キューピッドさん1



前回のあらすじ!風に言うと、一氏くんが言うには理名ちゃんに大量に憑いてる霊は呪詛が原因で集まっていて、その呪詛も放っておいたら理名ちゃんが死んじゃう大ピンチ!でもでも普通に呪詛を返してしまったら今度は呪った人が死んじゃうんだって。そんな究極の選択を迫られていた訳だけど、たった一つだけ誰も死なない方法が。それは『呪術者を見つけて形代を渡す』事。氷帝で流行っているという『キューピッドさん』が原因ではないか、って事で調べよう!ってなった今。


「手っ取り早いのはうちの部員からですかね」


何故か日吉くんと2人でキューピッドさん調査なうです。何がどうしてそうなったかと言いますと、あの後どうやって探そうなんて私が思っていたら、


『俺も手伝います』


なんて言う日吉くんの提案がありまして。


『じゃあ俺も行くCー!』
『芥川さんどうせ途中で寝るのがオチですよ。それにお2人は跡部さんが呼んでいましたよ』
『ゲッ、マジかよ…』
『それと、四天宝寺のお2人も白石さんが探していましたよ』
『あー……練習試合やしなぁ』
『え、そしたら私1人で』
『他校の人間が1人でどう調べるつもりですか。俺はレギュラーでは無いので皆さんよりは融通利きますよ』


なんて具合に押し切られてしまいまして。淡々とした調子で話を進める日吉くんに、ただ頷いて着いていってます。亮達に敬語だから後輩だと思うんだけど、何となく光くんに近い何かを感じるんだ。


「えっと、日吉…くん?」
「何ですか?」


メモを取り出す日吉くんにおずおず声を掛ければ、彼は立ち止まって振り返る。無表情なとこも光くんソックリ、でなくて。


「ずっと思ってたんだけど、その、呪詛……とか、信じ、てる?」
「えぇ。あと、理名さんに霊が憑いてるというのも」
「え、じゃあ日吉くんも視える人!?」
「視えればいいんですけどね」


うん?視えればいいってどういう事。ふぅ、と吐き捨てるように息を吐く日吉くんを見て首を傾げる。視えればいい、って事は視えてないんだよね?うん?て事は。


「……日吉くん、怪談話とかは…」
「1人百物語が出来る程度には」


私と真逆の人種ですね!なるほど、それで妙に詳しいしキューピッドさんを調べるって押し切ったのね。こういうの好きなんだもんね、そうか、そこに私1人じゃ心配、とかそんな気持ちは無いのか。くっと顔を逸らせば、行きますよ、とスタスタ行ってしまった。ほんと光くんに似てるね。あれ、そしたら理名ちゃんの心配して、とかでも無いのかな。


「……何か?」
「え。あ、いや…何でも」
「何でも無い風には見えませんけど?」


ちらりと私を見る日吉くんに言葉を詰まらせる。いやだって、直球で聞いて心配してない的な返答されたら、この後一緒に行動出来ないぞ私。ちょっと考えてから口を開く。


「うんと、日吉くんから見て、理名ちゃんってどんな人?」
「やかましいですね」


即答ですか。しかも真顔とか結構ガチのやつだね。すると、何か思い出したのか少しだけ顔をしかめた彼にそっと様子を伺う。


「毎回監督の目を盗んでは練習に混ざってくるわ跡部さんとの言い合いは日常茶飯事だわ何処にいても直ぐ分かる位うるさいわでほんと迷惑なんですよ」
「あー…うん」


一息で言い切る様子に苦笑すれば、日吉くんは深い溜め息を吐いた。うん、確かに練習普通に混ざり込んでたもんね。部員からしたら迷惑だよなぁ。じゃあやっぱり理名ちゃんの為とかじゃなくて、この手の話が好きだから手伝ってくれてるのかな。


「………だからと言って、死ねばいいとも、死んでいいとも思いませんが」


ふいと顔を逸らして呟く日吉くんに目を丸くする。―――なんだ、ちゃんと心配してるんだ。覗き込んだ横顔はさっきまでと変わらない無表情だったけど、思わずへへっなんて笑みが零れた。怪訝そうな顔されたけど怖くなんてないもんね。日吉くんは氷帝版光くんだ。うん。少しだけ足取り軽く彼の後ろをついていく。


「そういえば、日吉くん何処に向かってるの?」
「準レギュラーのところです。と言っても、確実にいると言えるのは1人ですが」
「1人は確実って何で」


そう私が聞くのと同時に日吉くんが立ち止まり、私も立ち止まる。ふと見れば扉があり、ぼんやり眺めていたら日吉くんがノックもせずに開ける。


「日野さん」


部屋の中に向かって呼び掛ける日吉くんの横顔を見上げてからそっと中を覗き込む。部屋の奥の方に、此方に背を向けて腰掛ける人がいて、その人は自分が座っている長椅子にごろりと寝転がって私達を見た。


「よぉ日吉、他校のマネジはべらせて彼女いない賢一様への当てつけですかコノヤロー」
「違いますよ。日野さんに用事があるんです」
「…そうか。彼女、俺に惚れて、」
「馬鹿言ってないで起きて下さい」


キッパリ言い切る日吉くんに中にいたその人は、何だ違うのか、と淡々とした調子で返すと気だるげに起き上がった。あ、この人理名ちゃんとダブルス組んでた人だ。日吉くんの後ろから中を覗き込んでたら、日吉くんにどうぞと促されて戸惑いつつ中へと入る。日吉くんも後から中に入ると扉を静かに閉めた。


「ようこそマネージャーちゃん、此処は準レギュラーの部室、俺は日野賢一だ」
「あ、九十九壱加です」


キョロキョロと中を見ていた私に近付いて、よろしく、と手を出す日野くんに自己紹介をしながら手を取る。淡々としてるけど無口では無さそう。あとイケメン。日吉くんも顔整ってるけど、日野くんは今時のチャラい系のイケメンって感じ。なんて顔を見つつ手を離す。………えっと、あの、あれ?私、手離したのにガッチリ握られてるんだけど。何で、え、待って。


「日野さん、それ以上続けるならセクハラとみなして理名さん呼びますよ」
「え」
「アイツ、容赦無く股間狙ってくるから勘弁してくれ」
「え゛」


パッと私の手を離して降参ポーズの日野くんに、日吉くんは盛大にため息を吐いた。今の言い方やられた事あるよね絶対。迷いなく急所から攻めるとか理名ちゃん殺し屋かな。呆然とする私に、日野くんは無表情のまま私達を見つめている。中身はコント中の小春ちゃんや一氏くんで、表情は光くん並の無表情とか初めて会うタイプの人だな。人ってここまで無表情でふざけられるんだね。そんな事を思ってると、日野くんが口を開く。


「よく俺が此処にいるって分かったな」
「練習試合の時は自分が呼ばれない限り、97%の確率で此処にいるじゃないですか」
「え、じゃあ残りの3%の時って何してるの?」
「「面白そうな試合を見てる(見てます)」」


それでいいのか氷帝テニス部。これで準レギュラーになれる実力があるから質が悪い、とぼやく日吉くんにやはり無表情でテヘッと頭をコツンとする日野くん。理名ちゃんと仲良さそうだから我慢したいけどもう言うね。ダメだこの人。


「それで用事ってなんだ?スリーサイズと体重以外は答えよう」
「キューピッドさんってやった事ありますか?」


相当慣れているのか日野くんは特に気にせず、キューピッドさん?と聞き返す。


「理名に言われてやった事はない。変なモンつくぞって言うからな」
「理名ちゃん、に?」
「アイツ、眠い時と乗り物に酔ってる時だけそういうの分かるらしい」
「何その条件」
「要は体調悪い時だけ感じるって事ですよ」


なるほど、疲れてると金縛りに遭いやすい、とかと一緒なのかな。と言うか、理名ちゃんそういうの信じる人なのか。そんで日野くんも信じてる、んだよね。じゃなきゃ言われたからやってないとかないもんね。ジッと見つめてたら視線に気付いた日野くんが、惚れたら怪我するぜ、と真顔でバンッと撃つ真似をした。あ、なんだろう。この四天にいないテンションウザい。


「キューピッドさんの紙を見た事は?」
「1回だけ。十円置く、社描いてある所が何かゴチャゴチャしてた」
「描いたりなんかは…無理ですね」
「おう。瞬間記憶なんて出来ないからな」
「日野くん、もうちょい怒るなりしようよ…」


呆れる私に、怒ると疲れるだろ?と不思議そうに返す日野くんは跡部くん並にゴーイングマイウェイだと思うの。何なの、氷帝は我流を通す人しか生き残れないの?それとも謙也が怒りすぎなだけなの?


「何だかよく分からないがそれは急ぎか?」
「……うん。一刻も早く、キューピッドさんの紙と最初にやり始めた人を見つけたい」


首を傾げて訊ねる彼に唇を噛み締めて強く頷けば、日野くんはしばらく私を見てからおもむろに日吉くんからメモとペンを奪った。


「だったら、やった事ある奴より紙持ってそうな奴のがいいな」


そう言ってサラサラと書いたと思ったら、ぽんと日吉くんの手のひらにメモを返す。横から覗き込めば、数人の名前と学年が書かれていて、日吉くんを見上げると、全員テニス部ですね、とメモを見つめながら呟いた。


「練習試合で、今日見た感じ欠席はない。急ぎなら身内のがいいだろう?」
「っありがとう!!」


ギュッと日野くんの手を握り締めてお礼を言えば、彼は一瞬だけ目を丸くして、小さく微笑んだ。あ、笑うとイケメン度増すぞ。


「九十九ちゃん、彼氏とかは」
「ゴメンナサイ」


瞬速で頭を下げれば、こんな高物件を断るとは良い女は違うな、とやっぱり淡々と返された。分かった、彼あれだ。残念なイケメン。

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