ニコリと笑う小春ちゃんは今日も可愛いです、まる。
頷いてミートボールを頬張る。現在昼休み。私は8組の小春ちゃんの隣の席を陣取りお弁当を広げて今朝の出来事を相談したところである。教室を突然訪れた私を小春ちゃんは快く受け入れてくれて、それどころか一緒にご飯をと言ってくれたのだ。一氏くんは委員会らしく、お陰で二人っきりの女子会である。いや、教室だから二人っきりではないけども。ちなみに小春ちゃんの隣の席の男の子も快く席を貸してくれた。隣の席くんありがとう。なんかそんな漫画あったな。
もぐもぐとお弁当を食べていて、ふと小春ちゃんと目が合えば小さく笑った。
「壱加ちゃんはその子が嫌がらせしとるんじゃないか、って思っとるん?」
「うーん…ビミョーなんだよなぁ」
溜め息を吐いてご飯を食べる手を止める。一瞬しか見ていないのもあって、断言は出来ないのだ。明らかな敵意は感じたけれども。だから女友達に「ある男子と話してたら、めっちゃ女の子が睨んできたんだけど何でだと思う?」と聞いたら「壱加が憎いんちゃう?」と軽いノリで返ってきた。終いに「女は皆、六条御息所やからな。ファイト!」となんて超楽しそうに言われた。今、授業で源氏物語やってるからって上手いこと言ったつもりかちくしょう。まぁ、そんな感じで他人事だと軽く流されてしまったので、小春ちゃんに相談にきたのだ。
「確かに、それだけやとグレーゾーンやねぇ」
「そうなんだよー。光くんファンクラブのメンバーに的絞ったとして、その子達が嫌がらせに関与してなかったら濡れ衣きせる事なっちゃうし」
「ほな、その子自身を調べてみまひょか。特徴教えてもろてえぇ?学年まで分かると尚早いんやけど」
「……………」
「全く分からへん、と」
無言で制止した私を、菩薩顔で微笑み見つめる小春ちゃんの視線がとても胸にきます。だがしかしマジで全く記憶にない。すんごく睨まれてたのは覚えてるのに、思い出そうとすると今日の2限で見た能の般若面が頭をよぎる。違う、惜しい気がするけどそれじゃない。
口を半開きにして呆ける私に「無理せんとえぇよ〜」とコロコロ笑ってはいるが、多分きっと馬鹿認定された気がする。辛い。本当にごめん、と小さく呟いて机に突っ伏した私の肩を優しく叩く小春ちゃんに涙が出そうだ。
「それ、絶対ジーンさんやって!」
ジーンさん、とな。勢い良く顔を上げると、小春ちゃんがシーっと人差し指を立ててからチラリと右の方に視線を移した。
「ジーンさん、って今流行っとるやつ?」
「せやでー!」
どうやら声の主は右隣の女の子達らしい。小春ちゃんと同じようにチラリと視線を送ってから、前に向き直れば彼女(彼?いや小春ちゃんだし彼女でいいか)はニコニコと私を見ていた。そうか、あんまり見ててもあれだもんね。へらりと笑い返しつつ意識だけ女の子達に向ける。
「覚えない食べ物入っとったんやろ?ぜーったいジーンさんやって!」
うちもそうやってん!と話す女の子の様子に、私達は顔を見合わせて首を傾げた。会話的にジーンさんだ!と豪語してる子がXという可能性は低そうだ。恐らく同じことを考えているのだろう、二人で肩を竦める。まぁそう簡単にXがいたら苦労しないよな。ため息を吐けば、なぁ、と先程の二人とは別の声が聞こえて、再び会話に耳をすませる。
「菜央、今成くんのこと好きなんやろ?好きなもん聞いてみたらどうなん?机に入っとったのと同じならジーンさんって信じられるやん」
「そうや!由季子の言う通りやで!聞いてみよ!!」
「うーん、でもぉ…」
会話に交ざってきたユキコちゃんに先程の子が賛同する。しかし当の本人はあまり乗り気ではないようだ。ちらりと三人の様子を伺う。私達に背を向けて立っているのがユキコちゃんだろう。その正面にいる、恐らくナオちゃんが眉を下げてお弁当箱の上に箸を置いた。
「……違たら嫌やんかぁ」
しゅんとしてそう溢すナオちゃんに私がきゅんとした。おい今成、てめぇナオちゃん振ったらジーンさんに代わってお前を殴る。ぐっと机の上で握り拳を作ったら、小春ちゃんがクスクス笑う声がした。あれ、何か思ってることバレてる気がする。
「大丈夫やって」
小春ちゃんに向き直ってテヘっと笑っていたら、今までの明るいトーンではない、酷く落ち着いた声がして視線を向ける。
「だってジーンさんは“絶対”なんやで?」
僅かに見えた彼女の横顔は笑っていた。緩やかな弧を描いた口元と、その声のトーンに、ぞくりと背筋が凍る。
「なんならウチが何となーくバレへんように聞いたるよ!」
しかし、直ぐにその笑顔では無くなって、明るい調子でユキコちゃんが笑う。ナオちゃんともう一人の子はさっきの彼女の様子に気付いていないようで、せやね、なんて笑っている。
「小春ちゃん」
三人から視線を戻して名前を呼べば、唇を指で塞がれた。
「あの子はウチに任しとき。それより壱加ちゃんは嫌がらせをどうにかせんと、やろ?」
そう言ってお茶目にウインクする小春ちゃん。あぁ、もうなんでそんな何でもお見通しなの!
「天使ぃぃいい!!」
「くっつきすぎや九十九!!」
ぶわぁっと込み上げる感情のまま小春ちゃんに抱き付けば、一氏くんがドアを勢い良く開けて現れた。セコムより速いよ一氏くん。
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