「壱加!めっちゃ久し振りやんか!!」
「あぁうんそうね、近付かないでくれる?」
抱き着きそうな勢いで駆け寄ってきた謙也に、蹴りをかましながら淡々と告げたらシクシク泣き出した。そうそう、この面倒臭さ、懐かしいわ。後ろから入ってきた光くんに、邪魔っすわ、と蹴り飛ばされてる様子を眺めながら渇いた笑いを漏らす。
まさかのジーンさん偽者Xとは別に、本物の真・ジーンさんがいると分かってしまったので謙也とは出来るだけ喋りたくないんだよ。だがしかし、松本さんが電話を掛けてないって言うから謙也には確認しなきゃいけない事が出来ましてね。
「あのさ、謙也」
「なんやねん今ブロークンハートやねん」
「私もだよ、あのね」
そう話し出そうとしたところで、電話の音が響いて謙也が、すまん出るわ、とケータイ片手に私達から少し離れた。
「誰やろか」
「あの子ちゃいます?陸上部ばりの走りの幽霊の」
「ねぇ光くん、それだいぶ前にやったやり取りだから」
小春ちゃん、光くん、私、と話していてそれを小石川くんと銀さんが眺めていて、白石と千歳くん、それから一氏くんに金ちゃんは既にテニスコートに行っている。肝心の謙也と話せないんじゃ意味が無いしなぁ。久し振りにちゃんと会う銀さんに、久し振り、と笑えば、調子はどうや九十九はん、と頭を撫でられた。お父さんだお父さん。されるがままでいると、謙也の電話が終わったらしく戻ってきた。
「堪忍!」
「いや、大丈夫大丈夫」
「そういや謙也、最近電話ようしとるけど誰なん?あの従兄弟か?」
小石川くんが首を傾げる。従兄弟以外に電話掛ける人いないのかな?そしてそう思われてるのかな?寂しいね謙也。それに対して謙也は、いんや、と首を振る。
「ジーンさんやねん」
……は?
少しあってから、光くんと私が無言で、もう一回、と人差し指を立てれば、謙也が「せやからジーンさん」と当たり前のように返してきた。うん、そうか。よし。光くんと見つめ合って2人で同時に頷いてから、私は左腹を、光くんは右腹を思い切り蹴り飛ばした。
「痛っ……たぁ!!」
「ざけんなやこのど阿呆が」
「電話あるならあるって話せやど阿呆が!!」
私達の見事な蹴りが入った謙也が地面に這いつくばった所に、2人で勢いに任せて言えば、小石川くんが呆れたようにあーとと言いつつ拍手をし、銀さんは見事な蹴りや、と大きく頷いた。そんな話、一言も聞いてねぇぞコラァ!キッと睨み付けてきた謙也に、私と光くんが、ぁあ?と威嚇する。
「せやかて壱加は俺と話してくれへんし、皆も部活以外で話そ思ても色々やっとって話せへんかったやんか!!」
「知るか!それでも話せよそれがウザ絡み謙也だろうが!」
「いつもみたいなウザさ、なんでこういう時に発揮せぇへんの?阿呆なんカスなん?」
「あれ?おかしない?俺が悪いん?普通ここは『そうだけど…!』とか壱加がなるとこちゃうん?」
「ならねぇよ」
「ならへんわ」
キッパリと2人で吐き捨てると、床に死んだように転がって泣き始めた。面倒臭いなコイツ。見かねたのか小石川くんが、謙也の傍にしゃがみ込んで肩を叩く。
「あー、その、ジーンさんと電話て、今のだけなん?」
「……」
「小石川くんが聞いてんだろ返事しろ謙也」
「前から着とった」
舌打ち交じりに言えば素直に答える。小石川くんが何か言いたげに私を見上げている気がするが、今はもうこの阿呆への怒りが半端ないので悪いけれどシカトさせていただく。前からとかお前ふざけんなよ。いやまぁ、それが分かった段階で私は更に謙也と話さないだろうけど。ジーンさんにやられるのは嫌だ。深い深い溜め息を吐けば謙也がゆっくりと顔を上げてから、その場に正座した。
「最初は怖かってん。でもジーンさんからまだ電話あるー言うたら壱加は聞いてくれへんやろし、なんや皆も俺のせいで忙しそうやし、言い出せへんかったん…」
「ほんでどないしたんや」
銀さんが優しく聞くと、ちらりと謙也は私達を見上げる。それに対して光くんが顎で、続けろ、と促す。ちょっと冷静になってきたけど、あれ、光くん後輩だよね。あれ?しかし謙也はやはり慣れてるのか気にせず続ける。
「でもジーンさん、毎回質問ばっかなん。あっ!あれやパンツの色も聞かれたで!」
「あ、やっぱり知りたいよねー」
「九十九はん、そないな事知りたいんか…」
「色とか種類とか?」
「おん、ジーンさんにもそれ聞かれた!」
ようやくいつものテンションになってきた謙也に、呆れつつも小石川くんがほんで?と更に促す。
「いつも質問して、答えたら切られてたん。でもな、いつだか急に『何かあったの?』って、言われてん」
「急に?」
「おん。あ、でも急っちゅーか、その頃銀さんと居るようになって、隣の席の市川さんが、銀さんと同じ仏閣愛好会やーって盛り上がって、よう喋るようなったねんけど」
なるほど、銀さんと市川さんは部活一緒だったのか。じゃあ、謙也が市川さんと仲良くなったからジーンさんは「何かあったの?」なんて聞いて……うん?可笑しくないかそれ。
ううん?と首を傾げると、謙也が私を見てから床に視線を落としてぽつりと零す。
「でもな、ふと目に入る壱加と白石が、楽しそうにしてるんめっちゃ羨ましかったん。あ、別にな!銀さんと市川さんと話すんおもろないーとかちゃうねん!―――…ただ、ただな」
床から、今度は光くんと小石川くんに視線を移して口を開く。
「2人の隣に…いつも俺がおった所に、財前や小石川がおって、俺はそこに混じれへんのがちょっと……寂しいな、思たっちゅー話や」
再び俯いて正座する謙也に、思わず萌え殺されるかと思った。何よこの生物、可愛すぎか。パンッと額を平手打ちして顔を隠しつつ、にやけないように唇を噛み締める。そうだった、コイツ私並みの怖がりでその上寂しがりだった。悔しい、久々にちゃんと喋ってるのもあって結構キタ。そんな私の行動を怒ってると思ったのか、壱加が俺の事嫌なん分かってるけどな、と謙也が慌てる。落ち着くために吐いた深い溜め息が更に謙也を不安にさせたらしく、心配した小石川くんが私の名前を呼んだ。
違う、怒ってないから。萌えただけだから。
なんて言えないので、うん、とだけ返す。何となく視界に入ったのは、泣きそうな謙也と心配そうな小石川くんに銀さんで、その中光くんだけが「コレに萌えたんすか壱加さん」とでも言いたげな顔をしていた。光くん凄いよね、よく私の事分かってるよね。
「あー…それで?」
「え?あ、あぁ、その、寂しいなー思とったらジーンさんが『何かあったの?』言うてきたん」
「ほんでどないしたんすか」
「いや、そのまぁ、さっきみたいに愚痴ったん」
愚痴ったのかよ。本格的にアホ可愛いぞコイツ。なんて眺めてたら謙也が溜め息を吐いた。
「ジーンさん何も言わんと最後まで聞いてくれてん。ほんでな、電話切る前に『いつでも聞くよ』言うてくれて」
せやから怖なくなってん、と続ける謙也に私達は顔を見合わせる。何となくだけれど私が推測するに、ジーンさんは謙也が応援している子ではない別の女の子と話しているから電話を掛けている訳ではなく、単純に質問をし続けているだけのようだ。まぁ、後半の「何かあったの?」の理由は分からないけど。
「出れへん時もあるんやけど、何も言わへんのジーンさん。俺からかけれたらえぇなーって思たりするくらいでな」
仲の良い友達の話をするように嬉しそうに話す謙也に、ちょっと本格的にコイツ友達いないんじゃないかと心配になってきた。あと謙也じゃないけどちょっと寂しい。絡まれたくは無いけど、何だかんだ色々知っていても仲良くしてくれるからなぁ。なんて見ていたら、謙也が首を傾げた。
「ほんで、壱加は何が聞きたかったん?」
「え、あぁ今殆ど聞けたから大丈夫」
そう手を出す。とりあえずジーンさんが他の女の子と仲良くしてるから電話し続ける訳ではないってのが分かっただけ良しとするか。でも新堂くん、階段から突き飛ばされてるし、仲良くなってるとはいえ謙也が安全な訳ではないんだろうけど。ふぅ、と息を吐けば謙也が眉を下げる。
「役に立てへんくて、ごめんな」
しゅんとして言う謙也に、ついに私は勢いで部室を飛び出して意味も無く叫んだ。後ろで謙也が私の名前を叫んでいるが、知ったこっちゃない。そうやって私はほだされるんだよ知ってるよ知ってたよ!!
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