天使と陰陽師と、



「うおおぉぉお!!」


突然ですが、私は今、全速力で走っている。
しかし今回は珍しく幽霊関係ではない。…自分で、珍しくなんて言うといつも襲われてるみたいでなんかやだな。いや、いつも襲われてるんですけど!
兎に角、今回は違う。今日は、


「私のお昼ぅぅう!!!」


私の午後の活力のために戦場へと向かっているのだ。
いつもは弁当なんだけどね、寝坊したら忘れたよね。クラスメート二人にはパンを一つくれるという優しさは存在してなかったしね!マジ禿げろ!


「何か、最近、走って、ばっ…かっ!」


厄年なのかな、とか考えながら門を曲がる。と、


「きゃっ」
「っ、ぅお!」


誰かに衝突した。ちなみに後者が私の声である。きゃっ、なんて可愛らしい声、私には上げらんない。
というか、結構な勢いでぶつかっちゃったけど、相手の女の子は無事なんかな。


「もー、どこ見てるん自分ー」
「………男?」


おいおい待ってくれよベイビー。あんなに可愛らしい声を上げた子が坊主頭の老け顔(気にしてたらホントごめん)の男だなんて誰が信じるよ。


「あら、キミ怪我しとるで。ちょっと待ってぇな」


もう自分が女である事すら信じられなくなっている私にそう言うと、ズボンのポケットからゴソゴソと絆創膏を取り出した。ちなみにリ○ックマ柄だ。小物まで可愛い。というか女子力高い。きっと裁縫道具も持っているに違いない。
そして私の膝にペタリとリ○ックマ柄の絆創膏を貼ってくれた。


「ほな、これで安心や。可愛いお膝の痛々しい傷が隠れたで」
「…………………て、」
「ん?」
「天使だぁぁああ」


何この子本当天使超可愛い。坊主頭なのに女より女らしい。
超可愛い(大事なことなので二回言いました)。


「あら、ありがとぉ。ウチ、金色小春や」
「小春ちゃん、って呼んでもいい!?」
「ええでー!自分、名前なんて言うん?」
「私は「九十九?」そうそう、九十九壱加、って」


今、私を呼んだの誰だ。
聞き慣れない声にゆっくりと振り返ると、緑のヘアバンをした男の子がきょとんとして見下ろしていた。
誰だあんた。
眉間に皺を寄せると、後ろで小春ちゃんが、あらユウくん、と声を上げた。そうか、小春ちゃんの知り合いか。だがそうなると、先程私の名前を呼んだのは誰だ、となる。彼が小春ちゃんの知り合いなら小春ちゃんの名前を呼ぶはずである。しかし確かに私の名前を誰かが呼び、今この場でそれが可能なのが彼しかいないのだ。
……近くに幽霊とかがいないならば。


「ユウくん、壱加ちゃんと知り合いなん?」


あぁ良かった、やっぱり私を呼んだのは幽霊ではなくヘアバンくんだった。幽霊に名前呼ばれるとか心臓痛いからね。そしてちらっとしか言ってないのに小春ちゃんが名前覚えてくれた…!何これ凄い嬉しい!
ってか、


「何で私の名前知ってるの?ヘアバンくん」
「なんや、知り合いちゃうのん」


頷くとヘアバンくんが一瞬顔を顰めた。あれ?クラスメイトだったっけ?
首を傾げると溜め息混じりにヘアバンくんが口を開く。


「何で知っとるんて、白石と謙也と同じクラスやろ自分」


そうか、アイツらの知り合いか。
私の横で納得してる小春ちゃんも知り合いなんだろう。ちくしょう、あの人でなし共が知り合いとか小春ちゃんもヘアバンくんも気をつけてねホントに。


「でも、ユウくんにしては珍しいねぇ」
「え?」
「何がや小春」
「くらりん達のクラスメイトやからって自分に関係ない子の、特に女の子の名前は覚えへんやん」
「そ……れは、たまたまや。たまたま」


ふぅん、と興味なさそうな相槌に彼は浮気やないで、と慌てている。え、もしかしてそういう関係なの?いや、小春ちゃんなら仕方ない。可愛いもの。


「それから九十九」
「はい?」
「ヘアバンくんやのぉて、一氏や。一氏ユウジ」


覚えとけ、と吐き捨てた後にふいと視線を逸らされる。えぇぇ、何この人面倒臭い。
心底迷惑そうな顔をしているであろう私を放置して、ヘアバンくん、もとい一氏くんはスタスタと行ってしまった。小春ちゃんも用事を思い出したからと、可愛らしく手を振って去っていった。グッバイ天使!


「………あ、昼飯」





────

結局昼ご飯は買い損ね、哀れみの表情で女友達(別クラス)がパンをくれました。ありがとう友よ。
そんな昼も過ぎ、放課後。私は逸見先生に頼まれ(あの事件の恐怖で断れないんだよ!)、只今理科準備室。


『ねぇ、君は実験好き?』
「あんま好きじゃないなぁごめん怖いからコッチ来ないで幽霊無理」


絶賛、此処の住人(幽霊)とご対面中。しかも彼、さっきから事あるごとに逸見先生の名前を呼んでいる。なんだ、最近うちの学校で亡くなった生徒なんかいなかったはず。


『逸見さんならばそんな事は言わなぁぁぁい』
「ぎゃぁぁあぁあ近い近い近い!!」


御守りを前に突き出して距離を取っているので、一定の距離を保っているとはいえ怖いもんは怖い!
しかし、逸見さん呼びってことは最近の自殺者ではないらしい。そうだよな、最近死んでたら謙也が教えてくれそうだし、そんなところに私近付かないし。
冷静に分析してるように見えるが、実際半泣き状態です。あぁ逸見さん……なんて、私から離れて想い耽る幽霊から目を逸らさずに、どうにか理科準備室から逃げ出そうと必死に逃走経路を考える。


『……お前、』
「はいぃ!なんでしょーか!?」


あぁやだ、声裏返った。超間抜けじゃん!急に止めろよもう!バッチリ目が合った瞬間、彼がニヤリと笑う。
背筋が、ゾワリとした。


『身体を、寄越せ』
「っ、」


視える私の側にいて、きっと欲が出たのだろう。悪霊に、成りかけてる。
息を飲み込み、一歩後ろに下がるが只でさえ壁際に居たため、直ぐに逃げ場が無くなるのは分かっていた。泣き出したい気持ちを堪えて御守りを握り締める。じいちゃん、私を守って!


「しゃがめ!」
「はいぃぃい!!」


突然の叫び声に、身構えていた私の心臓は今にも飛び出していきそうでした、まる。しかし、しっかりと返事した上に言うことを聞く私はそろそろ騙されて身体乗っ取られるんじゃないだろうか。全く、自分の素直さんっ。
なんて事をコンマ1秒くらいで考えながらしゃがみ込むと、迫って来ていた準備室の住人が突然その場で悲鳴を上げた。


「……え?」
『誰だぁぁあ!邪魔するなぁ!!』
「じゃかしい!悪霊化しとるやんけ!式神っ!」


何だか聞き覚えのある声がしたと思ったら、狐?狐らしき白いひょろっちいのが準備室の住人に襲い掛かる。え、凄い。普通に凄い。式神とか初めて見た…!
感動と驚きでただ呆然と眺めていると、私が持っているような札が準備室の住人に貼り付けられ、彼は(恐らく)成仏していった。


「九十九、大丈夫か?」
「………一氏くん?」
「おん。無事みたいやな」


ほんならえぇわ、とどこか安心したように息を吐くのは、昼に出会った一氏くんだった。


「え、さっきの一氏くんが?」
「式か?そんなん九十九も出来るやろ?」
「そんな、みんな出来るやろ?みたいなノリで言わないでよ出来ないよ」


つい真顔で返すが、一氏くんは特に気にも留めず、そうなんやと軽く応えてくれた。ふと式神の姿を探すが、気付けば式神は消えていた。成る程、一氏くんは陰陽師の心得があるのか。もしかしたらそれで私の事を知っていたのかもしれない。爺ちゃん一応有名だし。兎にも角にも、彼が来てくれて助かった。


「ほんと、助けてくれてありがと。一氏くん」
「………おん」


笑顔でお礼を告げれば、一氏くんはふいとそっぽを向いて相槌を返してくれた。彼はちょっとシャイで俗に言うツンデレと似た属性なのかもしれない!


「ユウくぅぅん、どないしたんー?」


遠くから小春ちゃんの声がした、と思ったと同時に小春ぅぅう!!と、一氏くんは先程のクールさなど微塵も感じさせないくらい締まりのない顔で準備室から出て行った。
……小春ちゃんにはデレデレなんだね、彼。


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