「なんでこのメンバーやねん」
私の深刻な第一声は、一氏くんのあっけらかんとしたツッコミ、ってこれ前にもやったぞ。ひどいよ一氏くん、2回も邪魔するなんて。恨めしげに一氏くんを見れば前回同様軽いノリで、あ、すまんと手を上げた。
「でも、ほんまに何でこのメンバーなん?」
白石が不思議そうに首を傾げる。今回の化学準備室に集まったメンバーは私に一氏くん、白石に小石川くんに銀さんに金ちゃんだ。何で、って言われてもそんなの私も知りたい。何で金ちゃんいるの。首を傾げれば小石川くんが苦笑する。
「なんや、金太郎がな」
「皆ばっか壱加ちゃんとズルイやんかー!ワイもー!ワイもジーンさん探すー!!」
「言うて聞かへんのや」
堪忍な、と眉を下げる小石川くんと隣で駄々こねる金ちゃんに思わず私も苦笑した。白石が、金ちゃん、と左手の包帯を解き始めると小さく悲鳴を上げて私の後ろに隠れた。何、あの包帯外すと何が起こるの。眉間にシワを寄せれば皆が呆れたように笑った。そんな中、金ちゃんだけが私の後ろで毒手嫌やぁと震えてる。毒手、ってなんか友達が貸してくれた漫画にあった気がする。ちらりと金ちゃんを見れば目が合って、彼はしゅんと眉を下げた。
「壱加ちゃんも、ワイの事ジャマやー思とる…?」
「えっ、いやそんな事ないけど、別に今から話す事楽しくないよ?」
「でもジーンさんの話すんのやろ?」
金ちゃんの問い掛けに頷くと、金ちゃんはせやったら!と握り拳を作る。
「壱加ちゃんの事イジメとるやつワイも一緒に探すん!ほんでワイがやっつけたるで!」
パッと笑って、せやから安心してな、と言う金ちゃんにキュンってした。いや、嫌がらせのはもう解決してて別にジーンさんには苛められてないんだけど。ないんだけど、金ちゃんの気持ちが嬉しいから黙っておく。ちらりと皆に目を向ければ、皆笑っていて白石が、それならしゃあないわ、と包帯を巻き直していた。
「そういや、嫌がらせまだ続いとんのか?」
一氏くんの言葉に思わず、え、と声が漏れる。松本さんの誤解は解けたので、嫌がらせは昨日から無くなっている。今朝なんて久々に綺麗な下駄箱を朝から見て、感動し過ぎて友達に話したくらいだ。それが普通やで、と淡々と返されたけど。まぁそんな訳で答えとしては、続いてないのだけど。固まる私に一氏くんが思い切り眉間にシワを寄せた。
「なんや、今更隠すなや」
「いや、えっと…話して、なかったっけ?」
誤魔化すように曖昧に答える。もしかして、白石話してないのかな。へらりと笑えば、一氏くんが溜め息を吐いた。
「白石と財前からXがウチのクラスの松本やっちゅーのは聞いたけど、嫌がらせのは何も聞いてへんで」
なるほど、やっぱり嫌がらせの方のは隠してるのか白石。まぁ光くんに黙ってるのに皆に言ったりはしないよな。一人納得してると、銀さんが九十九はん、と心配そうに顔を覗き込んできた。
「あ、なんかね、今朝は何も無かったんだ」
「今は?」
「まだ見てない、先にこっち来たから」
嘘は言ってないぞ。じとりと見つめてくる一氏くんに、てへ、と笑えば盛大に溜め息を吐かれた。
「このまま無くなればええな」
ぽつりと呟かれた一氏くんの言葉に一瞬目を丸くして、うん、とくすぐったさに笑って頷いた。白石がめっちゃ見てる気がするけど敢えてシカトさせていただく。
ほな本題に入ろか、と銀さんが手を叩くと、皆がそれぞれ頷いた。
「先ず最初に、Xはさっきユウジが言うたように松本さんやった。でもジーンさんは別におるみたいや」
「別におる?」
「うん。あ、そうそう。小石川くんと銀さんはすでに知ってるんだけど」
「「おん?」」
「謙也、今でもジーンさんと電話してるよ」
さらりとそう言うと、目を見開いた白石と一氏くんが、少し間があってから、もう1回、と人差し指を立てた。ハッハッハ、私と光くんと同じだ。
「謙也、今でも、ジーンさんと、電話、してるよ」
ゆっくりと区切ってもう一度言えば、2人は目を見合わせた後、白石は頭を抱えて一氏くんは叫んだ。
「あっ……のアホンダラ!!ほんまいてこますぞ!!」
「なんっで話さへんねん…いつも聞いてへん事はよう喋るくせに…」
あっはっは、やっぱそうなるよね。遠い目をして笑っていると、小石川くんも苦笑いしていた。金ちゃんだけは、訳が分からないのかきょとんと首を傾げている。だぁぁ!と行き場の無い怒りを叫んでいる一氏くんの肩を叩いて、私と光くんで蹴り飛ばした事を伝えれば、拳を握り締めて、思いっきり息を吐いた。
「電話、なんて?」
頭を抱えていた白石が額を抑えつつ問い掛けてきたので、どう話すべきかと少しあって口を開く。
「質問ばっかり、みたい。新堂くんと一緒だよ」
「なん、じゃああのアホンダラ他の女と仲ええんか」
「ワイ、謙也が女の子と話しとるん、壱加ちゃんしか見た事ないでー?」
あっけらかんと言う金ちゃんを、全員で見つめる。言った本人は、はてなを飛ばしている。暫く間が合ってからまたお互いに向かい合う。
「あぁ、うん。なんや、今ので落ち着いたわ」
「せやな。ありがとうな金ちゃん」
「?かまへんでー」
本当にありがとう金ちゃん。あんなに怒ってた一氏くんがメチャクチャ冷静になったよ。そんで謙也ほんとに可哀想だね。ごめんね、いないところでこんな言われよう面白いね、とか思って。同じ事を思ったのか小石川くんが小さく咳払いをしてから、そのな、と話し始める。
「謙也、白石と九十九さんと話せへんの寂しがっとるみたいやから、白石だけでも話したって」
「は?どういう事なん小石川」
「ジーンさんに心配されるくらい、俺や財前が2人と仲ええの寂しかったみたいやで」
ほわっと笑う小石川くんに私がフリーズする。待って、それ以上は話すの止めよう?私が何してたかとか話したりしないでねお願いね。
「そう言えば、その話の後に九十九はんが怒って出てっいったん、気にしてはったで」
銀さんの、アホ。
ダンッと近くの机をグーで殴れば、白石と一氏くんが、ほぉー?と含みのある言い方をしてきた。くそ、何故だ。この2人にも光くん同様バレてる気がする。そうですよ謙也に悔しいけれど萌えましたよ、えぇ。だって犬だよ犬、あれ犬。可愛すぎかよ。悶える私に金ちゃんが、どないしたんー?と背中を撫でてくれた。ありがとう、頑張って落ち着くね。
「とりあえず、ジーンさんは他の女子と仲良くしてるから電話してる訳じゃないみたい」
「ほんで自分は謙也に萌えた、と」
「黙れ白石」
「せやったら九十九が謙也と話しとっても問題ないかもなぁ。謙也も九十九も寂しないでー」
「お願いします一氏くん止めてください、いじるのほんと止めてください」
その場に土下座すると、白石と一氏くんがどないしよかなぁ、と笑っていて悔しくて唇を噛む。酷いよ2人してイジメっ子かよ。ちらりと顔を上げればイジメっ子2人の後ろで、理解したのか銀さんには合掌され小石川くんに堪忍、と声無く謝られた。遅いよ。
「壱加ちゃん壱加ちゃん」
「なぁに金ちゃん。今、心バッキバキに折れてるんだけど」
「2人にあんまイジメんといてーてワイ頼んだるから、ちょっと聞いてもええー?」
「うんいいよー」
「謙也がジーンさんと電話しとって壱加ちゃんなんか困るん?会議やー言うから壱加ちゃんが大変なんかな思ってん。でもイジメなくなったんやろー?」
そう首を傾げる金ちゃんを床に顔を付けたまま見つめて、うんと、と体を起こす。
「新堂くん…光くんのクラスメートの子はね、ジーンさんが応援してる子じゃない別の子と付き合って怪我したみたいで」
「おん」
「今は大丈夫でも、このまま放っておいたら謙也も怪我するかもでしょ?そしたらテニスの大会、皆で全国まで行けなくなるかもじゃん」
だから、と床を見ながら続ければ、何故か準備室がシンと静まり返り顔を上げる。5人は何故か目を丸くしていて、変な事言っただろうかと首を傾げる。すると、金ちゃんは二パッと笑って、白石と一氏くんはバツが悪そうに頭を掻いた。
「自分らの負けやな。白石、ユウジ」
「そないに言われたら、からかった俺らのが阿呆やんなぁ」
溜め息を吐く白石の肩を、小石川くんが笑いながら叩く。調子狂うわ、とガシガシ頭を掻く一氏くんにはてなを飛ばしてると、金ちゃんが、絶対負けへんで!とガッツポーズを作った。うん、負けないと思うよ。練習見てる感じ人間業じゃないもん。万国ビックリ人間かなってほんと思ったよ。連られてガッツポーズを作ると、銀さんが床は冷たいやろ、と立ち上がらせてくれた。イケメンですね。
「でも、具体的にどないするんや九十九はん」
手を取って立ち上がると、銀さんに問い掛けられて戸惑う。ぶっちゃけると、何も考えてない。だってジーンさん電話しかしてないし、謙也だって女の子と会話とか、
「あ」
「おん?どないしたん」
女の子と会話、してんじゃんあいつ。私以外で唯一、会話してる女の子いるじゃん。
「銀さん」
「なんや」
「市川さん、って銀さんから見てどんな子?」
銀さんを見つめて聞けば、白石が分かったのか感嘆の声を上げる。ここ最近で謙也が話してる女の子って、金ちゃんが言うように本当に私以外いないなら、市川さんしかいないじゃん。なんでもっと早く気付かなかったかな。ジッと見つめていると、天井を仰いでから銀さんが口を開く。
「大人しい、控え目な女子…やな」
「謙也と話し出したキッカケとか、覚えとるか師範」
一氏くんも理解したらしい、銀さんに問い掛ける。師範って何。似合い過ぎかな。
「謙也はんと話しとったところにたまたま市川はんが来たんや。同じ仏閣愛好会でな」
やっぱり、銀さんと部活が一緒、ってのが話し出すキッカケっぽいな。それに一氏くんが前に言ってた、ジーンさんが応援する女の子の特徴に当てはまりそうだし。ふむ、と考えていると、金ちゃんがはい、と挙手した。挙手好きねテニス部。
「どうしたん金太郎」
「えーと、うんと、そのイチカワさんゆー子が謙也の事好きなん?」
「まだ分からへんけどな」
「その子、ちゃんと生きとるん!?」
あっけらかんと言う金ちゃんを本日二度目、全員で見つめる。言った本人はやはりはてなを飛ばしていて、暫く間が合ってからまた全員お互いに向かい合った。
「ほな、市川さんにはワシが色々聞いてみよか」
「うん、銀さんお願い」
「なーなー!」
「そしたら俺は小春と、市川さんについて調べてみるわ」
「せやな、頼むわユウジ」
「九十九、今日は財前が家まで送るからどっかで待っとってな」
「あ、うん分かった」
「イチカワさん幽霊さんやないのー!?」
「「金ちゃん止めたげて!!」」
哀れすぎて半泣きな私と白石の声が化学準備室に響いた。ジーンさんの件が終わったら、ちょっとだけ謙也に優しくしてあげようと思った。ちょっとだけ。
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