ジーンさん13



「また現れたんすかジーンさん」


屋上に来て早々、光くんが問いかけてきた。何でか私のボディーチェックをしながら。


「えーと、光くん?」
「怪我はないっすね、ならえぇっすわ」
「あ、うん」


上げていた手を下ろし、心配してくれたお礼を言えば、別に、と返された。ツンデレ?ねぇこれほんとにツンデレ?だとしたら私にはツンデレ好きの気持ちは分からないよ、まだ修行が足りないの?呆然としている私に小春ちゃんがおいで、と手招きしてくれたので隣へと駆け寄る。


「ほな、皆の話を聞きまひょか」


手を叩く小春ちゃんに、ほな俺から、と光くんが手を挙げた。
今朝、再びジーンさんの姿を見た事もあり、白石が急遽皆を集めてくれたのだ。一週間に一回は放課後に皆で集まってる気がするけど、部活の方は大丈夫なんだろうか。まぁ部長判断だから大丈夫なんだろうけど。ちなみに今日は前回のメンバーにプラス光くんと勢揃いである。
持ってたプ○ッツを取り出して口に含んだ所で光くんが話し始める。


「新堂には何度も電話があったみたいですわ。食べ物以外にも色々聞かれとった」
「やっぱ応援しとる子と付き合うまでは電話があるんやな」
「恐らく。あと、前に金色さんが言うとった怪我しとる女子はたまたまやと思います」
「それって……新堂くんの事好きって言うとった子?報復で怪我したんちゃうゆー事なん?」


首を傾げる小春ちゃんに光くんが頷く。先を促す小石川くんに光くんは一度私を見た後、皆に視線を戻した。


「北城が…新堂の彼女が怪我してへん。あと、壱加さんも」


充分な理由やと思いますけど、と続ける彼に皆が思い思いに頷く。これは私も光くんと同意見だ。一番邪魔であろう彼女に対して何もしていないのに、只好きになっただけの女の子達が怪我させられるなんてたまったもんじゃない。話し終わった光くんにプ○ッツを差し出すと、どうも、と一本取った。横から白石が手を出してきたのに対して眉間にシワを寄せれば、小石川くんが苦笑しながら、ほな次は俺が、と手を挙げる。


「白石に言われて、何で付き合うたか聞いたんやけどな…」
「なんや、教えてもらえんかったん?」
「いや、全員『何となく』って言うんや」
「「は?」」


私達の反応に小石川くんは困ったように頬を掻く。


「勧められたりとか、話してたら、とか色々理由は違うんやけど、皆『意識し始めて気になったら告白されたから何となく』って言うんや。…やっぱおかしいよなぁ」


じゃあなにか。自分が意識し出した女の子が偶然告白してきたから付き合ったっていうのか。そんなノリで付き合ってるカップルで溢れてんのか四天宝寺。じゃあ王子も私とノリで付き合ってくれるかな、じゃなくて。


「確率論で言ったら、ちょっと多すぎやねぇ」


小春ちゃんの眼鏡がキラリと光る。それに同意するように私と一氏くんが頷いた。「何となく」で付き合い出したカップルのほぼ全員が、ジーンさんから電話が来ている。ジーンさんが何かしたとしか考えられない。新堂くんの話だと電話だけみたいだけど、きっと何かしてるんだろう。謙也の事見てるくらいだし。その何かが分からないんだけど。首を大きく捻ると、白石が手を挙げた。


「ジーンさんが応援しとるかもしれない女子の共通点なんやけど、みんな似たような…悪く言ったら世間一般の平均集めた、ちゅー感じやな」
「あらん、ほんなら量産型女子がジーンさんのターゲットって事やねぇ」


流石小春ちゃん、そういう事にも詳しいのね。私にも同意を求めてきたので首を縦に振る。しっかしどこにでもいる女の子が共通点だとしたらどんだけ沢山の女の子助けるんだよジーンさん。
その時、パンッと突然何かが弾けるような音がして、そっちを見れば一氏くんが眉間を寄せていた。その手には食べようとしていたであろう焼きそばパンが潰れている。今の音はパンの袋が破れた音だったのか。というかパン潰しちゃったけど大丈夫なの一氏くん。そんな下らない事を思って見ていたら一氏くんが小さく手を挙げてから口を開いた。


「おかしいやろ、それ」


眉間にシワを寄せたまま、不服そうに呟いた。おかしい、って何がだろう。どういう事や、と白石が問い掛ければ、一氏くんは潰れたパンをカバンに投げ入れて私達に向き直った。


「九十九と白石が会った女子、明るいわよー喋るわグイグイいくタイプの女子やろ?」
「あ、うん。結構喋る、かな?ほんとイマドキだなぁって感じ」
「ほんならジーンさんが応援する必要あらへんやん」
「なんでやのんユウくん」
「ジーンさんの質問や」


自分の前に人差し指を立てる。全員がお互いに顔を見合わせてから、考えたり首を傾げたりとしていると一氏くんが続ける。


「ジーンさんの持ち主は失恋しとる、恐らく告白する事も出来ずにフラれたかしとるはずや」
「なんでですか」
「ジーンさんが聞いとる事なんか自分で聞けるやろ普通。でもジーンさんが聞いてくるっちゅーんは、ジーンさんの持ち主は『好きな食べ物が何か』すら聞けへん奴やった。つまりジーンさんが応援するとしたら、本音が言えへん女子か控え目な女子や」


そうか、イマドキの子(自分もだけど)が好きな食べ物が聞けないほど控え目だとは思えない。実際あの子達そのくらい聞きそうだし。光くんが、一氏さん、と名前を呼んで手を挙げると答えるように一氏くんが首を傾けた。


「恋しとったら誰でも良くなったんちゃいます?今時そんな控え目なのおらんやろし」
「どアホ、持ち主から離れても動くっちゅーのはよほどの想いがあるんや。それが恋心だけでなく恨みやとしてもな」


一本貰うで、と一頻り話し終えた一氏くんがプ○ッツに手を伸ばすので、慌てて差し出す。
確かに一氏くんの言うとおりならば、私と白石が会った子達はジーンさんの応援する基準に当てはまらない。だって、ジーンさんが好きな男の子の好物くれたからってアタックするような子達だもん。だとすると、電話が着ている男子が皆、電話が着た後に付き合いだしているのは一体なんでだ。不意に一氏くんの話を聞きながらずっと考え込んでいた白石が、何も言わずに手を挙げた。なんだろう、ずっと思ってたけど発言は挙手制なの?なんで皆ちゃんと手を挙げてからなの。そんな私の心の声などお構い無しに、どないしたん、と小春ちゃんが首を傾げれば白石はゆっくり手を降ろしてから再び口元に手を当てる。


「これはあくまで俺の推測なんやけど…―――今回のジーンさんは『模倣犯』じゃないやろか」


真剣な表情の白石が、床から私達へとゆっくりと視線を移した。


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