(6)


深夜。食屍鬼街には雪が積もり、彼等が溜まり場にしている家にもすき間風が入る。
肌寒さを感じたスピードワゴンは辺りを見渡した後、刺青に声を掛けた。

「嬢ちゃんはどうした」
「飯食った後アイツの看病に行ったぜ。…そういやまだ戻ってこねぇな」
「ちと様子を見てくる」
「あぁ」

この街に"普通の子供"はいないが、大抵ガキは寝る時間だろう。
ぼろっちいが部屋の機能は果たしている部屋に着くと、ドアをノックする。
返事をしたのは、高熱を出して安静が必要だったはずの男の声だった。

「お前…起きてて大丈夫なのかよ!?」
「しーっ、声がデカイですよォ」

朝見た時よりも体調良く過ごしている様子に、ほっと胸を撫で下ろす。
ベッドに横になる男の側には、探していた少女がいた。

「さっきまで甲斐甲斐しく世話してくれて。疲れて寝ちまったみてぇです」
「そうか」
「寝落ちる寸前までタオルを、水に浸してくれて…」

安らかに眠る少女を見る目に、涙が浮かぶ。
食屍鬼街では一日一日の生活が命懸けだ。徒党を組み、相手の身ぐるみを剥ぎ、命を奪う。
貴族に諂い、運良く食い扶持を繋げられたら御の字。
仲間がいない奴も、善良な奴も、得した奴も、恨まれた奴も死んでいく。汚い街だ。
どこから来たのか知らないが。損得勘定も無しに”こんなこと”をするなんて。

「なんてバカなお嬢さんだ」
「オレは神の使いかと思ったぜ」
「天使か」
「違いねぇ」
「こんな日は酒が飲みたいぜ」
「あぁ!今日は何て良い日なんだ!」

二人は楽しそうに笑いながら泣いていた。
見返りを求めない、純粋な優しさからの行動が男二人の胸を打ったのだ。
この場にいない他の仲間たちもそうだろう。厳つい顔のムサイ男共が、時間が経つごとに初孫を見るような眼を向けていた。

「──さて…」

一頻り笑い合うと、スピードワゴンは優祈を起こさないように抱き上げる。
よほど疲れているようだ。傍で騒いでいても少女は目を覚まさなかった。

「お姫さんに失礼のないようにな」
「…本当にどっかの公女かなんかだったら、どうする?」
「物知らずの平和ボケって感じの雰囲気だが、命の恩人だ」
「なら、やることは変わらねぇな。起こさねぇよう俺の部屋で寝かしてくる」
「そうしてくれ」

男は肩をすくめる仕草の後、さっさと横になってしまった。
清潔になった部屋を、月明かりとランプの明かりが温かく照らしていた。


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