漫画ならハートが飛んでそうなトーンで、もう十二回目の「勇気出したらオッケーもろた」を聞いた私は菩薩顔です。
4日も掛けて捕まえ、もとい時間をとってもらい話を聞けた子達、計十二人、皆が皆頑張ったら付き合えたってどないやねん。昨日なんか一緒に聞いてた光くんが三人目で「コイツらアホちゃう?」って顔で言ってた。口には出さなかったけどめっちゃ顔で言ってた。
ほな彼氏と帰るからまたなーと幸せオーラ満開で手を振る日高さん(千歳くんのクラスメートらしい、ずるい)に渇いた笑いで手を振り返す。扉を出て行く音が響いた後、図書室には微かなシャーペンが紙の上を走る音と本のページを捲る音だけになった。騒がしくしなくてもこの静かな図書室で会話なんて迷惑な、と思う人もいるだろう。私もそう思ってた。しかし流石四天宝寺、実はつい数分前まで彼氏の惚気話をする日高さんの後ろで、三年生による漫才におけるボケの重要性って講習が一、二年生対象に行われてた。まじあの熱量ハンパない。なんでこの学校こんな笑いに対して熱いの。まぁそんな訳で、彼氏の惚気からの付き合うまでのガールズトークをしても何ら問題なかった訳である。
「九十九」
椅子の引く音と共に名前を呼ばれ顔を上げれば、私が座る机の向かい、隣の列の机に座る白石が、椅子に寄りかかるようにして私の方を振り返ってニッと笑っていた。日高さんの斜め後ろに後頭部見えてたけど、お前絶対こっちの会話じゃなくてさっきの講習聞いてただろ。メモの取り方授業以上だったからなお前。何でか伊達眼鏡をしてるのもそれが似合ってるのも腹が立つ。思い切り眉間を寄せれば、似合っとるやろ?と返された。くそっ腹立つ。
「話聞けそうなんは日高さんで最後か?」
「うん、ジーンさんの事聞かせてって最初っから聞いちゃった子達は何回か声掛けたけどもう無理」
「ちゅー事はやっぱりジーンさんの事は人に言うと効果が切れる、みたいな部分があるんやろな」
私から視線を外して立ち上がる白石を見上げてから頷く代わりに小さく溜め息を吐いた。落ちた視線の先の携帯電話を指で軽く弾けば、再び椅子の引く音がして視線を携帯からそのまま上げていけば、さっきまで日高さんが座っていた私の真向かいに白石が腰掛けた。
「やっぱ良かったやろ?『どうやったら彼氏って出来るのー?てゆうかどっちから告白したの??』って話振るん」
「あぁうん、もう百発百中過ぎて驚きだし食い付きやばいしお前の標準語も裏声も気持ち悪いしほんとすごいわー」
「そない褒められると照れるわー」
「あっはっはっ耳鼻科行ってこいよ」
ジーンさんの事なんだけど、と切り出した子達は皆口を噤んでしまい彼氏と付き合う経緯を聞くことすら出来ず、直球勝負な私と光くんでは行き詰まってしまった。光くんの場合は面倒くさがって直球なだけな気がするけど。そんなこんなで悩む私達に白石が「どうやったら彼氏って出来るのー?てゆうかどっちから告白したの??」と話を振ってみる作戦を提案してきたのだ。仲良くもない私が突然こんなん言っても、と渋々言ってみたらあら不思議、何でか成功してこうして惚気話からの付き合う経緯を聞くことが出来たのだ。
「好きな奴と付き合えたんや、惚気たいのが女心っちゅーもんやろ?」
「分からなくもないけどねー」
「ジーンさんの事は分からんくても話しとる雰囲気とか女の子らの特徴もまぁ分かったしな。全員と会ってる自分と俺で明日にでもまとめよか」
「え、今じゃダメなの?」
「一応俺部長やからなぁ。そろそろ行かんと示しつかんやろ」
あぁと呟けば、財前にはさっき連絡したからもう来るやろと伊達眼鏡を外して白石が立ち上がる。流石無駄がない。ノー無駄ライフだ。いつだか謙也が言ってた。
ほなまた明日、とひらひら手を振りながら図書室を出て行く白石に軽く手を挙げ見送ると、同時に携帯が震える。見れば光くんからで短く『もうすぐ着きます』とだけあった。荷物をまとめて私も図書室を出るために立ち上がった。廊下に出て辺りを見回せば、ジャージ姿の光くんが此方に歩いてるのが見えて手を振った。
女子に話を聞き終わったのに光くんが私と合流するのには理由がある。
「ほな行きましょか、新堂には教室に来るよう言うてあるんで」
「うん」
そう。新堂くんにジーンさんの事を聞くためだ。ジーンさん探しが本目的じゃ無くなったとは言えこのまま知らないのも不安だからと、新堂くんとクラスメートの光くんにお願いしていたのだけど、霊が視える私が本人を見た方が良いんじゃないかと言われ私もこうして一緒する事になった。これでジーンさん張り付いてたりしたら泣いちゃうけど、光くんが一緒にいるから大丈夫頑張れる。これが謙也と白石なら絶対行かない。壱加さん?と顔を覗き込まれ、慌てて何でもないと笑えば頭をポンっと撫でられた。あぁ、これ他の女の子達がやられたら絶対恋に落ちるやつだ。光くんイケメンだし、クールな彼の不器用な優しさって女子好きだもんね。現に私も今ときめいた。
「着きましたわ」
こーいーしちゃったんだーたぶんー、なんて歌が頭の中で流れ始めてる私に、光くんがそう言って教室のドアを開けた。数ヶ月前までこの階に通っていたとはいえ、何だか緊張する。少し遅れて教室に入ると窓際から男子が光くんの名前を呼んだ。机に座っている彼は私を見ると、どうもーとへらりと笑った。彼が新堂くんか。ちょっと地味…いや!イケメンだ。物凄く不本意だけど白石と謙也慣れしてるから物足りなくなるだけだよ、新堂くんはイケメン。多分。
「部活あるんにすまんな」
「そんなん財前もやん!気にせんと!」
「よぉ抜けれたな」
「ニュー相方と漫才練習なんで言うたら快く送り出してくれたわ!せやから財前、」
「やらへん」
「早いわ!!」
大阪の人が皆こうだとは思ってないけど、どんだけ笑いに全力だよ四天宝寺。あと敬語じゃない光くんが新鮮だ。仲良さげに話す2人を眺めていると、新堂くんがちらりと私を見たので首を傾げる。
「財前、この人が除霊出来る人なん?」
「ちょっとタイム」
手でTを作ってから審判員の如く光くんを指差してから呼び出す。素直にこっちに来る光くんの後ろでキレえぇなぁなんて言うのが聞こえたが今はスルーだ。新堂くんとは真逆の廊下側まで自分も移動しながら光くんが来るのを待つ。
「何すか壱加さん」
「除霊って何?」
「部長がそう言うた方が新堂もすんなり話すやろて」
白石、殺す。
ギリっと真顔で歯を食いしばる私に、何も教えてくれへんかったんすよ新堂、と光くんが後ろにいる新堂くんをちらりと見た。成る程?確かに除霊出来る人がいるなら話してもって思うものね。だがしかし、白石殺す。一つ息を吐いて新堂くんの下に戻る。
「新堂くん、一つ約束があるの」
「何すか?」
「私が除霊出来る事は他言無用。もし話したら祓った霊もっかい憑け直すから」
「言いません!!!」
「壱加さんそれ只の脅しっすわ」
光くんのツッコミはスルーして、風の如く速さで答えた新堂くんにニッコリ笑う。ちなみに憑け直すなんて出来る訳ない。出来たとしてもやらない、なんでわざわざ怖いものに近付かにゃならんのよ。兎に角。
ガタガタ震える新堂くんの肩をぽんと一つ叩いた。
「…それじゃあ、ジーンさんから電話がきたところから、話してもらえる?」
私の言葉に、新堂くんは少し合ってから深く頷いた。
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