ジーンさん14



「「模倣犯?」」


全員が反復すると、白石は小さく頷いてから足元に置いていた水を拾い上げてから続ける。


「先ず、九十九と財前の見つけた掲示板の書き込みや。俺らが最初に小春から聞いた噂しか書かれてへんのは、この模倣犯…仮に『X』として、Xがそれしか知らへんかったんとちゃうやろか」
「それしか知らんて、どういう事やねん」
「どうやってくっ付いたかまでは知らんちゅー事や。せやからXは『好きな人の好物が届いたら恋が叶う』という怪談という名のジンクスにしてった。女子は占いとか好きやろ?それを使った心理操作で恋を叶えてるんや」


心理操作って催眠術的なやつだろうか。そんな事、そう簡単に出来るものなの?顔に出ていたのか、白石が私を見てからニヤリと笑った。


「大した事やない。Xがしたのは噂を広め、ターゲットにした女子の恋の相手にジーンさんのフリして電話し、次の日以降に聞いた好物を女子の机に入れるだけでえぇ」
「ちょい待ち蔵りん、好きな食べ物は女の子の家に届くんやで?」


小春ちゃんが眼鏡をキラリと光らせる。それを見てから手に持っていた水を一口含むと、一息吐いてから白石は再び口を開く。


「それが『正しい噂』なんや。でもXは家に忍び込めへんし、わざわざ家のポストに入れに行くのも出来ひんかったから机に入れるしかなかった。せやから掲示板にも好きな食べ物が届く、としか書いてへん」
「まぁ壱加さんと見たんはそないなのばっかでしたけど、なんで机って分かるんすか」
「この前千歳が言うとった。九十九も聞いたやろ?ジーンさんが机に入れてくれるって噂を聞いた、言うのを」


問い掛けに大きく頷く。確かにあの時、千歳くんはハッキリと『机』だと言っていた。でも、分からない。どうしてXはジーンさんのフリしてまで他人の恋を叶えているのだろう。白石の言うとおりだとしたら、きっと男子にそのターゲットを意識させるための噂も流しているはずだ。じゃないと小石川くんが聞いてきた「何となく意識する」なんて事、男の子達は出来ないだろう。そして何より人形を使う手の込んだ事までしている。そんな労力を使ってまでどうして。考えこんでいたら、小春ちゃんがゆっくりと手を挙げて口を開く。だからなんで挙手制なの。


「Xは恐らく女の子、自尊心が強く、完璧主義で自己中心的な一面もある子やね。そしてうちの3年生でおまひょ」
「え、なんで小春ちゃん」
「この噂は四天宝寺でしか広まっとらんし、ジーンさんを見たのは蔵りん、ケンちゃん、壱加ちゃんだけ。うちらがジーンさんについて調べだしたらタイミング良く出て来とる。少なくとも3年のうちらの行動が分かるのは同じ3年のが可能性高いやろ。キッカケは分からんけど、自分のおかげで恋が叶ったという事実に快感を得たんやろね。だからこそ『ジーンさん』は絶対的なものでなくてはあかん、思たんやない?」
「…金色さんは、Xがそのために新堂怪我させたり、部長達に人形見せてジーンさんを信じさせようとしとる、と思ってはります?」


光くんの問い掛けに、小春ちゃんはにっこりと笑った。なんというか、小春ちゃんってほんとに頭が良くて人をよく見てるんだなぁ。にしても。


「そんな事でここまでやる…?」


怪訝な顔をすれば、小春ちゃんに頭をコツンとされてキョトンとする。え、私変な事言った?


「その人にとって何が幸せか、自分の価値観で決めたらアカンよ?」


な?と首を傾ける小春ちゃんに、思い切り私は首を縦に振った。小春ちゃんは大人だな、私にはそんな考え無理だよ。あと白石と謙也にも無理。私の事いつも考えてくれないもん。


「まぁ、全然そんな気持ち分からへんですけどね」


ぽつりと呆れたように光くんが呟くのに、思わず苦笑する。一氏くんは頷いて、小春ちゃんもせやね、と肩を落とした。とにかく、相手が幽霊じゃないなら怖くないぞ。よし!
そろそろ部活行くか、と白石がケータイを見て言えば、皆がそれぞれに準備を始めるので私もプ○ッツを一本頬張って鞄を肩に掛けた。ギイッと鉄扉の閉まる重い音を後ろに聞きながら私達は玄関へと向かう。


「今度は、Xを見つけなきゃね」
「それですけど、壱加さんがなんかされる事が無いんなら、もう調べる必要あらへんちゃうんです?」


タトン、と軽快に階段を下りながら話し掛ければ、光くんにそう返されて思わず立ち止まる。ゆっくりと振り返ってゲッツのポーズで「それだ」と声無く伝えれば、呆れる一氏くんと白石、そして小石川くんが肩を震わせて笑うのが見えた。そんな面白いことしてないよ私。そんな私の横へと立って、もう一度光くんにどないします、と問い掛けられて空を仰ぐ。


「でも、やっぱりX見つけたいな」
「何でなん九十九さん」
「謙也に何か遭ったら、部活に支障出るでしょ」


そう呟けば、少し合ってから白石と小石川くんに肩を叩かれ、おおきに、と笑顔で礼を言われた。小石川くんはともかく、白石はそういう事しないでくれ。その顔に私は何回ほだされたと思ってる。不意打ちで赤くなった顔を見られないようにと、手で扇ぎながら先を歩くと後ろからクスクスと小春ちゃんと一氏くんの笑い声がしてきた。えぇ子やねぇ、ホンマにな、なんて話してるのが聞こえてきて、いよいよ恥ずかしさがピークで全速力で逃げ出したいです。


「でもまぁ、報復とかなさそうやな」


玄関に着くと、私に追いついた白石がそう言って下駄箱を開けたので、そうだね、と返す。


「目が合った時はどうしようかと思ったけど、ジーンさん偽者なら怖くないし!」


白石を見ながら笑って下駄箱を開ければ、せやな、と同じように笑って白石が靴を取り出した。私も靴を取り出そうと手を入れれば、ローファーの手触りではないナニカとカサリという音に、反射的に小さく悲鳴を上げ手を引く。どないしたん、と白石に聞かれるが私は下駄箱の中から目を逸らせずにいた。私の声を聞いて皆も集まってきて、全員が私の下駄箱を覗いた。
中にはボロボロのローファーと、赤い字で『呪』と書かれた紙が貼ってあり、何かが書かれているようなぐちゃぐちゃになった紙屑が大量に入っていた。ただただ、皆が無言で中を見つめる。


「ジーンさんだー!!!!!」
「いや、コレ只の嫌がらせやろ」


一氏くんの冷静なツッコミは、パニクってる私には殆ど聞こえていなかった。


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