異端の魔導書
「よし。シノブお姉さん、だいぶ魔法の使い方上手くなったね」「やった!先生達の教えかたが丁寧だからだよ」
「そ、そう…?」
「うん。ありがとうナッシュ君」
教会に保護されてから数ヵ月。
偲は魔法の使い方がまるで分からず、日常生活の手伝い等が出来なかった。
しかし、それを見た周りの子供達が、優しく少し得意気に教えてくれたおかげで、魔力があったらしい彼女は魔法を使えるようになってきたのだった。
「アスタ君!筋トレ付き合って!」
「いいッスよ!」
「毎回思ってたけど、シノブお姉さん身体鍛えてどうするの?」
「デブ予防と自衛のためだよ。魔法は使い慣れてないし、いざという時に攻撃くらい避けれるようにしとかなきゃ」
「ふーん…」
自衛と教会の皆を守るため。
今日も偲はトレーニングに励もうとしていた。
「シノブさん」
「あ、シスター」
「はい?何でしょうか?」
アスタと二人、森の中で筋トレしようとしているところを呼び止められる。
「今日はこれから、アスタとユノの魔導書(グリモワール)授与式があるの」
「グリモワール…あぁ!主役の二人が遅れたら大変だ!」
(二人が貰うの今日なんだ)
厳しい冬が終わり、蛍タンポポが舞う季節。
年に一度、全国各地で齢15歳の若者達に持ち主の魔力を高める魔導書(グリモワール)の授与する儀式が行われる。
教会ではアスタとユノが該当の年齢だ。
場所は恵外界と平界の境目付近の村。シスターは子供達と一緒に遠出しなくてはいけない。
「もうそんな時間か。でも、全員行ったら教会に誰か来るかもしれませんし…私、留守番しときます?」
「「「え〜っ!!?」」」
「クスクス。いえ、貴女も一緒に行きましょう」
「…ですね」
可愛らしいブーイングにシスターと偲は微笑み、出掛ける準備を始めた。
≪ようこそ受領者諸君─≫
≪今日からそれぞれの道を歩き出す君達へ…≫
≪『誠実』と『希望』と『愛』を…!≫
授与式が行われる建物である魔導書塔は、多くの人でごった返していた。偲やシスター・教会の子供達以外にも、参加者の関係者が見守っている。
偲達は進行の邪魔にならないよう、離れたスペースで立ち見していた。
(喋ってるお爺さん、ダンブル●アみたいだな)
いやマジで!とシャウトするお爺さんはなかなかファンキーそうだ。観察していると、周囲が俄かに明るさを増した。授与が始まったのだ。
魔力によりひとりでに動き出した数々の魔導書は、宙を浮くと選ばれた参加者の手に次々と納まっていく。
教会の子供達もその光景に目を奪われていると。
「あの〜…」
「うん?」
「魔導書、来ないんスけど」
塔内部は爆笑に包まれた。
「…」
最果ての奴はどうのこうのと揶揄されているアスタ。
最果てにいるからが理由ではない。出生や境遇なんて選べない。
彼が夢に向かって努力しているところを直に見ていた偲は顔が徐々に険しくなる。
対してユノは四つ葉の魔導書を授与され、畏怖と羨望の眼差しを浴びている。
そんな中、魔導書を授与されたことで調子に乗った馬鹿がアスタに絡もうとしていた。
「田舎者が分を弁えずにノコノコ来るからさ」
「…チッ」
「お、お姉さん?」
「ごめん何?ちょっとアイツとっちめてくるから後にしてくれるかな?」
関節をバキバキと鳴らす。
「でも、シノブお姉さんの魔導書が」
「……ハァッ!?」
背中が安定しないと思っていたそれは、背凭れにしていた朽ちた本棚が揺れていたせい。
背中を離すと、本棚の間から淡く光る魔導書が彼女の傍らにそっと寄り添った。
「いや、先にアスタ君の持ってこいよ」
それに対し、偲は冷たくツッコミをいれた。