(2)



[シーザー視点]

最近名前の様子がおかしい気がする。
いつからかは覚えていないが、確かに何かが変わった。
生まれつき体が弱い彼女が、必死に先生と修行をしているのを俺は見てきた。

前より断然動きも良くなった。
波紋の威力も上がったし息切れもしなくなってきた。
そして

「綺麗になった…」

そうだ。綺麗になった。
先生との修行内容を知らないが、それをこなす度に彼女は。
だが、何故?

「ジョジョが来てから?」

自室に俺の呟いた言葉が響く。

(名前がジョジョに片想いしている…?)

そう考えてハッ、と頭を振る。

「有り得ないな」

なぜなら名前はジョジョの妹だからだ。
ジョジョもそれを知って世話を焼いているし、彼女も兄としてジョジョを慕っている。

「なら、誰だ…?」

名前が片想いしていると仮定して、それをジョジョに相談していたら?
だから最近すぐジョジョに話しかけているのも辻褄が合う。辻褄は合う。…が。

「なんで俺じゃないんだ」

相談してくれたら、俺の方がきっと良いアドバイザーになれる。
イタリアではずっと一緒にいた筈なのに。悔しいが、俺はジョジョに嫉妬心を抱いた。
ジョジョもジョジョだ。何で俺に教えない。
どこの馬の骨とも分からない男に名前を渡したくないのは、お前も一緒だろうに。

出会ってすぐだった。彼女に、恋に落ちたのは。

「名前…」

ベッドに横たわり目を閉じる。
わざわざ寝る前にお疲れ様と俺に話しかけてくれたり、熱心に波紋の特訓を頼んできたり。
健気で家族思いで、何事にも一生懸命な彼女が。


「好きなんだ…」


俺を選んでくれという気持ちと、彼女の幸せを願う気持ちがグルグルと渦を巻いて止まらない。
そういえば最近、彼女と必要な会話しかしていない。
俺はため息をつき、明日名前にそれとなく訊いてみることにした。


──翌日。
今日は名前が休みとスージーQに聞き、外出した名前の後を追う。
そして見覚えのある背中に声をかけた。

「やぁ名前、今日はスージーQと一緒じゃないんだな」
「えぇ、まぁ。あの…それじゃあ」
「え?あ、あぁ…」

機会を逃してため息が出る。
何よりもショックだったのは、彼女が俺を見て、ろくな会話も無しにすぐ去って行ったことだった。
心に隙間風が吹き込む。
俺と居たくない理由でもあるんだろうか…。

(まっ、まさか!)

「これから好きなヤツに会いに行くんじゃあ!?」

横を通り過ぎたシニョリーナを驚かせてしまったが、今一番大事なのは名前だ。

「見極めなくては…っ!」

彼女にふさわしい相手かどうか、このシーザー・A・ツェペリが判断してやる!
そして俺はこっそり名前の跡をつけたのだった。









「嘘だろ…」

名前は誰にも会いに行くんじゃあなかった。
一人寂しくベンチに座り、身じろぎ一つせず空を見つめていた。
見守っていると何度か男に話しかけられていたため、俺が斜め後ろで睨んで牽制すれば、ナンパしてきた相手はそそくさと立ち去った。フンッ!骨の無い奴らだ。

そんなことをしていると、もう夕暮れ時だ。

…話しかけるのが、憂鬱だ。
今日彼女は、言いたくないが俺を遠ざけた。
慰めたい…どうすればいいんだ。

「こんなに好きなのに」
「…誰をだ?」
「!?」

その囁きを、俺は聞き逃せなかった。
彼女が振り向くと、斜め後ろの階段に腰かけた俺に気づく。

「な、なんっ!?」
「名前」

名前は俺が口を開く前に急いで立つと謝る。

「ご、ごめんなさい!迎えに来てくれて…ね、寝てたの!今帰る!」
「そうか。なぁ名前」

俺が口を開く度に急いでまた謝る。
そんなこと。

「気にしていない。今日名前は休みだろう?それより聞いてくれ」
「城に戻ったらじゃ」
「今すぐ。今すぐがいいんだ。なぁ、名前。なんで」
「やめて!!」

思わず呼吸が止まる。悲痛だった。
その叫びは俺の心臓に、心に、鋭い杭を穿った。

そんなにそいつが好きなのか?
なんで、俺じゃ駄目なんだ。
君のことなら聞くよ、どんな些細なことも。
嬉しいなら分かち合いたい。悲しいなら慰めて笑顔にしたい。

本当はすぐにでも想い人を聞き出し、彼女を待ちぼうけにさせた罪を償わせたかった。
でも。


「き、今日はやめて…お願い」
「…」

これ以上側にいると、俺が名前を泣かせてしまうから。


「分かった。…帰ろう」
「うん…」


城に戻った後も食事が終わった後も、明日の予定を伝えられても。
名前は俺と一度も目を合わせないまま、1日が終わった。



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