さよならラッキーストライク(3)
「そろそろだな」「はっ、はい!」
「そんなに緊張すんな。ゆるく行こうや」
「が、頑張ります」
偲の言葉に頭を掻きつつ、ヤミは大きな扉の前で告げる。
「黒の暴牛団団長ヤミ・スケヒロ。七つ葉の魔導書所有者シノブ・アマチを連れてきました〜」
「よかろう!入るがよい!」
《うぅ…やっぱり緊張する。人見知りだもの》
《背筋を伸ばせ。偉そうなだけだ。作戦通りに行けば問題ない》
念話でアルと会話しながら自分を鼓舞し、偲は謁見の場へと足を踏み入れる。長く伸びた絨毯の先にある玉座にその男はいた。
輝く王冠。櫛が通され整えられた髭。──王族の威光を見せようとふんぞり返る、濁った水に腹を向け浮いている魚のような眼をし、かぼちゃパンツを履いた中年男性が。
《残念な感じがプンプンするのは気のせいだろうか》
《安心しろ。俺もだ》
「よくぞ来たな。七つ葉の魔導書に選ばれし者よ!余はアウグストゥス・キーラ・クローバー13世である!」
「初めまして国王様。シノブ・アマチと申します。このたびは謁見の期を与えてくださり、誠にありがとうございます」
「お主が持っている七つ葉の魔導書は、我が国に伝わる伝説級の宝といてもいいほどの物。無事王宮に着き一安心である。今夜は魔導書を一目見ようと近隣の王族や貴族が集まっておる。ぜひとも奇跡の御業を見せてくれ」
《無い頭で考えたようだな》
《どういうこと?》
《お前の生まれ育ちに触れずにこの謁見を済ませようって魂胆だ》
《なるほど》
念話を終えて、しおらしい態度で国王に見やる。
「しかしながら私は異国からきた身。国王様の期待に応えられるでしょうか…」
「な、なぁに、簡単な魔法を見せてくれるだけで良いのだ。まぁ?この国の権力がこの場に集まるのだから?緊張するのも無理は無い!!」
すぐ返答が来ないことにイラついたようだが、自分の元に集まる権力者達を想像してか。にやけ笑う国王クローバー13世。小さい目がさらに小さくなり弧を描いている。
「では、これより」
「へっくし!」
「ゴ、ゴホン。これより」
「ぶぇっっくし!!すみません」
「……落ち着いたかね」
「はい」
「よ、よし」
「あ!」
「今度は何だ!!?」
自分の言葉を阻まれること数回。本題に入らせろと叫びたくなるが、手紙に書いてあった条件の一つを思い出し耐える。
”一つ、緊急時を除いて七つ葉の魔導書保有者へ命令することを禁ずる──”
(ぐぬぬ……何故ワシが異国民なんぞに気を使わねばならんのだ)
苛立ちを押さえた国王は、異国民の話を聞こうと姿勢を正す。
何とか七つ葉の魔導書保有者をこちら側に抱き込まねば。
しかし、彼はもう偲に呼び掛けることはできなかった。
「しょえっ」
間抜けな声を残し、一瞬のうちに玉座から掻き消えたからだ。
突然の身体を張った一発芸に、その場にいた人間は笑いをこらえきれず吹き出した。
「「「ぶふぅっーーーー!!」」」
作戦は成功。自滅してくれた国王様のおかげで、彼女はその場で魔法を使うことなく局面を乗り越えた。
《コマ送りにした映像がこちらになります》
「はっはっはっ!!」
「は?????もうだめ無理」
笑い過ぎて泣きつつも、側近や衛兵たちは偲に警戒する姿勢を見せる。しかし、一人また一人と笑いながらかき消える人々に、アルは大層ご機嫌だった。
手紙での”契約”の際、偲に敵意を向けるものは須らく退出と書き込んだのは彼である。特殊なインクのそれは、紙もしくは羊皮紙が折りたたまれた際に”契約”の効果を発揮する。レ点チェックも要らない。魔力もいらない。魂との結びつきに関する、本来悪質な取り立てに使う物も、内容が変わればかわいいものだと彼は思っていた。