ジーンさん8



あれから数日経った放課後の屋上。


「部活前に呼び出してごめんね!」


パンッと音立てて両手を合わせると小春ちゃんがコロコロ笑った。


「別にかまへんで〜。でもあんまえぇ話はないんよぉ」
「謙也が好きなんちゅー女なんか微塵も出てこぅへんで」


やれやれ、というポーズで2人が溜め息を吐くので、私も思わず肩を落とす。今日は、私と白石・光くんの三人が行き詰まったから皆と情報交換をしてみよか、という白石の案で放課後の部活の時間を割いて集まってもらったのだ。ちなみに渡邊先生には許可を貰っている。オモロいこと考えるためやったらちょっとくらい遅なったってえぇんやで〜とか言いやがったので、適当に返した私は間違ってないと思う。だって教師の台詞じゃないだろ普通。
思い出して、ふんと怒りと呆れの混じった息を吐くと、一氏くんが首を傾げる。


「そういや財前おらへんな」
「あぁ、白石の代わりに謙也のおもり」


そう言って手すりの向こうのテニスコートを指差す。千歳くんとラリーしているようで、いつも通り走り回っている。誰のせいで私が苦労してると思ってるんだ、王子とイチャイチャしやがって。
恨めしげに見ていると後ろから小突かれて振り返る。軽く拳をグーにした一氏くんが眉を下げて、コラ、と笑った。その後ろで白石がめっちゃ見ているが気にしない事にしよう。ゴメン、と呟くと小さく相槌を打ってから小春ちゃんの隣に戻っていった。それを見送ってから、あんな、と小石川くんが申し訳無さそうに口を開く。


「怪我した奴、だと多すぎやったから、ジーンさんから電話来た奴…んで彼女おる奴に話聞いてみたんやけど」
「あ、うん!」
「俺が聞いた奴らが、ってだけかもしれへんけど、誰も怪我してへんかったで」
「は?それ何人に聞いたん?」
「あーっと、二十おるかくらい、やな」
「え、むしろそんなにジーンさんのおかげでカップルになってる人達いんの?」


驚いて目を丸くすると、小石川くんが1、2年にも聞いたからなんとかなぁとはにかんだ。そんな謙遜する理由が分からないよ小石川くん、充分だよ。そしてうちの学校に少なくても二十組はジーンさんから電話きて彼女いる奴がいるってのにも驚きだ。どんな確率だと思ってるの。唖然とする私の横で小春ちゃんがふむふむ、と頷いている。


「とゆうことはウチが知っとる男の子達にはほとんど話を聞いとるんやね」
「そうなんか?あー、せやったらあんま良い情報ないで?」
「怪我してへん以外には何があるん?」
「財前のクラスメートの…新堂くんやっけ?彼以外は電話が2回しか着てへん。あとは、電話の後に彼女が出来たっちゅーくらいやな」


なるほど。確かにそのくらいの情報は新堂くんので分かってる事だし、強いて言えば電話は最初の2回だけって事と怪我をしたのは新堂くんの周りだけって事が確信出来ただけマシか。ネットに、男に好きな食べ物を聞くって書き込みしかないのも納得がいく。ほんとに2回しか電話きてないんだもん。メモを取っていると視線を感じて顔を上げれば、小石川くんがジッと見ていた。熱い視線に思わずぎこちなく首を傾げる。


「九十九さん、頼みがあんのやけど」
「えっ、え、小石川くんの頼みとあらば女壱加、例え火の中水の中だよ!」
「どないやねん」
「あー、火ん中やなくて、彼女達の方に話聞いてもろても、えぇかな」
「彼女達、ってジーンさんから電話着た男の子達の…?」


首を傾げたら小さく頷く。男一人で女の子に話聞けへんねん、と恥ずかしそうに目を逸らした小石川くんが可愛かったです、まる。
小石川くんの話を聞けば、彼女達は彼氏がいると何にも話してくれないらしく、まぁ2人っきりなんてのは彼氏がよく思わないから女の子達には話を何も聞けてないらしい。小春ちゃんのが適任だと思うのだけど、そうだ小春ちゃん一応男の子なんだもんね。丁度私達のチーム(と呼んでいいのか)は大した進展もないし、笑顔で了承すると小石川くんがありがとう、と笑った。


「小石川」
「何や白石」
「彼氏の方に、なんで付き合おうと思ったんかもうちょい聞いてみてくれへん?」
「おう分かった」


大きく頷く小石川くんに白石が頼むでと肩を叩いた。ちらりとケータイを確認してカバンを肩に掛けた。


「じゃあそろそろ私帰るね」
「あー、せやな。俺らもそろそろ行かな」


私の様子を見て、皆も移動の準備を始める。そうか、皆部活行くんだよね。てっきりこのまま此処でだべるのかと思ってた。支度が済み、屋上のドアを開き私達は歩き始める。


「にしても、ジーンさんって不思議やねぇ」
「不思議って?」
「なんで女の子の味方しとるんやろって」


小春ちゃんの言葉に、白石と小石川くんが同意の声を漏らす。私が見たジーンさんはとても綺麗な短髪の西洋人形だ。何となくあの色気?がマリリ○・モンローみたいなあの人形が、一体いつから女の子の恋を応援してるんだろう。不意に私達の一歩前を行く一氏くんがぽつりと話し始める。


「人形っちゅーのは持ち主に大切にされてると命を宿す。古いものは付喪神っちゅー神様になるとも言われとる。ジーンさんの持ち主が女で、めっちゃジーンさんを大事にしとった。その彼女が辛い恋しとったか恋に破れて死んでしまったんやろ。だから似とる女の子を放っとけへんのとちゃうか」


タンタン、と階段を降りていく一氏くんを全員が立ち止まって見つめる。そんな私達に気付いた一氏くんが振り返って、何やねん、ときょとんとする。


「……ユウくんお手柄やっ!!」


わなわな震えていた小春ちゃんが、そう叫ぶと一氏くんへとダイブしていった。うおっと声を上げつつしっかりキャッチした一氏くんはデレデレしている。ズル、じゃない、小春ちゃん危ないから。


「てゆか、お手柄って…?」


私の言葉に一氏くんも一緒に首を傾げると、小春ちゃんの眼鏡が光った。


「謙也くんを好きな女の子、分かるかもしらへんでぇ」
「え、嘘!?なんで!?」
「女の子達の共通点、探してきてや蔵りん!」
「任せとき」
「共通点、がなんやねん」
「もう!ユウくんも壱加ちゃんも鈍いで!持ち主に似とる女の子の味方なんやったら、今までのジーンさんに応援されてた女の子達に共通点見つけたら、謙也くんを好きな子にもその共通点があるはずや。せやろ?」


ニヤリと笑う小春ちゃんに、私と一氏くんは同時にポンと手を叩いた。なるほど。謙也を好きな女の子を見つけるのが一番の目的であって、見つけてしまえばその子に謙也を差し出して私は万々歳だ。うっかりジーンさんについて調べ始めちゃったよ。一氏くんも一緒だったのか目を合わせて苦笑している。


「にしてもユウジ詳しいなぁ」


小石川くんの言葉に一氏くんの肩が跳ねる。あ、そっか。皆には隠してるんだっけ。別に私も気持ち悪がられたりしてないから話したらいいのに。


「ば、ばあちゃんがくっ詳しいんや、ハ、ハハッ」


どんだけ嘘下手なの。ガッツリ目が泳いだ状態でほぼ棒読みで答える一氏くんに小さく息を吐く。そう言えば、一氏くんはなんで詳しいんだろう。独学なのかなぁ、今度聞いてみよう。
3人は特に追求もせずに、再び歩き始める。ほっと息を吐く一氏くんに私達も行こう、と肩を叩いた。

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