真・ジーンさん3



ただ今、初めて訪れる5組の教室にそわそわしてます。


「スマン、待たせてしもたな」
「銀さん」


教室に入ってきて直ぐに私に気付いてやって来たのは銀さんで、大丈夫、と手を振れば頭を下げられた。
数日して、銀さんに呼ばれてやって来たのはいいが、タイミング悪く銀さんが委員会で教室を出るところで、何故か教室の中で待っていてくれと5組の銀さんの席で待ってたなうでした。なんかもう皆見てくるし、何人かに「銀さんの弟子なん?」とか「どんな修行するん?やっぱ滝か?」とか言われるし、何、銀さんほんとに修行僧か何かなの?テニス部じゃないの?
移動しよか、と銀さんが教室内を見てから呟くので頷く。ちょっと目立っちゃったもんね。立ち上がって椅子をしまうと、銀さんの後を追って5組を出た。


「九十九はん、昼はもう済ませとるか?」
「ううん、まだ。銀さんは」
「ワシもや。ほな中庭でもええやろか」
「うん。中庭でご飯初めてかも!」


へらりと笑えば、静かでええとこや、と銀さんは前を向く。そう言えば銀さんとこうして2人でご飯なんて初めてな気がする。銀さん、あいつらとあんま一緒にいないし、それでかな。小春ちゃんに聞いたら「師範は修行があるからあんま来ぇへんねん」って言われたな。だから修行僧なのかな、中学生じゃないのかな?歩きながら、銀さんが私の歩幅に合わせてくれてる事に気付いて、ごめん、と少し歩むスピードを上げる。


「気にせんとええ。男が合わせるもんや」


何この人イケメンかな。
感動と気恥ずかしさで俯いてお礼を言えば、おん、と返ってきた。銀さん本当にイケメン、というかなんだろう、本当に中学生か疑うよ。渡邊先生ちょっとは銀さん見習おうよ。
しばらく歩いて到着した目的の中庭で、コッチや、と銀さんに促されて、花壇の脇に腰掛けた。


「それで、話って市川さんの事?」
「それは大して聞けへんかった。謙也はんに想いを寄せとるか、とは聞けへんしな」
「あー…まぁ、うんそうだよね」


苦笑しながらお弁当を開けると、銀さんもお弁当を開けて手を合わせる。サイズがやっぱり大きいな。まぁ体格が全然違うもんね。なんて思いながら私も手を合わせる。


「謙也はんは、いつも明るくて自分なんかにも優しくしてくれる。そう言うてたわ」


弁当に手を付けながら銀さんがぽつりと話し出す。自分なんか、なんて卑下するような事言わなくてもいいのに。市川さんは、笑顔が可愛くて優しくてクラスメートの事を良く知ってると思う。私、半分くらいしか名前言える自信ないもん。でも皆の事見てて、私にも優しく話し掛けてくれる、素敵な子なのに。


「自分なんか、なんて卑下したらあかん。市川さんは素敵なお人やで」
「え?」
「ちゃんとそう伝えとるから、九十九はんがそないな顔する必要あらへん」


そう、銀さんが私を見据える。銀さんが凄いのか、私が顔に出すぎなのか。ありがとう、と笑えば無言で頷いた。静かに2人でお弁当を食べていて、そう言えばどうして呼ばれたのだろうと考える。市川さんの事だと思っていたら違うみたいだし。というか、市川さんの事なら私と2人でじゃなくていいはずだもんね。銀さん、と名前を呼べば視線を向けられる。


「今日、何で私を呼んだの?」
「…聞きたい事があってな」


聞きたい事。きょとんとしていたら、銀さんが箸を置いて私から視線を外して自分の手を見つめる。


「最近、よう襲われんくなったんやろ」
「え」
「九十九はんは怖がりやさかい、よう引きつけてまう。でも、最近は滅多に近寄らんくなったんちゃうか」


何が、とは口にはしないけど多分霊の事だろう。最近、と考えてから確かに前ほど霊に絡まれなくなった気がする、と思い立つ。王子に会った時みたいに自分から話しかけちゃったのもあるけど、前はもっと絡まれていたような。ジーンさんで忙しかったから、とかじゃないだろうし、じゃあ何で。


「その御守りを持ち始めてからとちゃうんか」


私の疑問に答えるように銀さんが見つめるのは、私のポケットから出ている一氏くんから貰ったお守りで、そう言えば、と思う。お守りを貰ったのはジーンさんについて調べ始めた頃で、その前は霊に良く捕まっていた気がする。この間の光くんと千歳くんと帰った時も、いつもだったら話し掛けられたり追い掛けられたりするのに、あの霊は遠くからずっと見てるだけだった。


「どない作りかは分からへんけど、恐らく霊の意識を九十九はんから逸らしとるんやろうな」
「意識を、逸らす…?」
「霊感があってもな、意識せんと放っておける人もおる。そういう人は、自分が狙われへん限り霊に関わる事は無い」


放っておける、って私の従兄弟みたいな事が出来る人の事かな。あいつ霊感私並みにあるけど、そう襲われないし浮遊霊くらいならパンッて祓っちゃうしな。


「九十九はんは極度の怖がりやろ。見ないように、意識しないように、しないように言うて一番意識してまう。せやから霊に見つかりやすいんや」
「うっ、だって怖いんだもん…」
「それを、その御守りが分かりにくくしとるんやろな。九十九はんを最初から狙ってこうへん限り、きっとこれからも守ってくれるやろう」


そう言ってから、両手を合わせてご馳走様、と頭を下げる銀さんに連られて私も手を合わせる。そっか、このお守り、そんなに効力は無いなんて一氏くんは言ってたけど、祓うとか以前に絡まれないようにしてくれてたんだ。ケータイを取り出して、そこに付いたお守りを指で撫でる。あ、もしかしてそれを心配してくれてたのかな銀さん。と、顔を上げれば神妙な面立ちの銀さんと目が合って戸惑う。


「ここからが本題なんやけどな」
「う、うん」
「それを作ったんは一氏はんやないんか」


ピタリと思考が止まる。目を見開く私に銀さんは変わらず真っ直ぐ私を見据えていて、言葉が出なくて一度開きかけた口を閉じる。どうして、一氏くんだと思ったのだろう。銀さんから目を逸らして地面を眺める。


「どうして、そないな事が出来るのかワシには分からん。修行も無く霊に関わるんは下手すれば命に関わる事や」
「……」
「一氏はんは、物凄い霊気を持っとるお人や。せやけど、それをコントロールして関わらん方法を知っとるんやと、今まで思っとった」


銀さんは一氏くんが視えるのは、ずっと気付いてたんだ。少し顔を上げれば、銀さんも地面に視線を落としていて、その横顔はどこか切なそうだった。


「視える事を隠す気持ちは痛いほど分かるつもりや。せやけど、こないな事が出来るようなるのはそれなりの努力が必要なんや」
「そう、なの…?」
「おん。それを誰にも知られんとやってのけた一氏はんは、ほんま凄いお人やと思う」


空を仰ぐ銀さんに、私も同じ様に空を見上げた。当たり前のように一氏くんがしてる事は、きっと当たり前に出来る事では無くて、それが出来る自分を皆には隠していて。知られる事の恐さは痛いほど分かるから、今も、銀さんに私から告げる事は出来なくて。ギュッと制服の裾を握り締めれば、突然頭を優しく撫でられる。


「九十九はんは、ほんまにお優しいお人やな」


困らせてすまんな、と撫でられたその手のひらがとても優しくて、思わずお父ざぁぁんと銀さんの胸で泣いてしまった。最近「本命はどれだ!父さんドラマみたいにそいつを一発殴って『娘はやらん!』ってやりたいんだ!」なんてウキウキと言ってくる私のお父さんと交換したい。

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