「フゥー!!」
「……」
どピンクの、ジャ〇ーズ、しかも少〇隊とか昭和のか、と言いたくなるような格好で、突然私の周りをクルクル回転し始めたり、とにかく全力で笑かしにくるようになった。どのネタもドン引きする事のが多かったけど、彼はめげずに話し掛けてくれて、それが凄く嬉しかった。
「ねぇ忍足くん、なんで忍足くんの校内放送、全部『至急』なの?」
「うん?呼び出しなんやから速い方がえぇやろ。No,スピードNo,ライフや!」
「……プッ、ハハッ、なにそれ、アハハッ!」
真面目に言う忍足くんに思わず私は吹き出して、お腹を抱えて笑い出す。きょとんとして、なんやねん九十九さん、と呟く彼に、だってNo,スピードNo,ライフってスニーカーの広告にありそう、なんてヒィヒィ言いながら笑っていたら、教室内にドッと笑いが起きる。笑われているはずの忍足くんは、そんな広告あったら広告料もらうわ!考えたん俺やで!と更に笑いを呼んでいる。人に笑われる事が怖いと思っていたのに、皆の笑い声が心地好くて、笑うのが怖かったのが嘘みたいに皆と一緒になって笑う。
「九十九さん、笑えるんやねぇ」
一頻り笑ったところで、私の前の席の女の子が振り返ってニヤニヤ笑ってるのが見えて、慌てて口元を押さえて俯く。彼女はギャルとまでいかないけれど、切れ長美人系でハッキリ物を言うタイプの子だ。女の子は、怖い。特にクラスの中心にいるようなタイプや、彼女のようなタイプの子は。胸が苦しくなって、口だけでなく胸元をギュッと握り締める。
「東京モンやし、大阪のノリ苦手なんかなーって思ってたから、笑てんの見てちょっと安心したわ」
けれど、降ってきた言葉はとても暖かい言葉で。目を見開いて顔を上げれば、彼女は私に右手を差し出していた。
「今更やけど、ウチ立野ヒロカ。ヒロでええよ。壱加、って呼んでもええ?」
「…うんっ…!」
泣いてしまいそうな気持ちを堪えて立野さん―――ヒロちゃんの右手を握り締めれば、それを口火にクラスメート達がドンドン話し掛けてきた。
「私も九十九さんと話してみたかってん!」
「え、」
「忍足のネタに笑わへんから九十九さん鉄壁やー思たわ俺」
「せやな!九十九さん笑かしたらワンマンライブやらせてもらえる言う噂まであったんやで!」
「そ、うなの…?」
次々と掛けられる言葉はどれも本当に優しくて、ふと皆の後ろにいる忍足くんを見れば、私の視線に気付いた後にグッと親指を立てた。それがどんな意味だったのか本当のところは分からないけれど、まるで「大丈夫やったやろ」と言われてるようで、思わず笑みが零れた。
この日を境に私はクラスに打ち解けることが出来た。幽霊と人間を出来るだけ見極める努力もしたし、頑張って怖がらないようにした。と言っても怖いものは怖いし、突然現れたやつに情けない悲鳴を上げてしまう時もあったけど「怖がりやなぁ」の一言で皆片付けてくれた。―――もう、東京の時のような事は嫌だった。
ある日の昼休み。ヒロちゃんは部活、忍足くんは先生に頼まれて放送室に行ってしまったので一人でお昼を食べていた。自分の前を誰かが通って反射的に顔を上げれば、忍足くんの席を見つめて首を傾げる人がいた。
(あ、確か、白石くん、だ…)
忍足くんと同じテニス部で、よく忍足くんに会いに来るイケメンさん。イケメンはイケメンを呼ぶんだな、と思ったのは記憶に新しい。もしかして忍足くんを探してるのかな?眉間を寄せて首を傾げる姿も綺麗だな、じゃなくて。知らない人に話し掛けるのは怖かったけど、ギュッと箸を握り締めてから口を開いた。
「あ、あのっ」
「うん?」
「忍足くん、なら、放送室に行ってるから、まだ戻らない、かも」
徐々に弱くなっていく語尾に、白石くんはポカンとしていて、私は話し掛けた事を後悔する。あぁぁもっとヒロちゃんくらいハッキリ話せるようになりたい。なんて思っていたら、白石くんがふわりと笑った。
「おおきに」
ああ、目の保養、ってこういうの言うんだ。
ぶわっと顔が赤くなるのが分かって小さく、どういたしまして、と返して再びお弁当を食べ始める。態度悪かったかな。でも無理、イケメンに笑いかけられた。もうこれだけで一週間は生きられそう。そんな事を思いながら黙々とお弁当を食べてたら、椅子を引く音が聞こえてそっと其方を見れば、白石くんが忍足くんの席に当たり前のように座っていた。え、何で。私の視線に気付いた白石くんが、あぁ、と声を漏らす。
「ご飯食べとんのに近くで立ってたら気ぃ散るかな思て」
へらりと笑う彼は、しみじみ忍足くんの友達なんだな、と思った。そんな気を使わなくていいのに。お礼を言おうと口を開いたところでピンポンパンポーン、とチャイムの音が鳴り響く。
『3年3組相澤先輩ー!生活指導の山下が呼んどるんで至急職員室に、て先輩一体何やらかしたんや!とにかく至急職員室に行ってくださーい!』
そこでブツリと切れ、先程と同じチャイムが流れる。私と白石くんは無言で放送の流れてたスピーカーを見上げる。
「……フフッ、また『至急』って、あははっ!」
「アイツ、前世サメとちゃうんかなぁ」
「サメ!サメって、ハハッ、フフフッやだっ!」
そう笑ってからはたと他クラスの初めて話す人だったんだと口篭る。そんな私に白石くんは一つ置いてから満面の笑顔を向けてくれた。
「俺、白石蔵ノ介や。良かったら忍足くん来るまで話し相手になってや」
よろしゅう、と差し出された手を取りながら恐らく真っ赤な顔で、九十九壱加です、と声を絞り出した。イケメンってずるい。
←