「人、やば…」
いや、大阪も大概人多いけど、連休初日の東京駅はアウト。あ、平日もやばいからやっぱりいつも東京駅はアウトか。肩に鞄をかけ直してキャリーバッグを自身に寄せた。
何故私が東京駅にいるのかというと、別に某ネズミー王国に行くとか浮かれた理由ではなく、父方の実家―――じいちゃん家に行くためである。今までので散々減った御札は、ジーンさんの一件でアホの子新堂くんにあげてしまったので無くなってしまった。一氏くんの御守りもコケシ様も効果あるのは分かっているけど、如何せん速攻向きではない。特にコケシ様。喉潰されたらアウトだものコケシ様。なのでじいちゃんに送ってくれと頼んだら「自分で取りに来い」と電話を切ってくれやがりまして、数日間御守りとコケシ様を肌身離さず持って、ようやく迎えた連休で取りに来たという訳だ。しかしあのジジイ、私が遠出するの(幽霊に襲われるから)嫌いなの知っててコレか。嫌がらせだよ嫌がらせ。深いため息を吐いてキャリーバッグの上に座る。
でもたまには良いかもしれないなぁ。「壱加1人じゃダメだ!父さんも行くぞぉぉ!」なんて半泣きで騒いでた父さんを振り切って1人で来たんだし、ぶらり東京観光でもしよっかな。ていうかアンタ仕事だろうよ、家族のために働こうや。と、それは置いといて。
ケータイで時間を見てから荷物とにらめっこする。一回じいちゃんちに行くと外出出来るか分かんないしなぁ。どっかのロッカー入れられるかな?というか何処行こう。ここからならアキバの電気街とか、友達が言ってた乙女ロードとかいう女の子の聖地とやらでもいいな。あ、でものんびり浅草で食べ歩きとかもいいよねー。お台場でお洋服見たりとかも…あ、それはヒロちゃんとしたいな。うんうん悩んでたらなんかちょっと楽しくなってきた。そういえば2日以上アイツらに会わないんだよね。何それ嬉しい。色々巻き込まれない的な意味で。
「やっぱ東京ゴチャゴチャしとんなぁ!」
うん今視界の端に見覚えのある奴が見えたとか気のせい気のせい。だって此処東京だし。
「おー自分らはぐれたらアカンでぇ。東京駅っちゅーんは迷路やからなぁ」
「東京ば〇奈食いながら言うても説得力ないで、ていつ買ったんオサムちゃん!」
「そこに売ってんでー」
「ワイも食べるー!!」
「ちゅーかオサムちゃん、それちゃんと自腹やろな?」
「んー?遠征費でちゃんと買うたでー」
「「いてこますぞ!!」」
あぁうん、何あれ滅茶苦茶知ってるわ。聞き覚えあるわ。ハッハッマジかー。いやでもね、私に気付いてないからまだ平気まだ平気。私服だしね気付かないよきっと。気付かないで、というか気付くな。
「あー!壱加ちゃんやー!!」
そっとキャリーから降りて背を向けたところで聞こえた金ちゃんの声に、思わず立ち止まる。あぁぁ私のバカ!素直なんだから!
「あ、ほんまや壱加やん」
「ソックリさんとちゃうん?此処東京やで?」
「九十九、元々コッチ住んどって中学から大阪やー言うとったから連休で遊び来とんちゃうん?」
その通りだよ白石。むしろ何でお前らがいるのか私が聞きたいわ。ダメだこれ、関わったら絶対何か起きるからもう観光諦めて全力で逃げないと。
「九十九が全速力で俺達から逃げ出すまで、あと3秒たい」
「金ちゃん謙也、確保!」
「「ぃよっしゃぁ!!」」
「王子のいけずぅ!!」
私が駆け出した時には時すでに遅し、ゴンタクレとスピードスターに2秒もしないで捕まった。何で謙也はラケバ持ってんのにそんな速いんだよくっそ。金ちゃんにキャリーバッグ、謙也に腕を掴まれ、結局私は皆の前へと連れて行かれる。
「で、何で逃げたん九十九」
「関わりたくなかったんですー。東京来てまで白石と謙也に関わりたくなかったんですー」
「俺らピンポイントかい!」
「当たり前だろ」
真顔で返せば、すんすんと謙也が小石川くんに泣きついた。だってお前らもう3年目だからな、私に迷惑かけるの。ケッとやさぐれていると銀さんが、堪忍な、と頭を下げたので慌てて首を振る。銀さん悪くない、悪いのは私のクラスメートだから。すると小春ちゃんが首を傾げた。
「壱加ちゃん、何で東京おるん?」
「どこぞの光くんのクラスメートのせいで御札無くなっちゃったから仕入れに」
「仕入れ、てあれじいちゃんのちゃうんか」
「取りに来いって言われたんだよあのくそじじい」
「じいちゃん、仮にもじいちゃん」
思い切り眉間を寄せて言えば一氏くんにツッコまれる。だって電話一方的に切られたからかけ直したら着信拒否されてんだよ?孫の電話を着拒だよ?仕方無く自宅の方にかけたら「あの人、壱加ちゃんに会いたいのよぉ。口下手なのねぇ」なんておばあちゃんが出るもんだから、何も言えなくなってこうして東京まで来たんだよ?おばあちゃん使うとか卑怯だあのクソジジイ。相当顔に出ていたのか、千歳くんと渡邊先生がケラケラ楽しそうに笑っていて、少し落ち着こうと咳払いする。
「そう言えば、皆は何で東京にいんの?」
素直に疑問を投げかければ、もぐもぐと無言で東京ば〇奈を食べていた光くんが、私に1つ差し出しながら口を開く。
「練習試合兼ねた合宿っすわ。ほんまめんどくてしゃーないですけど」
「先生の東京ば〇奈ちゃっかり食いながら言う事ちゃうで財前くーん」
「オサムちゃんは遠征費使たらアカンでー?」
あっはっはーと笑ってるけど笑ってない白石に、思わず私の顔が引き攣る。え、初めて白石怖いと思った。一歩後ずさると小石川くんが笑いながら肩をぽんと叩いてくれた。皆の様子から察するにコレいつもなの?渡邊先生そこまでダメな人なの、ねぇ。呆然とする私の洋服の裾を誰かが掴むのを感じて、ちらりと其方を見れば金ちゃんがキラッキラした顔で私を見ていて、物凄く嫌な予感しかしなくて更に顔を引き攣らせつつも笑顔を作る。
「壱加ちゃん、ワイらの試合見に来てやー!」
言うと思ったよ。笑顔のままピタリと固まった私を見て一氏くんが顔をしかめる。
「何や、じいちゃんとこ行くん急ぎなんか?」
「え、あいや、そうでは、ないけども」
「そしたら見に来たらええやん」
問題あるか、くらいの物言いにどもっていると両肩を誰かに抱かれて、驚いて視線を送れば、白石と小春ちゃんが両脇にいた。待て。小春ちゃんはいいけど、白石お前は近いのダメ絶対。そんな私の気持ちなどお構い無しに2人は私の顔に自身の顔を近付ける。だから白石近いちょやだ近い。
「ユウジは九十九にえぇとこ見せたいんやなぁ」
「なっ…!」
「壱加ちゃん来てくれへんの寂しいもんなぁ」
「言っ、言うてへんわっ!小春までなんなんや!!」
ニヤニヤしてる白石と小春ちゃんに小さく首を傾げる。私にえぇとこ見せても意味無いと思うんだけど。相手が小春ちゃんならまだしも。そんな私達を余所に、金ちゃんは一氏くんを突き飛ばして勢い良く私の手を取り、ぶんぶんと振る。
「ワイもー!ワイも壱加ちゃんが応援してくれたらもっともーっと強うなるからー!!」
やだ、きゅんってした。そう言うのは好きな女の子に言いなさい。グッと胸元を抑えると、私の肩に手を置いていた白石がゆっくりと離れた。
「金ちゃん、あんま我が儘言いなや」
スルスルと左手の包帯を解きながらそう言う白石に目を見開く。珍しい事もあるもんだ。いつもはお前と謙也が率先して私を巻き込むくせに。謙也も同じ事を思ったのか目を丸くしている。当の金ちゃんはというと、いつぞや宜しく小さく悲鳴を上げて頭を抱える。金ちゃんには申し訳ないが、珍しく白石が言ってこないしこれに乗らない手は無い。東京来てまで面倒事に関わりたくないんだ。と、毒手嫌やーと騒いでいた金ちゃんが急にピタリと静かになるのでそっと顔を覗き込む。
「でも、壱加ちゃんが来てくれへんのも嫌やー…」
シュンとして呟く金ちゃんに、私のハートにグサリと何かが刺さった。何時に着くとか連絡してないから夜までにじいちゃんち行ければいいんだけど、いいんだけどね、関わっても良い事ないって。白石と謙也いるんだよ?そんな葛藤でさっき貰った東京ば〇奈をグッと握り締めると、黙って見ていた光くんが金ちゃんの肩を掴む。
「金太郎、我が儘言うなや。壱加さん困っとるやろ」
「財前は!?財前は壱加ちゃんに来てもらいたないんー!?」
くるりと光くんを振り返り叫ぶ金ちゃんに、光くんは少しだけ眉をひそめる。
「……そら、来て欲しいけど無理は言えんやろ」
「せやけどぉ…」
助けて、シュンと肩を落とす2人に萌え殺されそうなんだけど。
だがしかし、2人の後ろで「自分、コレ断るなんて出来ひんよなぁ」と言わんばかりにニヤニヤしてる白石蔵ノ介が見えるからとにかく腹立つ。この野郎コレを狙ってやがったな。だから敢えて金ちゃんを止めたりしたんだな。ギリっと歯を食いしばってから、「行くよゴメンねぇ!!」と2人に抱き着きたい気持ちを抑えて、「行くよ」と声を絞り出すまでにそう時間は掛からず、白石の策略により私は四天宝寺テニス部の短期マネージャーをやる事になるのだった。
グッバイ東京観光。
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