ジーンさん4



やる気のない数学教師の声とコツコツと教室内に響くノートをとる音は妙に眠気を誘うものだ。しかも数式ばかりなのだから尚更だと思う。現文や歴史ならその中にのめり込めれば眠くもならないが、数字にのめり込める訳もなくうとうとと船を漕ぐ。数学好きな人はあれなのか、0と1の間に壮大なラブロマンスでも見ているのだろうか。
何気なく目の前の謙也を見れば真剣に数学に取り組んでおり、白石へと視線を移せば口元にシャーペンを当てて先程の私同じく謙也を見ていた。私と白石にとって謙也はとりあえず授業に飽きたら見ると多少の暇を潰せる存在だ。だって見てて面白いんだもん。変な消しゴムを机にぶちまけたり、息吸うようにやってたペン回しにちょっと失敗したら悔しかったのか授業そっちのけでやり続けたり。兎に角面白い。だけど、そんな熱持った溜め息でも吐きそうなくらい、無駄に絵になるような顔で謙也を見なくてもいいんじゃないか白石。だからお前、一部の女子に謙也に恋してるとか白謙超萌えるー!とか言われんだよ。あれ、何にも考えてないレベルでぼんやりしてるだけなんだと知ってるの、このクラスに何人いるんだろうか。
再び視線を、白石が見ている謙也へと戻すと、変な消しゴムで一生懸命擦っていた。絶対消しづらいからそんな気合い入れなきゃなんないんだよ。普通の買えよ。消し終わったのかシャーペンを手に取るとノックする。すると短くなったシャー芯が落ちた。
シャーペンを無言で見つめる謙也。
必死に笑いを押し殺す白石と私。
なんだアイツ、普段狙って笑いとれないくせにこういう時だけさぁぁあ。これだから謙也観察は止められない。そう思って大きく深呼吸をする。


「良かったら、使って」


先に言っておくが、これは決して私ではない。他の男子なら考えるが謙也と白石にそんな優しさを見せるつもりなんかない。
謙也を見れば、私の斜め前、つまり謙也の隣の席の市川さんが控え目にシャー芯を差し出している。当の謙也はまじまじとシャー芯を見つめた後、市川さんの顔を見てからおおきにと礼を言って受け取った。
思わず白石に視線を送ると、白石も私を見ていた。市川さんは小柄でほんわかしている小動物的女子だ。ふわふわしていてとても可愛らしい。そんな彼女は、いつも隣の席の謙也に優しい。
これは、もしや。

(っジーンさんは!?)

考えは同じのようで2人同時に辺りを見回す。そして、ある一点で私は動きを止めた。
教室の後ろのドアが少し開いている。ゆっくりと、視線を足元に移せば、色白でブロンズショートカットの人形が其処に、いた。思わず息を呑むと、人形が此方を見た気がした。青い瞳と目が合った瞬間、ぞくりと悪寒が走る。
人形はそんな私に、ゆるやかに、色気ある笑みを見せ、姿を消したのだった。




(あれは、どういう意味なんだ)

考えられる可能性は、2つ。
1つは市川さんがジーンさんの応援している女の子。もう1つは謙也に近付く邪魔な存在か、だ。後者だった場合、市川さんの身が危ない。
白石へと視線を戻せば、驚きを隠せずにいる様子で私を見つめていた。
あぁ、なんで私、この数分で白石とこんなに見つめ合わなきゃいけないんだろう。

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