只今昼休み真っ只中、昼飯食うかーと謙也と弁当開くところで。
「九十九さん、ホンマに自分とこの後輩に弁当作っとんのやろか」
俺らの傍で数名のクラスメートがメッチャ真面目な顔して妙な威圧感放っとって飯を食うに食えません。
「そんなん知らんがな…」
「知らん訳ないやろ!?今日九十九さんルンルンで教室出てったんやぞ!?」
「立野と久々にお昼やー言うとったで」
呆れる俺の横でパンを頬張りながら謙也が答える。何でそんな慣れとるん?ちゅーかウチの後輩に弁当って何のこっちゃ。なんて浦野くん(弁当言い出した方)と横畑くん(ルンルン言うた方)を見つめとったら、浦野くんがポンと一つ手を叩いた。
「せや、あん時白石おらへんかったもんな」
「あん時?」
「九十九さんが財前くんにお弁当作ったるーって言うたんよ!!」
バンッと机を叩いて浦野くん達の横におった高井さんが声を上げる。そんな事あったん、と謙也を見れば紙パックの青汁を飲みながら親指立てられた。ホンマに好きなんや青汁、ネタかと思たわ。と、せやなくていつの間に弁当作るーなんて事なったんやろ。(※一昨日です)
財前も何も言うてへんし、今日は立野さんとご飯ーって九十九は出てっとるから作ってへんと思うんやけど。
「ちゅーか、九十九が財前に弁当あげる事に何か問題あるん?」
素直に疑問を口にすれば、俺らの周りに集まっとった連中が、テンプレート的な、衝撃!いうた顔で俺を見る。ノリえぇなぁこのクラス。ぼんやり見つつ弁当開けよ思たら、横畑くんに腕を掴まれる。
「九十九さんの、弁当やで…!?」
「だからどうしたん」
「「俺らだって食いたい…!!」」
床を拳で殴ったり頭を抱えて宙に咆哮したりと、浦野くん横畑くんを筆頭に数名の男子がのたうち回っとって、何やおもろい事なってんねんけど。え、そんなに九十九の手料理って美味いん?のたうち回るクラスメートを見て首傾げとったら、ちょいちょいと謙也が手招くので顔を寄せる。なんや女子のキャアなんて黄色い声が聞こえた気ぃするけど敢えてシカトや。
「コイツら、壱加親衛隊やねん」
「親衛隊なんて恐れ多い!!俺らはただ!九十九さんと!仲良くなりたいだけや!!」
こそっと謙也が言った言葉に勢い良く浦野くんが立ち上がって宣言する。いや、手作り弁当食いたいって普通に仲良くなりたいだけの奴は思わへんて。それで財前が弁当もろたか気にしとんのか。……ん?せやったら、こののたうち回っとる男子の横におる女子達はもしかして。
「ちなみに高井達は財前親衛隊な」
「そんなんちゃうよ!ちょっと財前くんにお近づきになりたいだけやで!」
俺の疑問に謙也が答えれば、高井さんの後ろから樋口さんが握り拳付きで熱く語ってくれた。他の女子もうんうん、とこれまたテンプレートな頷きをしている。ホンマに親衛隊ってあるんやな。跡部くんくらいかと思たわ。九十九に、ってのは意外やけど。幽霊視えるくらいで普通の女の子やし。
「別に財前と話したらええやん、アイツ案外喋るで?」
「それは謙也だからやん!」
「そうやで!謙也くんや白石くんは部活仲間で男子やんかぁ!」
「「まぁ、そうやけど」」
むすっと怒っとる彼女達を見て思わず苦笑いする。この様子やと財前とマトモに話した事ないんやろなぁ。まぁ、アイツが女子と好んで話すとは思わへんけど。呆れつつ今度こそお弁当を開けて手を合わせると、そんな俺をシカトして横畑くんが話し始める。
「自分らにだって作った事ない九十九さんが自ら『お弁当作ってこよっか?』って言うたんやで!?ほんでぜんざいだかって後輩も否定せぇへんのやで!?」
「財前な」
「九十九ちゃんのお弁当とか勝ち目ないわぁ」
打ちひしがれてる樋口さんに他の女子も、九十九さんの料理美味しいもんねーなんてため息を吐いてる。ほー、料理うまいんや。にしても九十九、意外と女子と話しとんのやな。あんま考えたないけど、高井さんや樋口さん達が九十九呼び出してーとか、嫌がらせまでいかんくてもシカトしたりしてんのかな、なんて思ったから安心したわ。まぁ、松本さんに下駄箱やられとった時に皆心配しとったもんな。九十九も笑ってそれに返しとって、
(……あぁ、せやな。笑って、皆と話すように、なったんよな)
昨日、久し振りに3人でお地蔵様んとこ行ったから何や思い出してしもた。1年の時の九十九は、自分から話したりせんと下ばっか向いとるような女の子で。「1人は慣れてる」なんて寂しい事、普通に言うような、女の子で。
(今は大分性格変わったけどなぁ)
ハハッなんて渇いた笑いを漏らして弁当に箸を伸ばす。随分俺らに対して態度悪なったけど、1年の頃に比べたら今のアイツのが断然良いと、俺は思う。
「壱加、言うたら弁当くらい作ってくれると思うでー」
横で唸りながら打ちひしがれる皆に我慢出来んくなったのか、謙也が面倒くさそうに返す。私でいいの?とは言いそうやし、俺や謙也には絶対作らへんやろけど。ジッと男子の方を見つめてれば、何でか逆にジトリと睨まれた。
「…何やねん」
「言える訳ないやろ!九十九さん、自分の顔が好きなんやぞ!?白石レベルの顔にならへんとそんなん頼むんもおこがましいわ!!」
カッと目を見開いて叫ぶ浦野くんに、何故か皆が頷く。あー、せやったせやった。いつだか九十九に「私は!お前は好きじゃないけど!お前の顔は好きなんだよ!バーーーカ!!」って教室の真ん中でキレられたわ。そんで大阪人に馬鹿はタブーや、って正座させたんやったっけ。確かあの時一連の流れを、隣で立野さんが爆笑しとったから、2年ん時か?流石親衛隊、よう覚えとんなぁ。しかし九十九と同じクラスなるん今年初めてやから、まさかこんなんおるとか思わんかったわ。
「ほんで、実際のとこ、九十九ちゃん、財前くんに作っとんのかな?」
そわそわと聞いてくる樋口さんに、俺と謙也は目を見合わせる。知らん、言うたらコレ続きそうやし、かと言って作ってへんとはハッキリ言えへん。九十九に前もって渡したらアカン言うて「会話の流れで言っただけだから本気じゃないよー」なんて返事来たら多分、いや絶対財前が不機嫌になる。必死に頭使て返事を考えとったら、謙也が皆に向き直る。
「作ってへんで!」
コイツ阿呆ちゃうかな。コレで作っとったらどうすんねん。
ほっと胸を撫で下ろすクラスメート達を見て、どないしよかと頭を捻る。…あぁ、でも逆にえぇ答え方かもしらん。今日は立野さんと飯、昨日は教室におったし、一昨日はジーンさんとおって財前だけやなく言い切った謙也も居た訳やから、少なくとも謙也は作ってへんのを知っとる事になる。つまり『今はまだ』作ってへん、て意味で言うた事にしとけば今後文句言われても知らんって言えるしな。ふむ、なんて1人頷いてれば、でも、と高井さんが呟く。
「九十九さん、めっちゃ明るくなったよなぁ…」
「せやなぁ、1年の時なんか全然笑わんし喋らんしって感じやったのに、今では自分から話してくれるし!あの笑った顔がまたなっ!ええんよなっ!」
「俺は謙也の『No.スピードNo.ライフ』にウケて笑っとった九十九さんのが忘れられへん…」
口々に皆が九十九の話を始めて、仕舞いには1年の時の話題で盛り上がる。あ然としとったら、コイツら1年の時一緒やったん、と謙也が教えてくれた。そうか、あん時の九十九を知っとるから皆優しいんか。でも、1年の九十九は控え目でおもろくて惚れるん分かるけど、今の九十九でえぇんか自分ら。失礼とか言ったらアカン。
「九十九ちゃん控え目なとこあるし、」
「「え、どこに?」」
「家庭的で皆に優しいから財前くんそゆとこに、惹かれて仲良うなったんかなぁ」
高井さんに俺と謙也のツッコミ、シカトされたわ。あと皆に優しいも否定させてもらうで。なんて思とったら樋口さんがバンッと俺らのいる机を叩いた。俺の弁当飛ぶんやけど。
「何より、九十九ちゃんと財前くんにはウチらに入り込めへん共通点がある!!」
「財前と壱加に?」
「謙也に酷いとこか?」
「それもあるけど!」
「あるんかい!!」
「それよりも、もっと根本からどうにも出来ひん問題があるんよ!!」
謙也のツッコミもスルーして、キッと俺らを見つめる樋口さんに首を傾げる。謙也に酷いも根本からどうにも出来ひんと思うねんけどなぁ。樋口さんはというと一拍置いて、ゆっくりと口を開いた。
「―――2人は、校長のボケに笑わへん…!」
「「あぁー」」
俺と謙也が納得の声を上げれば、皆は頷いたり打ちひしがれたりしとる。
「無理やっ…俺にはあの『ゴメンクサーイ』にズッコケへん自信ない……!」
「私も校長先生の話、最後まで真顔でなんか、そんな鋼の心持ってへんよ…」
深いため息と共に沈んでるクラスメート達を見つめながら、今日もこのクラスは平和やなぁ、なんて思いつつようやっと弁当に箸を伸ばした。
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