『初めまして市川千恵さん。コレが忍足謙也くんの好きなモノよ。これからはあたしが応援してあげる』
そう笑いかけたらチエはきょとんとした後に声を上げて笑い出して、今度はあたしが目を丸くしたの。
「ふっふふっ、あっ、青、青汁の箱、箱て、ふふっ忍足くんらしいわ」
そう言ってお腹をかかえて笑うチエは、とてもカナに似ていて、とてもなつかしい気持ちになったのを、今でも覚えてる。
「ジーンさんジーンさん」
『どうしたのチエ』
「ジーンさん、私以外の子達も応援しとるのにこうして毎日うちに来るの大変やないの?」
『?いまはチエ以外はアオしか会いにいってないわ』
「そうなん?何か学校でな、ジーンさんから電話きたー言う子めっちゃおるから、ジーンさん大変やろなって思たんやけど」
『……そうなのネ』
あたしを名乗ってる『ダレカ』がいるとチエの話で知ったけれど、それで女の子たちがシアワセになっているなら、別にどうでもよかった。
ただあたしはカナみたいな女の子を見たくないだけ。だからアオが泣いたときは新堂も、気付けなくてアオを傷つけたあたしも許せなかった。
「新堂くん、いつもウチにみのりの話ししてくれるん。それが、ほんま辛くて、でもジーンちゃんも、新堂くんも楽しそう、やったから、言えへんかったん。ごめん、ごめんね」
そう言って泣くアオに、とても、とても苦しくなった。
俺の話聞いてくれるんや蒼ちゃん。
ちょっとした事で気ぃ使てくれるん蒼ちゃん。
そうやってあたしに話してた新堂が許せなかった。だからチュウコクしたの。あなたにはアオがいるんだってちゃんと知ってほしかった。新堂に近づく子にもささいなイヤガラセをしてたら、アオがすごく怒ったからすぐにやめた。ミノリはアオの友だちだから何もできなくて、アオの役に立てないあたしが少しだけイヤになった。
チエが楽しそうに忍足くんの話をするのが、あたしにとってゆいいつの救いになってた。でも、いつからかチエもさみしそうにしていて。
『どうしたのチエ。忍足くんとお話できてるのにさみしそう』
「あー…うん、忍足くんな、最近寂しそうやな、って」
『さみしそう?』
「白石くんと九十九さんと話してへんの、最近。そんで2人のこと見てて…。喧嘩でもしたんかな」
マクラを抱えてそう言うチエは、ホントウにやさしい子。だから聞いてあげる。チエが忍足くんの力になれるように。
『何かあったの?』
「…何か、っちゅーか」
『ゲンキないから、何かあったの?』
そう聞けば、電話ごしに息をのむ音が聞こえて、少ししてからポツリポツリと忍足くんが話してくれた。
チエや石田くんといるのは楽しいけど、今まで自分のいた場所に他のダレカがいるのが、少しさみしいのだと。もうソコに自分の居場所はないんじゃないかと。そう、こぼす忍足くんのコトバをあたしはただ静かに聞いて。一通り話したのか、いつものように明るく話し始めた忍足くんに少しだけホッとする。居場所がないようでこわい。そう話していたカナの顔を少しだけ思い出したから。
「なぁジーンさん」
やさしい声で名前を呼ばれる。
「ちゃんと名乗ってへんやろ俺。忍足謙也、謙也でええで!何や急に愚痴ってもうて堪忍な、ほんまありがとぉ」
まさか、自己紹介されるともお礼を言われるとも思わなかったの。新堂は最近の事を聞けば勝手にしゃべってたから。『あたしと』こんな風に話してくれる人は、何人も電話してきたけど、ハジメテだった。
『―――いつでも聞くよ』
質問以外のことを男の子に言うのはハジメテ。どうしてこんなこと言ったのかあたしにもわからない。でも。
「あっ、俺も!俺も何でも聞くから色々話してなジーンさん!」
こんな風に話してくれる男の子はハジメテで、何も言えなくなってあたしは電話を切った。
―――…
『そしてさっきのコトバで、あたしはカンペキ、ケンヤくんに恋しちゃったのよ』
頬を押さえて左右に揺れて照れるジーンさんは恋する乙女でした、まる。その謙也くんの膝の上で大胆ねジーンさん。そしてこの回想(が漫画なら入っただろう話)で分かったのは、青汁は粉だった事と、新堂くんを好きな女の子達が怪我してたのは偶然じゃなかったって事と、新堂くん一発ぶん殴ろう、だ。ちょっとマジで蒼ちゃん可哀想だぞこの野郎。
光くんに無言で、右拳で左手を殴ってから親指を立てるジェスチャーをすれば、真顔で親指を立ててから頷いてくれた。よし、光くんからオッケー出たから放課後にでもやりに行こう。
「2人とも気持ちは分かるけど物騒やでぇ」
コロコロと小春ちゃんが笑って、一氏くんが若干引いてるので2人にもジェスチャーが伝わったらしい。テヘ、と笑うと謙也とジーンさんだけがきょとんとしている。そんな中、光くんがあぁ、と声を上げる。
「でもえぇんか。そのチエってのが謙也さんの事好きなんに自分が先に告白してもうて。それに、なんで好きなんに謙也さん襲ったのかも分からんし」
そう軽く首を傾げる光くんに私達もジーンさんを見つめる。彼女はにっこりと微笑んで謙也を見上げた。
『それはね、』
そう話し始めるジーンさんを私達は静かに待つ。うん、これ漫画ならもっかい回想かな。
―――…
ケンヤくんが気になって、これがきっと恋なんだって思ったら、チエの応援なんてできなくなっちゃう。だから、ちゃんと言わないとダメなの。『友だち』だから。傷つけちゃうかもしれないけど、ウソもつきたくないの。
『ねぇチエ、あのね、』
「ゴメンねジーンさん」
『え?』
あたしが話す前にチエがなぜか頭を下げた。どうして?チエがあやまることなんてないの。あやまるのはあたしの方なのに。ゆっくりと顔を上げたチエは少し泣きそうで、きっとケンヤくんと何かあったんだと思った。
「ゴメンジーンさん、あんなに応援してくれたんに私、私…!」
うそだと言って。
あんな風にあたしに優しくしてくれたケンヤくんがチエを傷つけたなんて。そんなの。
そんなの、ソンナノソンナノあたしがゆるさな、
「石田くんの事好きになってもうた!!」
『…………え?』
「忍足くんの事ほんまに好きやったんよ?!でも3人で話すようなって、石田くん些細な事でも気ぃ使てくれて、忍足くんは私なんかにも優しくて嬉しい言うたら『自分なんか、なんて卑下したらあかん。市川はんは素敵なお人やで』て言うてくれて…!」
顔を真っ赤にして、終いにはマクラに顔をうずめてしまった。
「…どないしよ、ほんまに石田くんが好きやねん…」
―――…
『って言ってたの。だからあたしが告白してもダイジョーブなの。会いに来たのは、あたしが恋しちゃってチエが心変わりしちゃうのも全部ケンヤくんが悪いんだから!って思ってそれを言いたくて』
うふふ、と笑うジーンさん。無言の私達。
「……笑えば、ええやん」
自嘲気味にそう言って遠い目をする謙也に、小春ちゃんは目頭を押さえて一氏くんが口元を覆いながら謙也の肩をポンと叩いた。何となく嗚咽が聞こえてくるから2人とも泣いてるんだろうな、と謙也と同じくらい遠い目で見つめる。
「壱加なんか、ホンマは笑いたいんやろ。我慢せんとえぇで」
「ごめん、ちょっと前の私なら思い切り笑い飛ばせたんだけど、今笑えないわ」
ホントごめん謙也。ちょっとお前に優しくしてやるか!なんて少し前に思ってしまったもんだから、お前的には爆笑して笑い話にしてほしいんだろうけど私には無理だわ。なんか哀れすぎて。
「ホンマ流石っすわー。部長が羨ましがる、えぇオチつきましたやん」
「自分いつも笑いに興味無いやん!?」
そんな中、光くんだけはいつも通りの涼しい顔で拍手していて、何か流石だなって思いながら、この長いジーンさん事件は幕を閉じた。
ちなみに余談だけど、新堂くんにはこの日の放課後に、背後からクロスチョップと言う制裁を与えて「後ろはアカンやつや壱加先輩!!」と見事なツッコミを頂きました。
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