静かな教室にぽつりと新堂くんの声が響く。思い出すように軽く目を伏せて机に寄りかかった彼を見ていたら、光くんが無言で新堂くんの向かいにある席の椅子を引いて私を見つめるので、おずおずと其処に座る。それを確認してから、ほんで?と新堂くんに促す光くんに彼は顔を上げた。
「別に『もしもし、あたしジーン』ってそれだけ言うて電話切られて。それを先輩に言うたら、彼女出来るでー言われてジーンさんの噂知ってん」
「11時に電話はきたんか?」
「きた。そんときは好きなモンはなんやって言われてん、タラ○ラしてんじゃねーよって答えた」
「新堂くん、チョイスが斜め上をいくね」
「ありがとうございます!」
うん、褒めてない!
仏のような笑みで、新堂くんを見ていたら光くんに、壱加さん顔、と言われた。あれおかしいな、今光くんコッチを微塵も見てない気がするんだけど。行動バレてるのかな。そんな私を気にせず光くんに促されるまま新堂くんは話し続ける。
「ほんで、朝学校行ったらみのりが、あっ彼女なんすけど!みのりがタラ○ラしてんじゃねーよくれて、ビビッてきたんすわ。『あ、コイツ俺のこと好きなんや!』って」
「それだけ聞いとると自意識過剰のアホやな」
「財前今日ひどない!?」
「いつもやろ」
「先輩どう思います!?」
「光くんいつも通り絶好調だなぁ」
「いつも通りなんかい!!」
肩をお笑い宜しくパンッと叩かれ、思わず渇いた笑いが漏れた。ほんとテンポいいなぁ。四天宝寺って実はお笑い芸人育成所なの、ねぇ。
「で、北城とすぐ付き合ったん?」
光くんの問い掛けに、新堂くんはせやで、と頷いた。好きな物くれたから付き合ったって、ジーンさんの噂無かったらほんとアホの子だよ新堂くん。話を聞いてた女の子達は自分から頑張ったみたいだけど、北城ちゃんは新堂くんがアホの子だったから好きな人から告白してもらえた、って事か。あれ?でもジーンさんに『裏切り者』って言われてるって事は、北城ちゃんはジーンさんが応援してる女の子じゃないんだよな。うーんと首を捻ると、新堂くんがそういや、と手を叩く。
「俺が告って付き合ってからもジーンさんから電話めっちゃきてん。誕生日はいつかーとか、好きな色とか。でも先輩は電話は2回だけやでって言うんすわ」
光くんと目を見合わせる。やっぱり、ジーンさんが応援してる女の子じゃないから電話が続いたのか。そして、それだけの忠告をしているのに気付かなかったから新堂くんはジーンさんに階段から突き落とされた。
「新堂、裏切り者言われたんは階段から落ちた時だけか?」
「あー…せやな、そん時だけや」
「ちなみに、北城ちゃんはなんか怪我とかしてない?」
「へ?や、してへんと思うけど」
そうか、流石女の子の味方。そう簡単に女の子は傷付けないか。それなら市川さんが、ジーンさんの応援してる女の子じゃなくても安心だ。私は絶対謙也とは会話しないけど。
「ほんで、えーと…壱加先輩?は、除霊…」
「あぁうん、するする」
「壱加さん、やる気。やる気なさすぎっすわ」
手をヒラヒラさせて答えれば、まさかの光くんにツッコまれた。やる気ない光くんに言われたくないぞ。
しかし、やるとは言ったものの実際には出来ない訳で。ジーンさんは新堂くんに取り憑いてる訳ではないし、だからといって適当言って帰した後に何かあっても嫌だし。仕方がない。ごそごそと鞄の中を漁って、手帳の間から目的の物を取り出す。
「これ、本当に危ないって時に使ってね。霊に貼り付けたりとか使ったら無くなっちゃうから」
そう言って、御札を一枚新堂くんに渡した。じいちゃん特製の御札だ、効果はお墨付きである。最後の一枚だけど、私はコケシ様も一氏くん特製の御守りもあるから大丈夫だろう。よっぽど珍しいのか新堂くんは御札を掲げたり振り回したりしている。それにウン万円とか払う人いるらしいから大事にしてね。
そんな事を思っていたら、突然新堂くんがパッと私に向き直り頭を下げた。
「おおきに!これで安心ですわ!」
「え、あ、うん。ていうか、信じてくれるの…?」
「え!?嘘なんです!?」
「いや、嘘じゃないけど」
「それやったら疑う事なんかあらへんですやん。財前が信頼しとる人なんやし」
へらりと笑う新堂くんに不覚にもきゅんとした。地味とかアホの子とか思ってごめん、超イケメンだった。普通そんな風に初めて会った人を信じたり出来ないんだからね。
それだけ光くんが信頼出来る人間なのかもしれないけど、私なら光くんに紹介されたとしても新堂くんは信用出来ません。酷いこと言ってるとか言わない。
「ほなそろそろ部活戻るわ!ほんまありがとうな財前!」
「呼んだん俺や、礼言うのはこっちやわ」
ポンと光くんが肩を叩くと、新堂くんはまた笑った。成る程、系統違うけど仲が良いんだね。何となく謙也っぽいからかな。あと2人ともきっと2年生で一、二を争うくらいにモテると見た。
ほなまた明日、と教室を出て行く新堂くんを見送りながらそんな事を考えていると、光くんもドアへと向かったので後を追う。
「あれ、あげて平気なんすか?」
「え?あぁ、御札?大丈夫大丈夫!コケシ様あるし!」
グッと拳を握れば、光くんが真顔で私を見つめた。この顔は「壱加さん変な宗教にでも引っかかったんとちゃいます」だ。そうね、コケシ様掲げてた時、一氏くんと小春ちゃんもひそひそしてたもんね。恐怖で頭イかれたと思われても仕方ないよね。でもコケシ様効くんだもん。
「…まぁ、何かあったら守りますわ」
「え…」
待って待って。これはもしかして世の女子ときめきの「命にかけてもお前を守る」的なフラグですか?やだ光くん、私には千歳くんという王子が。
「謙也さん差し出して」
「あぁ、うん。それが一番だよね」
拝啓、ロマンスの神様。私にも霊感じゃなくて幸せの予感を感じさせて下さい。
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