「ホンマあの子らしつこない!?」
『負けーてくーやしい花いーちもーんめー』
「ヤンデレストーカーてこんなんやろか」
『隣のおーばさんちょっと来ておくれ』
「それ、ならっ猟奇殺人者、のが、近い、かなっ…!」
「「なるほど」」
こんな会話してますが、絶賛幽霊少女s'から逃げてます。ていうかあのね?ずっと思ってたんだけど2人ともなんでそんな余裕なの?息切れないとか化物なの?だとしたらテニス部怖いよ?ヒィヒィ言いながら2人の後ろを走り続ける。
「あ、忍足くんそっちは地蔵様から離れてまうで!」
「だぁぁ!ほんならコッチや!!」
そう言って細い脇道へと入り込んで行く。後ろからは、女の子達がスキップでもしてそうなトーンで花いちもんめを歌いながら全力で追いかけて来ている。声と動きが合ってないよ怖いよもう!でもこの細道なら引き離せるかも。鞄にあるお水を取り出して後ろを振り返る。あ、これ距離近いから私がやったら捕まっちゃうやつ。
「忍足、くんっ」
「おん!?どないした九十九!」
「コレ、びゃっ!って、して…!」
前にいる忍足くんにお水を投げ渡せば、見事にキャッチした彼は、びゃってなんやねん!とツッコミながら蓋を開けて彼女達に向かって水を撒いた。ちゃんと通じてるからびゃっ!でいいじゃん。なんて思いつつ後ろを振り返れば、水を浴びはしなかったものの地面に撒かれたそれより先には進めないようだ。お水が撒かれた場所を見つめて立ち尽くしている。パッと忍足くんと顔を見合わせる。
「ぃよっしゃ!」
「やった!」
ハイタッチをすればパンッといい音が細道に響いた。お水撒いたところが通れないならこの細道だ、追ってくるのに時間が掛かるはず。直ぐに踵を返して私達は再び走り出した。
「一先ず、足止め成功やな!」
「そう、びは…減った、けど!」
「問題ないで!もうお地蔵様んとこ着くわ!」
嬉々として先を差す忍足くんにほっと息を吐く。別にお地蔵様のところに行ったからって何が起こるなんて何の確証もないけど、これだけ逃げ回ってて彼女達が『お地蔵様に向かう道にだけ立ち塞がってる』から、きっと何かあるんだと思う。一回忍足くんが間違えて学校に行った時は現れなかったのに、其処からお地蔵様へ向かおうとしたら現れたから。……って白石くんが言ってた。ほんとよく見てるなぁ。私、そんな余裕無かったよ怖いもん。そっと白石くんを見上げれば、視線に気付いた白石くんが私を見てから、もうちょいやで、と手を差し出してきた。此処から出られたら、そういう事あんまりすると女性関係苦労するよ、って教えてあげよう。今は怖いし疲れたからその手を取らせていただき、
『お布団かぶってちょっと来ておくれ』
突然、耳元で言われたような声に反射的に振り返る。其処には、後ろから追いかけて来ていた女の子達とは違う、別の女の子がニヤリと笑って、私のほんの数十センチ隣に立っていた。
「ヒッ…!!」
「九十九っ!!」
掴まれかけた手を引っ込めれば、後ろから忍足くんの声がすると同時に私の横を何かが掠めていき、少女の顔面にその何かが見事にヒットした。
『あ゛あ゛あ゛!!!』
「あぁぁ堪忍!ちょっと残っとった水が掛かればええなーくらいの気持ちやってん!顔狙った訳ちゃうんや!!」
「真面目やなー忍足くん」
手を引っ込めた時に足が絡まって転びそうになった私を支えながら女の子に謝る忍足くんに、白石くんが感心している。どうやら横を掠めていったのは先程私が渡したお水のペットボトルだったらしい。顔面にペットボトルプラスお水とかつら。なんて思いつつ再び走り出せば、四方から花いちもんめが聴こえてくる。大合唱とか怖いから…!しかもこの声『何処から聴こえる』の?
「そういやな」
辺りを見回しながら走る私と忍足くんに、ぽつりと白石くんが呟く。見れば、彼は眉間を寄せて歌声に耳をすませていた。
「ずっと3人が追いかけて来とったけど、最初に花いちもんめしとったの、『9人』やったよな」
ゾクリと、背筋が凍るような感覚が襲う。白石くんが言う3人は、きっと忍足くんがビンタしちゃった子とあとの2人の事だろう。何で、今まで疑問に持たなかったんだろう。確かに、最初に私達に襲い掛かってきたのは『9人』だったのに『3人』に減っていた事に、何で気付かなかったの。慌てて鞄の中を確認する。忍足くんに渡した御守りを抜いて、残っているのは御札が2枚。私達を囲むようにして聴こえる歌声に、身体が、手が、震える。このまま進んでも大丈夫なのだろうかと、恐怖が、募っていく。
『お釜かぶってちょっと来ておくれ』
『お釜底抜け行かれない』
不意に耳にしたフレーズに、はたと顔を上げる。
(あれ?さっき、私の耳元で歌ってたの、お布団、だったはず…)
もう一周したのか。そうだよね、凄く長い歌ではないし。でも何でだろう。何だか違和感が。
『そーの子がほーしい』
『そーの子じゃわからん』
『勝ーってうれしい花いーちもーんめー』
あ、分かった。『相談しましょ』から『きーまった』までがないんだ。さっきからずっと。何でここだけ無いんだろう。何で……
(あぁそっか。『決まってる』からだ)
もう、白石くんって『決まってる』から『相談しましょ』も『きーまった』もないんだ。―――あれ?それなら。後ろから迫る彼女達を見てから2人へと視線を送る。それなら、もしかしたら2人は助けられるかも知れない。
『あーの子がほーしい』
「あっ、あの子じゃ負からん!」
振り返って叫べば、ピタリと止む彼女達の歌声。立ち止まって少女達を見つめていると、小さく首を傾けた後、ゆっくりと忍足くんに視線を移して指差す。
『こーの子がほーしい』
「ヒッ…!」
「この子じゃ負からん!」
忍足くんへと近付く少女達の前に出てハッキリと言い切れば、彼女達は顔を見合わせてヒソヒソと話し始めた。やっぱり、思った通りだ。
「な、なんやアレ…」
「分からん…」
「忍足くん、白石くん」
私の後ろで不思議そうに声を上げる2人の名前を呼んでから、目の前の少女達から目を逸らして2人を見る。さっきの声と同じくらい困惑している表情に、申し訳無さが募る。
だから、2人は絶対助けるから。
「私なんかと友達になってくれて、ありがとう」
精一杯の笑顔でお礼を言う。本当に、いっぱいいっぱい嬉しかったから。だから、
『『きーーまった!』』
目の前の2人が口を開くより先に、後ろから少女達の声がする。ゆっくり振り返れば、ニヤリと笑う少女達が私を指差していた。
『九十九ちゃんがほーしい』
『九十九ちゃんがほーしい』
(―――だから、私は大丈夫)
私に手を伸ばしてくる女の子達に、キツく握り締めていた手の平を解いてゆっくりと手を伸ばす。これでいい。じいちゃんには怒られそうだし、父さんと母さんに親孝行全然出来なかったのが心残りだけど、でも最期に、友達が、出来たから。
彼女達の手を取って一歩前へと踏み出す。その瞬間、両脇から別の手が出てきて、声を上げる暇も無く私の身体は後ろへと引かれていった。
「誰も『あげる』言うてないやろ…っ!」
「せやっ!『この子も負からん』っちゅー話やで!!」
後ろに引かれて見えたのは、必死な白石くんと忍足くんの顔で、私を掴んだ別の手が2人のものだと気付くのにそう時間はかからなくて。
「なん、で」
思わず漏れた疑問に2人がちらりと私を見る。
「そらずっと九十九さんに頼りっぱなしで逃げてばっかやけどなぁ、友達言うてくれる女の子見捨てる程、男捨ててないわ!」
「うおぉ!アカン、アカンて!何、何なんこの力!九十九の腕もげるんちゃ、ぎゃあぁぁぁ俺の手も掴まれたぁぁ!!」
「忍足くんカッコつかへんからちょお黙ろ!?」
いつもの調子で話してる2人に少女達は私の腕だけでなく、どんどん2人の体にまですがり付いていく。それでも2人は、私の手を掴んで抱えてくれていて。
「手ぇ離すなよ忍足くん!」
「離すか!まだ九十九とたこ焼き食うてへんからな!」
「―――せやな、たこ焼き奢りで食うんやからな!」
「白石には奢らん言うとるやろ!」
ダメ。これ以上はダメだと思うのに、2人がくれる言葉は私の決意を揺るがせる。言葉に詰まっていると、どこから現れたのか別の女の子達が忍足くんの身体や白石くんの首元に絡み付くのが見えて、息を飲んで首を横に振る。
「ダッ、ダメッ!ダメだって、2人が、だから、手、はなし、」
「ぁあ?!何言うてんねん自分!」
「九十九さんは、この子らと花いちもんめするんと、俺らとたこ焼き食べ行くん」
「「どっちがえぇ!?」」
私の言葉を遮って叫ぶ2人は私を真っ直ぐ見つめていて、小さく唇を噛む。
どっちがなんて、そんなの決まってる。でも、今それを望んじゃいけないんだって、2人を助けるなら口にしちゃいけないんだって、分かってる。
分かってる、のに。
「―――2人と、だご焼ぎ食べだいっ!!」
涙も鼻水も、私の本音も、全部溢れてきて、心のままに叫べば、2人がニッと笑うのが見えた。
「「ぃよっしゃ!!」」
ぐいっと、更に力強く私の身体を引き寄せる2人に、私も彼女達に抵抗をする。女の子達に掴まれてる手も、身体も、ギシギシ軋むほどに強い力で、忍足くんじゃないけどほんとに腕もげちゃいそうなくらい痛くて、思わず顔をしかめる。ほしい、と連呼する彼女達が終には高笑いを始めて、物凄く怖いけど、2人が隣にいてくれるから。
「っ、あ」
「九十九っ!!」
「っくそ」
首筋まで手が伸びてきて息が漏れる。忍足くんと白石くんが必死に引き剥がそうとしてくれるけど、2人にもまとわりつく少女達が邪魔をしていて、このままじゃ3人とも連れてかれてしまうかもしれない。
それでも、それでももう少しだけ、2人と居たいと思ってしまったから。
誰か助けて、と心の中で思ったその瞬間、突然眩い光に覆われて目を瞑る。不意に首や腕にあった手の感触が無くなってそっと目を開けると、先程の閃光でまだ霞む世界はとても明るくて、暖かい光に包まれていた。私の身体に張り付いていた女の子達はいなくて、首筋に手を当てて呆然としていると、楽しそうな笑い声がして視線を送る。其処にはあの女の子達が先程までの生気の無い顔ではなく、楽しそうに無邪気に笑って光の方へと駆け出して行く。その先に眩しくて顔はよく見えないけど誰かが立っていて、駆け寄ってきた彼女達の手を取って光の先へと歩いていく。
その途中、私達の方を見て微笑んだ、気がした。
「……此処、お地蔵様のとこやったんやなぁ」
その人と少女達が光の中へと消えていくと、気が付けば見慣れた景色に戻っていて白石くんがぽつりと呟いた。視線の先にはお地蔵様がいて、さっきの人に似た笑みを浮かべて私達を見つめていて、今朝私がお供えしたお饅頭は無くなっていた。野良犬猫が食べたのか、お地蔵様が食べたのかは、分からないけれど。
「帰ってこれたぁぁあ」
深い溜め息と共に項垂れる忍足くんに視線を移して、静止した。
『コワカッタ、コワカッタ』
『コイツがいなかったらこんなおもいしなかったノニ』
忍足くんの肩には小学校の時に見たナニカが乗っていて、よく見れば白石くんの肩にもいるナニカは私を嘲笑うように2人に囁く。ドクドクと、心臓が早鐘のように鳴っていて、息も、上手く出来なくて、2人の口から拒絶の言葉が聞きたくなくて、気が付けば私は全速力で走っていた。
「九十九?!」
「九十九さん!」
2人が呼ぶ声がしたけど、振り返る事なんて出来なかった。
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