「うわぁぁやっぱコレジーンさんだよ明日はきっと突き飛ばされるんだぁぁ」
「こらまたスゴいなぁ」
私が頭を下駄箱に打ちつけてしゃがみ込む後ろから、中を覗いた小石川くんが呆れたような声を漏らした。視線を向ければ、小石川くんだけではなく白石と金ちゃんも立っていた。涼しい顔の白石の横で、金ちゃんはげんなりした顔をしていて、しかし中は気になるのか手を突っ込んで中にあるゴミとか『消エロ』と文字がビッシリ並んだクシャクシャの紙を広げて見ている。勇気あるね金ちゃん。覇気の無い声で挨拶をすれば、おはよーさんと小石川くんが私の肩を叩いた。ゆっくりと立ち上がって鞄からビニール袋を取り出す。ちなみに中身は金ちゃんのスニーカーだ。
「金ちゃん、これありがとう。助かったよ」
「別にかまへんでー!」
パッと笑って受け取る金ちゃんにもう一度お礼を言う。
あの後パニックになってる私は、落ち着け、と一氏くんにど突かれながらテニス部に連れて行かれた。ようやく落ち着いた頃には小春ちゃんと一氏くんが下駄箱を片付けてくれていて、困った顔でズタボロになったローファーとスニーカーを持ってきてくれたのだ。パッと見でどう頑張っても使い物にならないと分かるそれらは、申し訳ないがテニス部のゴミ箱に捨てて、上履きで帰ろうとしたら金ちゃんが快く自分のスニーカーを貸してくれたのだ。何にも事情知らないのに2日も貸してくれてほんとイケメンだよ(私が学校に履いていけるような靴が他に無かったのでスニーカーを買うまで借りてたのだ)。まぁ小春ちゃん達もネタでローファーあるから使っていいよ、とか言ってくれたが如何せんサイズが大きいので断らせていただいた。光くんと王子以外の皆が自分の外履きと上履き、それからテニスシューズ以外でもう一足別に持ってるのは何でなんだとかツッコむのをギリギリ堪えた私を褒めてくれ。うんうん、と一人頷いていると白石が横から私の上履きが入った袋を差し出してきた。どうして白石が私の上履きを持っているのかというと、何かあったら困るだろうとテニス部が預かってくれているからだ。閑話休題。
「靴どないするん?そこやとまたボロボロなるんちゃう?」
「渡邊先生が預かってくれるって」
そう言って白石から受け取った上履きを履いて、その袋に履いてきた靴を入れると、白石が納得の声を漏らす。その間、私達の会話を聞きながら私の下駄箱の中を片付けてくれている小石川くんが見えて慌ててお礼を言う。存在感無くて全然気付かなかったよ、なんて事、かまへんよ、と笑って元通りの綺麗な状態にしてくれた小石川くんに冗談でも言えません。
「もうやだよージーンさん許してほんと謙也あげるから許してよぉぉ」
「壱加ちゃん、ジーンさん言うんに苛められとるん?!」
そんなんワイがやっつけったるで!と握り拳を作る金ちゃんに、感極まって思い切り抱きつくと、後ろから苦笑する声が聞こえる。
「九十九さん、コレジーンさんちゃうて」
「え、だっ、だだだだって、これ、報復…」
金ちゃんを抱き締めながら半泣きで二人を見れば、白石が肩を竦める。
「ここ半月以内で謙也とマトモに話した日、覚えとるか自分?」
「………あ」
ぽん、と手を叩けば白石と小石川くんは目を合わせて小さく息を吐いた。
そうだ、私光くんから新堂くんの話を聞いて…いや、小春ちゃん達から怪我した子の話を聞いてから謙也と話してなかった。話したとしても、授業でプリント配る時とかくらいだ。あれ?じゃあこれ何だ?首を大きく傾げれば、白石が口を開く。
「最近変わった事ないんか。もしくは人に恨まれるような事とか」
「変わった、って言われても…光くんと行動する事が増えた…とか?」
「財前か…モテるからなぁアイツ」
「あっ!一氏くんとよく話すようになった!」
「それは別にいいわ」
何でだよ。一氏くんお前と違って優しいしイケメンだぞ。あ、でも小春ちゃんいるからか。理解。
となると、小石川くんの言うように光くん関連だろうか。あれかな、実は親衛隊とかあるのかな財前親衛隊(仮)みたいな。光くん、女の子あんま好きじゃないみたいだしこんな事バレたら更に嫌われそうなのになぁ。むう、と唸ると小石川くんに顔を覗かれる。
「これ以上ひどなったり続くようやったら先生にちゃんと対応してもろた方がえぇで?」
な?と微笑む小石川くんにきゅんってした。初めましてで幽霊とか言ってゴメン、好き。ガシッと抱きつくと頭をポンポンされる。最近これめっちゃやられるけど、私が小さいからか?一応女子の平均はあるはずなんだけど。ん?
金ちゃんが、ワイもー!と騒ぎ出したので苦笑して小石川くんから離れる。しかし、ジーンさんもといXを探さないといけないのに、嫌がらせとか何なんだよ。今年厄年か。盛大に溜め息を吐くと、金ちゃんに頬をつつかれる。
「なぁに金ちゃん」
「危なくないように皆で帰ったらええんや!」
「はい?」
「せやから、壱加ちゃんもワイらと一緒におったらええやん!」
にぱっと笑って言う金ちゃんに私は疑問符を飛ばしまくる。思考が追いつかないぞ金ちゃん、突然すぎるし言葉足りなすぎる。取り敢えず一緒に帰ろうってことは分かったぞ。
「部活終わるん待ってもらう事なるけど、一人で帰すんは俺らも不安やから、九十九さんが嫌やなかったら一緒帰らへん?って言いたいんやろ」
せやろ、と小石川くんが問い掛ければ金ちゃんは大きく頷いた。何それイケメンすぎるでしょ金ちゃん。申し訳ないから断ろうとも思ったが、こんな事をされてる以上一人で帰るのは確かに不安だし、と少し合ってから頷けば金ちゃんがやったー!と飛び跳ねた。朝から元気だなぁ。ぼんやり眺めていたら白石が私の横に立つ。
「下駄箱以外にも何かされとるかもしれへん。そしたら直ぐ俺に相談するんやで」
分かったら返事、と頭を撫でられ全力で頷いた。なんなんだその超絶イケメンオーラを纏った顔は。イケメンか?イケメンか。私の反応を見て、ニッと笑うイケメンオーラ持続中の白石から勢い良く目を逸らすと、光くんが歩いてくるのが見えて手を振った。直ぐに気付いて此方に来る光くんが首を傾げる。
「壱加さん、顔赤ないですか?」
「えっ!?ソ、ソンナコトナイヨ!」
「なんや九十九、また俺に惚れてもうたん?」
「黙れよ白石」
キッと睨み付ければ、白石と隣の小石川くんも笑っていて、金ちゃんと光くんが不思議そうにしていた。不意に視線を感じて何気なしに其方を見れば、白石の数メートル後ろに一人の女子が私達を…というより私を睨み付けていた。睨まれている、と思うと同時に彼女は踵を返して歩いて行ってしまったので、顔をしっかり確認出来なかったけれど。―――まさか、ねぇ。
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