花いちもんめ4



白石はホンマ凄いと思う。走りながら、ちらりと後ろの彼女を見る。いの一番に走り出しといてなんやけど、さっきより顔色はマシやな。ちゅーか勢いで呼び捨てにしてもうたけどえぇかな。…えぇか。コッチのが仲良さそうやし。なんて一つ息吐いて再び前を向く。

(……まぁ、白石おらんかったら、今頃仲良くなんて、してくれへんかったやろけど)

白石は、ホンマ凄いと思う。白石が先に九十九に声かけへんかったら、俺はきっと九十九があんな顔しとるん気付かないで責めとった。「自分何か知っとるやろ!」って、「自分のせいちゃうか!」って、怒鳴るとこやった。
…にしても、これからどうなんのやろ。九十九が言うとったみたいにホンマに襲ってきたし、幼女トラウマなるでホンマ。ちゅーか九十九も九十九や。こんなんいるて分かっとんのやったら話してくれっちゅー話やで。あと、自分幽霊視えんねんてもっと言ったらええのに。信じる信じないは別として皆や、少なくとも俺らはそんなんで軽蔑なんかせぇへんし、なんやもっと俺らの事を信用してくれても、

『2人は、幽霊って信じる?』
(―――あ、ちゃうわ)

俺ら『を』信用してへんのやなくて、俺ら『が』自分を信用せんと思っとるんや。せやなかったら、こんな状況であんな事聞かへんやろ。それでもしたっちゅー事は、こんな状況なっても信じてもらえへん何かがあったっちゅー事や。

(何やそれ。……そんなん、悲しすぎるわ)

ギュッと拳を握り締める。
よくあるホラー小説なんかやったら、パニックになっとる俺と白石に、他人には黙っとったけど実はお祓い出来る九十九が、アレは幽霊やって断言してこうしたら助かるでー、みたいになるんやろけど、実際は幽霊視えてじいちゃんがそういうん詳しくて何かしら道具持っとるけど、どうしたらいいか分からん、ごくごく普通の女の子で。俺らと同じように怖くて震えとった、普通の女の子で。そんな九十九を責めた誰かがいたっちゅー事や。
―――さっきの俺が、しようとしてたみたいに。


「―――っくん」


あー!ホンマダメやな俺!!後先考えず突っ込みすぎやて侑士にも言われるし。全部自分のせい、なんてあんな泣きそうな顔で言う九十九に、俺、ちゃんと大丈夫や伝えられたんかな。あれで、そんな自分を責めんくてえぇって、ちゃんと伝わったやろか。


「忍足くんっ!!」


白石の声に驚いて後ろを見れば、少し怒っとるような焦ってるような白石がおって、その近くでしゃがみ込む九十九が見えた。もしかして、襲われた時に何かあったんやろか。息を飲んで慌てて2人の元に戻る。


「どないしたん九十九!」
「っ……い、」
「い!?」
「息、で、きな……っ」
「何やて!?あの子らに首でも絞められたんか!?」
「そうやないて忍足くん」


オロオロする俺に、白石が苦笑しながら俺の肩を叩く。そうやない、て、でも九十九めっちゃ苦しそうだし絶対何かあったやろ。せやなかったらただ走ってただけで…………走ってただけ、で?


「速すぎや、忍足くん」


ゼーハーと息切らす九十九の背中をさすりながら、呆れたように白石が笑った。さっき、ただの女の子って自分で思っとったやんけ阿呆。堪忍、と彼女の横にしゃがみ込めば、胸元を押さえながら九十九が大丈夫と言うように右手を上げた。そういや、結局何も飲んでへんかったよな。こんな事態やし、やっぱ水飲んだ方がえぇんちゃうか。鞄を下ろして中を漁る。


「九十九、やっぱ飲んどきって。お地蔵様んとこまでまだあるし」
「で、で…も、」
「せやで九十九さん。飲まへん言うんやったら口移しで無理矢理飲ましても、」
「飲みます飲ませていただきます1人で飲めますから」


白石、女子にモテへんとか嘘やろ。そういや、逆ナンしてくるような積極的な子は苦手やなとか言うとったけど、逆ナンされとる時点でモテてるやん。ほんで笑いに全力で体張るんやから無駄なさ過ぎやろ。メモ取ろかと思たけど、サラリとこんなん言うて許されるん白石だけな気ぃするからやめとこ。俺から顔を真っ赤にしてペットボトルを受け取った九十九が、そっと俺を見上げるので首を傾げる。


「ごめん、ね?」


そう申し訳なさそうに言う九十九に、何だか無性に寂しくて泣きたなった。


「―――なぁ九十九。そこは『ありがとう』で、えぇんやで」


「ありがとう」より「ごめんなさい」と言わなきゃいけん事しかなかったんかって、そう思たら悲しくなった。ありがとうでえぇよ、って言ってくれる人がおらんかったんかな、なんて、思ってしまったから。
きょとんと目を丸くする九十九を真っ直ぐ見つめとったら、少し俯いてから直ぐに顔を上げた。


「ありがとう、忍足くん」


アカン、泣く。
どこか嬉しそうにはにかむ九十九が見れなくて、腕で顔を隠して空を見上げた。自分で言わせて何照れとんねん、なんて白石の声がしたけどシカトやシカト。坂本さんも歌っとるやろ、上を向いて歩こう涙が零れないように、て。不思議そうにしつつも水を飲む九十九を横目に見て少しほっとする。


「ホンマはもう少し休みたいとこやけど、また襲われてもかなわんし歩いてこか」


水を飲んで一息ついた九十九に白石が声を掛ける。それに頷いてから九十九が今度は、ありがとう、と俺にペットボトルを返した。あ、アカン、泣く。目頭を押さえて空を仰げば、ほな行くでー、と呆れた調子で白石に小突かれた。


「さて、どないルートで行こか」
「商店街からやと距離あるから、左曲がって通学路の方出た方が速いと思うで!」


左を指差しながらそっちに先頭切って行こうとしたら、2人にガッと腕を掴まれる。何やねん、もう置いてかへんし前に女の子おらへんで。むっと後ろの2人を見れば、戸惑う九十九と笑う白石がおって更に訳分からんくて眉間を寄せた。


「忍足くん、此処『鏡の中』だから、」
「通学路は、右や」


そう2人が右を指差す。その先を見れば、何やいつもとちゃうけど確かに通学路に続く道があって。


「……〜〜だーっ!!メンドくさっ!!」
「そうやなぁ」
「迷わず行けるといいなぁ…」


ケラケラ笑う白石と、深いため息を吐く九十九が見えて、白石随分余裕やな、とか思った。あぁいやでももしかしたら無理しとんのかもしらん。自分狙われとんのに九十九に気ぃ使てるくらいやしな。おう。
大きく深呼吸してから、進路を右へと変更する。


「そいや九十九さん、さっきの続き…の前に何持っとるか教えてくれへん?」


俺の後ろから少し駆け足で横に追い付いた九十九に、九十九の逆隣へと並んだ白石が問い掛ける。え、と小さく声を漏らす九十九に、俺も白石の言う事が一瞬分からず目を丸くしてから、九十九の鞄を見てポン、と手を叩いた。


「装備品か!」
「え、私ドラ〇エの勇者?」
「その返しは予想してへんかったわー」


しみじみ呟く白石に頷けば九十九が、変な事言ったかな、と首を傾げる。大丈夫、むしろナイスツッコミや。その返しが瞬時に出てくるんが凄いで。て、そうやなくて。


「水とか、さっき投げたのとか、他何持っとん!?」


鞄と九十九を交互に見て言えば、えっとと九十九が歩きながら鞄を漁る。


「お水がもう1本、と…じいちゃんの御守りに御札が数枚、かな」
「御札…て、それ使ったらええんちゃう?」
「成仏はさせられるけど使ったら無くなっちゃうし、相手が多すぎて全員には使えないから此処から出れる自信は、ない、かな」


肩を落とす九十九に、俺と白石も肩を落とす。何遍も使えるモンやないんやなぁ。ほんで水もあと1本やから……え、コレ結構アカンとちゃう?無理ゲーちゃう?顔を引きつらせた俺を見てから、白石が口を開く。


「これは俺の推測なんやけど、多分あの子ら、最初みたいに全く遠ざからん、って事はなくなってると思うで」
「「え、何で?」」


おお、九十九とハモった。ちゅーか九十九も分からんのに何で白石が断言出来るんや。不思議そうに見つめる俺らに、白石は指をピンと立てた。


「さっき会った時、目ぇ逸らさんかったからかもしれんけど、一歩づつでもちゃんと離れられたやろ?最初に撒いた水が効いとんのちゃうやろか」
「で、でもお塩撒いたから逃げられたんだし…」
「いの一番に走り出した忍足くんはあの子達から離れてた。塩は時間稼いだだけやと、俺は思う」


白石にまでいの一番言われたわ。あ、俺めっちゃ情けない。ハハッと渇いた笑いを漏らしつつ2人から目を逸らせば、戸惑う九十九の声がした。


「え…っと、それって、つまり…?」
「―――つまり、走って逃げれる、っちゅー事や」
「「………………はぁ」」


そんなドヤ顔で言われてもそれがどないしたっちゅー話やねん。ものっそ間抜け面で返事した俺らに、呆れたように白石が肩を落とした。いやだって、走って逃げれる、て別にそれ此処から逃げれる訳ちゃうし。


「走って逃げれるっちゅー事は、また鉢合わせてもラスト一本の水撒かんくてもやり過ごせるっちゅー事や。残り少ない装備、毎回使てたら地蔵様のとこ行く前に俺らが御陀仏やで」


せやろ、と首を傾げる白石に、俺と九十九はおぉ、と手を打った。なんや九十九とよぅハモるなぁ。
でも、せやな。少ない装備使わんくても逃げれるんやったらその方がえぇやろし、もうアカンってなった時に何も無くなったらヤバイもんなぁ。よっしゃ、今度は九十九の手ぇ取って走るでー!パンッと両手を打って気合いを入れる。


「よっしゃ!そうと決まればちゃっちゃかお地蔵様んとこ行くでー!!」
「逆だよ忍足くん」
「逆やで忍足くん」


右に進もうとした俺の肩を2人が同時に掴む。先に見えるのは何やいつもとちゃうけど学校へと向かう道があって。
……何なん、俺めっちゃ阿呆やん。ほんま此処嫌いや。


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