花いちもんめ2



「―――2人は、幽霊って信じる?」


私の質問に2人が目を丸くしたのを見て、聞き方間違えたって思った。いやだってどこから話していいか分かんなかったんだもん。今まで「聞きたい」とか言われた事無かったし。えっと、と戸惑う私にきょとんとしたまま忍足くんが口を開く。


「いや、全然」
「ですよねー」


ブンブン、と首を横に振る忍足くんに思わず普通に返す。忍足くん、お化け屋敷とか怖がるけど実際はいないモノって認識してそうだもん、スプラッター苦手というか。ちらりと白石くんを見れば、呆れた顔で忍足くんを見てから私の視線に気付いて、あぁと声を上げる。


「俺も信じてへん方やな。恐怖からくる妄想とか作りもんやろどうせ、って思とった」
「……思とっ…た?」


思っとる、ではなくて…?首を傾げれば、白石くんは小さく頷く。


「そんな非科学的な事起こる訳ないって思っとった。―――でも、あの女の子達は『幽霊』なんやろ?」


口元に手を添えて、そう問い掛ける白石くんに今度は私がゆっくりと頷いた。
あの子達は幽霊―――少なくとも『この世の人間』では無い。浄めの水効いてたし。ていうか凄い叫び声だったなー……私、呪われたりとかしないよね?あ、どうしよう嫌な想像しちゃった。想像した事を忘れようと頭を振ると、2人が不思議そうに顔を見合わせた。それに慌てて両手を合わせる。


「ゴメン何でもない。えっと、それで…何を話せば、いんだろ…」
「幽霊がおるっちゅーのは信じるしかないのはいいんやけど、今はもう大丈夫なん?」
「せや!また襲ってけぇへんよな!?なんや『白石くんがほーしい』言うとったけど追ってけぇへん?!」


ガッと私に迫る忍足くんに少し後ずさると、白石くんが呆れつつ忍足くんを後ろから小突く。ありがとう、ビックリしたから助かった。小さく息吐いてから口を開く。


「分かんない、けど…多分、大丈夫」
「根拠は?」
「公園から出たから。あの子達ね、朝見た時は公園から一歩も出てこなかったの」
「つまり、テリトリー外やから平気って事か」


そう。『公園』という彼女達のテリトリーから出たから追ってくることはない…と思う。水も浴びてるし、多分、きっと。自分に言い聞かせる様に頷くと、忍足くんが九十九さん、と私の名前を呼ぶ。視線を向ければ、彼は私の手元を見ていてつられて私も手元を見る。そこにはさっきぶちまけた水が入っていたペットボトルがあるだけで、コレがどうしたんだろうと再び顔を上げる。


「それ、何なん?御神酒?」
「流石に学校にお酒持ってかないよ、お水だよ」
「「水??」」
「母さんが作った、ちゃんと清められた特別なお水だけど」


そう言ってペットボトルを握り締める。母さんホントにありがとう。効果は抜群だったよ。忍足くんがほー、へー、なんて言いながら色んな角度からペットボトルを眺めてる。コレもう空っぽだよ忍足くん。白石くんもジッとペットボトルを見つめてから私に向き直り、そう、それはもう満面の笑みを浮かべた。


「お陰で助かったんやな、ありがとぉ」


そういうのは好きな女の子にだけ向けて下さい。
グワッと一気に顔が赤くなるのが分かって、目を逸らして小さく、どういたしまして、と返す。白石くんは自分がイケメンなのを自覚して欲しい。ホントに。早急に。でないと心臓持たないから。視界の端で、忍足くんがメモを取っていて、だから何でメモを取るのまだモテたいの、と心の中でツッコむ。


「ん?ちゅー事は公園に行かへんかったらもう大丈夫なんやな?」


メモを取る手を止めて首を傾げる忍足くんに、私の代わりに白石くんが、そうなるな、と返す。すると、パッと顔を明るくして忍足くんが立ち上がった。


「ほんなら今日はたこ焼き屋やめて俺んち来おへん!?お好み焼き作ったるわ!」
「たこ焼きちゃうんかい」
「今日、夕飯お好み焼きやねん!たこ焼きはあそこの屋台食べてから作ったるでー!」
「作っては、くれるんだ」
「勿論!ウチな、この商店街抜けたら直ぐやから案内したる!」


笑って忍足くんが指差す方を見て、彼に続いて立ち上がった私と白石くんはピタリと動きを止める。恐らく真顔で静止したであろう私達を見て、忍足くんがきょとんとして、どないしたん?と自分が指差す方へ振り返り、それはそれは綺麗に彼は止まった。


「……忍足くん、さっき何処に向かって走っとったん?」
「い、いいい家のある商店街、やな」
「やだ、やです、何も言わないでください」
「……もいっこ聞くけど、たこ焼き屋は公園挟んで忍足くん家と逆にあるんよな?」
「お、おん。そー…なんねんな」
「―――…なぁ」
「やだ、言わないで白石くんお願いします、お願いだから」
「目の前に、文字が反転しとるたこ焼き屋の屋台見えるんやけど、どういう事やろなぁ」


言わないでって言ったのに。白石くんのアホ!前にいる忍足くんの顔がサッと青ざめていくのが見えて、私は既に泣きそうだ。
忍足くんが『商店街』と指指したところは、どう見ても商店街ではなく公園を抜けた『大通り』で、其処にあるたこ焼き屋の屋台は白石くんの言うように、まるで鏡で映したみたいに文字が逆さまだった。


「ほ、ほら、気が動転してたからコッチが商店街だと思ったんだよ、うん、ねっ忍足くん!」
「おっ、おん!右も左も分からんくなったみたいであっはっはっ」
「文字はあれだよね、出店の屋台的な感じでちょっとオシャンティーにしてみたんだよ、ねっ忍足くん!」
「せ、せやなっ!いやーこのオシャンティーさ気付かんかったわー!」
「オシャンティーに、電柱の住所まで文字が逆さまなんて流石大阪!……とか言ってもまだ自分ら現実逃避するか?」
「「すみませんでした」」


電柱を見てから肩を竦める白石くんに、私と忍足くんは同時に90度の綺麗なお辞儀(当社比)をした。ううう、だって認めたくないんだもん。まだあの子達に追われるかもしれないとか、やだ怖い無理。2人を守るって決意固めた時に気付こうよ。もう大丈夫だろうって安心しちゃったもんもう無理頑張れない。もっかい気合い入れらんない。


「九十九さん」


泣き崩れる私に、白石くんは優しく私の名前を呼んで肩を叩いた。


「此処は一体何処なんか、九十九さんはなんか分かるか?」


何処なのか、と言う問いに対する答えは「分からない」だ。でも、白石くんが聞きたいのはそう言う事じゃないんだと思う。どう話そうか、と空を仰ぐ。


「正直分からないんだけど、多分此処から出ないとまた襲われる、かも」
「よくあるお化けの世界ーみたいなとこなんか!?」
「た、多分」
「公園ってテリトリー出とるのに?」
「えぇっと、幽霊にも色々あって、取り憑いて何処までも着いてくるのとか、地縛霊でタチ悪いのは逆に自分のところに呼び寄せて殺しちゃうのとかがいるって言ってた」
「「言ってた?」」
「じいちゃんが、その…そういう道の、プロ?っていうかで」


おずおずと答えれば2人が、ほーと感嘆の声を上げる。東京じゃ、ネタにされたりよく思われてなかったからあんまり言いたくなかったけど、なんか、大丈夫そう。安堵の息を吐けば忍足くんが大きく首を傾げた。


「でも別に俺らはあの子らに呼ばれた訳ちゃうやん?なんで襲われたん?」
「それは、あの多分、誰かが通るのを待ってたんだと、思う」
「自分らのテリトリーに人が入るのを待っとったんやな」
「た、ぶん。それで私達が『公園』っていう彼女達のテリトリーに入ったから完全に引き込まれちゃったんだと思う。多分、花いちもんめの歌の時に」


あぁ、私「多分」とか「思う」ばっかりだ。でもじいちゃんの話怖いんだもん。除霊だとか覚えるつもりもないし。何でわざわざ自分から怖い思いしに行かなきゃいけないの。清めのお水とお塩とじいちゃんの御札に御守りがあれば何とかなるし。……って思ってたんだけど、もっと聞いとけば良かったな。引き込まれた時の帰り方ーとか、大人数相手の対応ーとか。いや、多分「関わるな」って言われて終わりだな。関わりたくないけど関わっちゃったんだよ。頭を抱える私の肩を誰かが叩いて、顔を上げれば忍足くんが真面目な顔で見つめてきてドキッとする。うぅ、イケメンずるい。


「でも公園て、結構人通るし俺もよぅ使うけどこんなん初めてやで?それはなんか理由あるん?」


忍足くんの問い掛けに思わず俯く。それはきっと、私のせいだ。視えるというだけでも霊を寄せやすいのに、極度の怖がりだから他の人以上に寄せ付けるんだ、とじいちゃんが言ってた。現に今朝私が彼女達に見つかって、公園に入ったら捕まった訳だし。こうして頼って私の事信じてくれてるけど、全部私のせいだって分かったら、流石に怒られるよね。……嫌われる、よね。でも、初めて頼ってくれた人達だから、ちゃんと、言わなきゃ。


「あの、ね」
「おん」
「多分、私のせい、なの」


ダメだ、声が震える。
『全部お前のせいだ!』
小学校の時の、男の子達の声が頭の中で何度も響いて、涙が、込み上げてくる。でも、あの時と違って、今度はホントに私のせいだから。


「何で、そう思うん?」


涙は見せたくなくて、泣きたくなくて更に俯く私に、白石くんの優しい声が降ってくる。


「だっ、て……忍足くんは、今まで公園で、何もなかったんで、しょ?でも、今日は、その、捕まって…こんな事、なって。それに、私、朝あの子達に見られて、るの。見つかってたのに、公園入ったから。私の、せいで2人、まで」


ああ、涙が零れる。泣いちゃ、ダメなのに。
目をキツく閉じようとしたところで、そっと額に何かが触れて、顔を上げるより先にバチンッ、と良い音と共に私の頭が後ろに飛んだ。目の前でむすっとしてる忍足くんが構えてるのが見えて、デコピンされたのだと理解するのは容易かった。けど、待って、その構えとさっきのおデコ触られた感じから察するに、両手でやるデコピンでしょ。絶対右手の人差し指と薬指で土台作ってから、左手で中指弾く一番痛いヤツでしょ。従兄弟が昔よくやってきたもん。それよりめっちゃ痛いけど。涙引っ込むくらい痛いし驚いたしで、呆然とする私に忍足くんは、あんなぁ、と少し不機嫌な声で話し出す。


「公園行こ言うたんは俺、そんで女の子らに欲しいー言われたんは九十九さんやなくて白石や白石。せやから九十九さんのせいちゃうで」


そう言って白石くんをジトリと見て指差す忍足くんに、目を丸くしていた白石くんが少しあってからニコリと笑って親指を立てた。


「いやーモテるんも辛いわぁ」
「嫌味か!部活で女の子にモテてみたいーとか話してた奴の台詞ちゃうで」
「それは忍足くんもやろ。何なら1人紹介したるで」
「いらんわ、あんなヤンデレでバイオレンスな彼女!」
「忍足くん、これを機にMに目覚めてみるゆーのも…」
「いてこますぞ!」
「……フッ、あはっ、ハハッヤ、ヤンデレでMになる、の?あははっ!」


2人のやり取りに、痛む額を押さえながらつい吹き出して笑い出す。だってヤンデレって別にSじゃないもん。暫く笑って、2人が静かなのに気付いてふと見れば、彼等は私を見て、凄く優しく、微笑んでいて。


「やっと笑たなぁ」
「そのがえぇわ九十九さん」


2人がくれる言葉は、本当に本当にあったかくて。目を丸くする私に忍足くんが笑った。


「この状況で笑えーゆうても難しいっちゅー話やけどな!」
「まぁ、人生笑かしたモン勝ちやからな」
「―――うんっ」


さっきまでの泣きたい気持ちなんてもうどっかに吹っ飛んじゃって。私は幽霊より、2人に嫌われる事のが怖かったんだって気付いて。
しゃがみ込んでいた忍足くんと白石くんがおもむろに立ち上がり、腕を伸ばしたり屈伸し始める。


「ほな『アリス脱出作戦』といこか!」
「…此処が、鏡の中みたいだから?」
「「おう!!」」


そう言って、私に差し出してくれる2人の手を、見つめてから笑って掴んだ。


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