、どうしても逃げれなかったら。そのときはアルに頼むよ。ヘルプミーって》
《だいぶ軽いなオイ》
《そう?私結構抱え込むタイプだから、その時が来たら大変だぞぉ》
《へっ、上等だ》

彼女の髪を梳いて離れていった。
魔導書に引っ込んだアルに偲は語り掛ける。

《頑張って、アルをずっと現界出来る様にもならなくちゃね》
《周りにどう説明する気だよ》
《え?普通に友達だけど?》
《……あっそ》
《何その態度〜?》
《そういうの、取れたネズミのバナナ山椒とか言うんだろ?》
《捕らぬ狸の皮算用!どういうことなのその状況…》
《通じたんだからいいだろ!》
《はいはい》

くすくすと笑い終えた偲は横たわっていたベッドから体を起こした。
倦怠感はあるが、話している間に眠気は去ってしまっていた。
水を飲もうと立ち上がろうとしたその時、轟音と共に部屋ごと揺らされたような振動が彼女を襲った。


「なに!?地震!?」
《違う。凄い魔力だ…外に出ろ》
《わ、分かった》

急いで外に出た偲の目に入ったのは、巨大な水球に捕らわれている少女と。

「今ここで限界を超えろ」
「ふんがぁああああああああっ!!!」

空に向かって投げられたアスタの姿だった。

(何してんのーーーー!!!?)

「お。起きたか」
「アスタ君っ!!」
「あっ!シノブさん!!」

魔導書から箒を取り出した偲は二人を回収しようと飛び出す。
空中でキャッチしたアスタは嬉しそうに笑った。

「あの子も…っ!」

すぐさま箒の先を地面に向けて直下降する。
しかし、一度減速してしまったため、中々少女を掴むことができない。
このままでは彼女が地面に激突するのは目に見えていた。

(落下スピードのほうが早い…!)

「フィンラル先輩ーー!後はお願いしまぁあああす!!」
「えぇーーーっ!?!?」

アスタを抱えた偲は箒から手を放し、柄を踏み台にして宙に飛び出した。

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