ちなみに大号泣しながらの告白については、松本さんが「白石くんの事好きやけど付き合ってとは言わへん。今のウチはやな女やから、白石くんの隣立つんに相応しくないもん。もっと良い女なったら付き合ってってちゃんと言うから!」と自分から宣言していた。凄いなぁ、嫌がらせしてたのが自分だってバレる、なんて形で恋心が本人にバレたら普通なら顔も合わせられないだろうに。お蔭で私の中での松本さんの好感度がどんどん上がっている。まぁ、そんな松本さんに対して、白石が一瞬きょとんとしてから優しく微笑んで「おん、待っとるわ」なんて言うからね、この天然タラシが、って心から毒吐きましたよ。松本さん顔真っ赤になってたからね。皆さん気を付けてー!この包帯エクスタ野郎、タラシなのよー!とまぁ、そんな訳でとりあえず私の嫌がらせの件は一件落着した訳で。
「なぁ九十九ちゃん」
「ん?どしたの松本さん」
ぽつりと呟く松本さんに首を傾げると、私を見てから再び俯く。
「勝手にジーンさん名乗ったの、ジーンさんは怒っとるやろか」
しゅんとしてそう零す松本さんに、私と白石は目を合わせる。それから私は手を握り返し、白石が背中をポンと叩いた。
「大丈夫やろ」
「そうそう、女の子の恋の応援してたんだし、ジーンさんだって怒ったりしないって」
「……そうかなぁ…。そうやったらいいなぁ」
ほんまありがとぉ、と笑う松本さんに私も白石も笑った。いやーほんとこんな明るくてノリ良くて可愛らしくて優しい子が、下駄箱に『呪』とか赤字で貼った上にビッシリ「消エロ」とか「死ネ」とか書いた紙毎回入れてたとか、ほんとに女は皆、六条御息所かな。その流れだと白石が光源氏か。ハッふざけんな。なんて思っていたら白石がぽつりと零す。
「でもな松本さん」
「何、白石くん」
「怪我させるんは、やりすぎやで」
真っ直ぐ松本さんを見据えてそう告げる。そうだ、嫌がらせもジーンさんも彼女なら、新堂くんを突き飛ばしたのも彼女って事になる。嫌がらせは、ぶっちゃけ私の中では白石が原因だからもう気にしてないけれど、新堂くんのは流石にやりすぎだもんね。ちらりと松本さんを見ると、彼女はきょとんと私達を見つめていた。
「ウチ、そないな事してへんよ?」
「「……は?」」
「食べ物机入れたり、男の子んとこで色々話してたり女の子には頑張れー言うただけや」
ちょっと待った。つまり何か?新堂くんを突き飛ばしてはないと?額を抑えてうんと、と悩むと白石が、松本さん、ともう一度名前を呼ぶ。
「今から幾つか質問してもえぇ?」
「?えぇよ」
「ジーンさんの人形とか準備したりしてへん?」
「してへん。人形あったら、それメリーさんやん、って違う噂なりそうやもん」
「新堂くん、って2年7組の子に電話はしてる?」
「した!部活の後輩やねん、みのり!いっつも新堂くんの話しとったから応援したろーって」
「新堂には電話してるんか…」
「あ、もしかして自分らそれでジーンさんの事調べとったん?階段から落ちたんやろ新堂くん」
みのりメッチャ心配しとったんよ、と眉を下げる松本さんに白石は遠い目をして、私は頭を抱えた。いつだかに感じた第六感なるものが「これいつものやで」と告げる。マジか止めてくれよ一件落着してくれよ。
「あー……最後にも1個あんのやけど」
「うん、何?」
「……謙也に電話、したりしとらん?」
スッと視線を松本さんに落として白石が問い掛ける。やはり松本さんはきょとんとしていて、第六感なるものが「諦めろやこれいつものやって」と更に警報を鳴らす。うるさい、否定したいんだよ。
「忍足くんに電話なんてしとらんよ?ちゅーか忍足くん好きな子なんて聞いたことあらへんし」
ですよねぇぇえ。
私と白石は地面に崩れ落ち、松本さんは不思議そうに首を傾げている。ていうか小春ちゃんと一氏くんの言うように、本当に謙也の事好きな子いないんだね、可哀想に。すると壱加さん、と聞き覚えのある声がして顔を上げると、光くんが少し息を切らせて立っていてその後ろから新堂くんが駆け寄って来ていた。
「壱加先輩どないしよ!」
「は?何今ブロークンハートなんだけど」
「みのりに嫌われてもうた!」
「は??」
ぶわっと泣き出す新堂くんに心底眉間にシワを寄せたらしい。壱加さん顔あかんで、と光くんに突っ込まれた。いやだってなんで私が新堂くんの失恋話聞かなきゃならんのよ。目で訴えていたら光くんが溜め息を吐いた。
「壱加さんメールくれはったですやん。『ジーンさん見つかったから新堂くんに大丈夫って伝えて』って」
「え、あぁうん、送ったね」
「ほんで新堂、ついさっき北条に話したんやって」
「話した、って?」
「ジーンさんにみのりと別れろー言われてたんやでーって。そう笑っとったらみのり急に怒り出してん!「私はジーンさんに応援されとんのやからそんな訳ないやんバカ!」って言われて、俺どないしたら…!」
うん、新堂くんが阿呆の子なのは分かった。菩薩顔で見つめてからふと浮かんだ疑問がある。松本さんは新堂くんには電話をしていた。それは北条さんを応援するためで、でもジーンさんは別の女の子を応援していたから新堂くんは怪我をした訳で。つまり、松本さんからとジーンさんから「もしもし、あたしジーン」ってやつと「好きな食べ物は何?」って聞かれてる事になる。でもそんな事、新堂くん言ってなかったし。まさか、普通は話してくれるよね。普通なら。
「……新堂くん」
「何です?」
「ジーンさんに好きな食べ物、2回聞かれなかった?」
「聞かれましたよ?」
「先に言え、ど阿呆」
ゴッといい音で殴りつける光くんに親指を立ててから、深い溜息を吐いた。ほんとに新堂くん阿呆の子だったよもう一発殴りたい。ふと光くんを見ると、新堂くんをシバいてたはずの彼は松本さんを酷く冷めた目で見つめていた。
「壱加さん、この人はXなん?それとも嫌がらせしてた方?」
低い声でそう呟く光くんに松本さんの肩が揺れる。あ、そっか。小春ちゃん達に下駄箱向かったの聞いたのか。えっと、と私がどもると白石が松本さんの前に立つ。
「彼女はXや。でも今の話で何となく新堂くんに怪我させたんはXちゃう、て思ってんのやろ」
「…まぁ、そっすね」
「せやったら松本さんはただ女の子の応援したただけや。そう威嚇せぇへんたってや」
な、と笑いかける白石に松本さんは頬を染めて小さく頷いた。だからお前はそうやって女の子拐かしてどうすんだよ。ちゃっかり嫌がらせの事隠すし、お前ほんと松本さんの事責任持てよ。
光くんは息を吐いて、壱加さんがなんもないならえぇっす、と何故か新堂くんを蹴り飛ばした。いったぁ!と新堂くんの叫び声が廊下に響き、私はとりあえずジーンさん事件が終わって無いことに頭を抱えた。
←