ジーンさん6



放課後。ジーンさんについて調べるため、一番人気のないという小春ちゃん情報から第二パソコン室へとやってくると、電気も付いていない暗い室内にちょっと泣きそうになる。人気のないって言っても1人くらいいてよ、やっぱり光くんと待ち合わせしてから一緒に来れば良かった。なんて後悔をしてももう1人で来てしまったし、光くんはまだいない。パソコン室の電気をつけてから一番後ろの廊下側の席に腰掛けると、すぐさまパソコンの電源を入れた。
ジーンさんについて調べると言っても怪談話を調べる方法なんてインターネットくらいしか思い付かなかった。一応じいちゃんにも電話してみたが「知らん」の一言で切られてしまった。あんにゃろう、私が両親と一緒に大阪に行くと言ったときは「じいちゃんちから都内の学校行けばいいじゃろぉぉ」とか泣きついてきたくせに。くそジジイ。
じいちゃんへの怒りを募らせていると、起動音と共にウィンドウが開く。マウスに手をやり、インターネットを開くと某検索サイトが画面に表示された。するとドアが開く音がして顔を上げれば、ヘッドフォンをした光くんが顔を覗かせていた。


「壱加さん」
「早かったね」
「待たせてすんません」


ヘッドフォンを外しながら此方に歩いてくる光くんに、大丈夫と伝えて立ち上がり隣の席へと移動した。だって、授業以外でパソコンをいじらない私より光くんの方が慣れている気がしたんだもん。何となく。光くんも大して気にならなかったのか、はたまた私の意図が分かったのか何も言わず起動しているパソコンの前に座った。


「とりあえず、ジーンさん、怪談で検索してみますわ」
「うん、お願い」


慣れた手付きでタイピングをしていきエンターを押すと、映し出されたのは某掲示板だったり、恐らくうちの生徒が作った個人の掲示板だった。よく見れば最新更新は今日のようだ。意外にあるな、今時まだ掲示板なのか。淡々と光くんがその内の一つを開けば、ジーンさんがどんな風に恋を叶えてくれたのかという実体験が書き込まれている掲示板だった。


「えっと?『私の好きな人の大好物が置いてあって、ジーンさんの噂が本当なんだと思った』『ジーンさんマジやばい、ほんと付き合えた』…こんなんばっかだなぁ」
「……なんや、可笑しくありません?」
「え?嘘、どこが?」


つらつらと書かれているのは私も知っている『ジーンさんは恋のキューピット』であると言うような内容ばかりで、手掛かりといったものは見つからなさそうだと肩を落とした私とは正反対に、光くんはパソコン画面を見つめて呟いた。慌ててもう一度、上から、今度はゆっくりと読んでいくが、やはりジーンさんが恋を叶えてくれたという内容ばかりで、私は首を傾げるしかない。視線を光くんに移して分かりませんと呟けば、彼はちらりと私を見た後にパソコンに向き直る。


「書き込みに、噂になっとる事しかないって変やないすか?」
「え、なんで?」
「書かれて無さすぎるんですわ」


ゆっくり息を吐きながら光くんが椅子に寄りかかる。ギッと独特な音が2人しかいないパソコン室に響く。


「俺らが聞いたんは『ジーンさんが恋のキューピット』『男に好物は何か聞くために電話する』『翌朝それがジーンさんが応援しとる女に届く』って3つだけ。書き込みにもそれしかあらへん」
「そう、だね」
「好きな人の好物が部屋にあった、これはジーンさんがやったんや。そんな突拍子もない事考える奴、相当頭可笑しいんちゃいます」
「あぁ…確かに」
「そもそも、好物が届いた時電話きてるんは男の方だけですやん。なんで、ここに書き込みした人らはジーンさんを知っとるんすか」


そういえば。
ふとパソコンを見る。掲示板には、ジーンさんが好きな人の好物を届けてくれる事、恋を叶えてくれた事ばかりしか書かれていない。光くんの言うように男側にしか電話がかかっていないはずのに、朝起きたら好きな人の好物が置いてあった、がジーンさんのおかげで恋が叶った、まですっ飛んでいる。その間の過程が、どこにも書き込まれていない。なら、女の子側がどうやってジーンさんのおかげだと知ったんだろう。一番最初にジーンさんに恋を叶えてもらった子が、その過程を話さなかっただけ、とは考えにくい。最初の子が書かなくても次の子が書き込む可能性は低くないし、何よりも噂話ならば嘘か真かは別にしろ尾びれ背びれが付いてくるものだ。ならば、何故。
不意に、小石川くんが昼休みに言っていた事を思い出す。


「もしかして、男子も知らない、女子の間だけで知られてる部分が、ある…とか?」
「或いは、女子にもジーンさんから電話がきてるか、ですわ」


光くんの言葉に思わず唾を飲み込む。確かに女の子にも電話がきていればジーンさんを知っていても可笑しくはない。一氏くんが最初に言っていた『ジーンさんが惚れた男に電話する』という噂にもならないし、女子の間で有名にもなる。でも、別に隠す必要はない気がする。何か、理由でもあるのか?分かんない、私、分かんない。ううんと頭を抱えて机に伏せるとぽつりと光くんが零す。


「それから、酷い目に合ったっちゅーのがどこにも書かれてへんのが気になりますわ」


酷い目、と言うのは新堂くんが合った事故の事だろうか。小春ちゃん情報で、女の子も(恐らく)被害に合っているのが分かったのだから、確かに一件くらいその事を書いたものがあってもいい気がする。しかし、別の掲示板でも淡々とスクロールしては次のページを見ているのに、最後のページまでいっても結局『恋のキューピットジーンさん』の事ばかりである。


「単純に幸せな事だけ書き込んでるとか?私の体験談的な。ほら、悪徳商法も良いことしか書かないし」
「まぁジーンさんがしとるんが野郎にしたら悪徳商法に似てるんは否定しませんけど、こう言うんは普通『うちの好きな人に近付いた女が怪我したらしいざまぁみろ』っちゅー事が書かれた掲示板が一つや二つあるんですわ」
「え、なんで断定なの」
「女なんてそんなもんやないですか」
「ねぇ、光くんはその年で一体何を悟っちゃったの」


私の疑問は軽く聞き流され、淡々と掲示板の確認を進めていく。光くんモテそうだから恋愛関係で何か合っても可笑しくはないけど、そんな、女子がみんな他人蹴落としたり、不幸を喜んでるみたいな風に言われると、私も女だからちょっと悲しいぞ。いやまぁ謙也と白石、主に白石はもうちょっと痛い目見ろとは思ってるけど!そういえば、初めて会った時光くんの態度が悪かったのはそれが理由なんだろうか。
そんな私の考えに気付いたのか、光くんは顔を此方に向けて、壱加さんはちゃいますけど、と私の目を見て言ってから再びパソコンに視線を戻した。え、何ちょっと、光くん可愛いんだけど。なんかこれ、昔じいちゃんちにいた私になかなか懐かなかった三毛猫が懐いた時を思い出す。え、やばい私もついに後輩萌えが分かった気がする。思わず彼に抱きつくが、 別に気にする事も無くそして抱きつく前と変わらずに黙々と作業を続けている。ちょっと照れてくれてもいいじゃない。女としての自信無くすんだけど。私が一人で一喜一憂していると、マウスのスクロールしてる手が止まるのが見えた。顔を上げれば、スクリーンに映し出されているのは四天宝寺中の非公認掲示板のようだった。


「やっと、違う書き込み見つけましたわ」


トンっと光くんが指差したところに書かれていたのは、『ジーンさんとか言うのから電話きたんだけど』と言うものだった。書き込みの日付は1ヶ月ほど前で、結構新しい。もしかして新堂くんだろうか。それに対しての返信を見ていくと、男が多いのか、なんだそれとかメリーさんじゃんと言ったものが多かった。


「やっぱり、女子とは違うね」
「まぁ、こっちも当たりとは言えへんですけど」


大きく溜め息を吐く光くんに苦笑すると、印刷かけますわと慣れた動作で、先程まで見ていた掲示板とこの掲示板を印刷し始める。日を改めればまた何か発見があるかもしれないという事だろう。白石にも聞いてみる、と肩を落とせば光くんが少しだけ笑った気がした。

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