キューピッドさん2



「キューピッドさんの紙?ないない!終わったら燃やすんだって彼女が燃やしちゃったからさ」
「そうか…悪かったな引き止めて」


日野くんメモの3人目も見事に玉砕でした。ちなみに前の2人も既にやった後で燃やしちゃってたんだよね。ふぅと肩を落とすと、次に行きますか、と日吉くんが踵を返した。それにしても日野くんメモ凄いなぁ。今のところ3人共、紙を持ってた人だったし。どうやって調べたのかはこの際置いといて、この調子なら持ってる人に会えそうだな、なんて後を追う。


「特殊な模様が描かれているのに、最後には燃やすんですね」


メモを見ながら呟く日吉くんに、少し合ってから口を開く。


「地域性はあると思うけど、同じ紙を使用したらダメとかあるからそれでじゃないかな?」
「いえ、そういう意味では」
「え?」
「……次会う人に聞いてみます」


あ、今絶対「説明するのめんどくさいな」って思われた。何だよ、どうせ理解力低いよ。でも次の人に、何で紙燃やすんですか?って聞いても、そうやれって聞いたからって言われると思うんだ。だから教えてくれたっていいのに。むう、と不満そうに彼を見上げれば、日吉くんがちらりと私を見て深い深い溜め息を漏らした。あ、今絶対「めんどくさい」って思ったな。


「次に会うのはレギュラーなんで、九十九さんもお会いしてると思いますよ」


あ、はぐらかされた。そして私ちゃんと名乗ってないのに名前知られてるのか。不思議に思っていたら、日野さんに挨拶してたじゃないですか、と返された。やっぱり光くんと同じ何かを感じるよ、何で分かったの。ジーッと見つめる私をシカトして歩き続ける日吉くんが不意に立ち止まる。慌てて立ち止まると、彼の視線の先に侑士くんともう1人、さっき理名ちゃんに会った時にいたレギュラーさんがいた。私達の視線に気付いたのか、2人が此方をふっと見る。


「あれ、日吉?」
「なんや壱加ちゃんまで。どないしたん」


おおお、改めて見ると氷帝レギュラーやはり美形…!侑士くんも色っぽいと思ってたけど、もう1人の方もお綺麗だなぁ。しみじみと眺めていると、侑士くんと美人さんが此方へと近付いてくるので、私と日吉くんも2人に近付く。


「九十九さん、だっけ?滝萩之介だ、よろしく」
「あ、えと、九十九壱加です」


今日だけで何回自分の名前言っただろ、なんて思いつつ頭を下げる。滝くんも同じように頭を下げてから日吉くんに向き直る。


「四天のマネージャー口説くなんて、やるねー」
「えっ、や、あの、違」
「日野さんみたいな事言わないで下さいよ。2回も下らないやり取りしたくないんで」
「なんだ、もう言われてるのか。残念、折角真似したのにな」


クスクスと笑う滝くんに侑士くんが、全然似せる気ないやん、と呆れたように肩を竦めた。ツッコミどころはそこなのか。そして日野くんのアレはデフォなのか。助けて、今此処にツッコミが欲しい。九十九さん顔、と日吉くんがツッコミながらメモを取り出すと、滝くんに一歩近付いた。


「滝さん、キューピッドさんの紙を誰かから貰いませんでしたか?」


真っ直ぐに見据えて問い掛ける彼に、滝くんも侑士くんも目を丸くする。というか、何かさっきまでと質問が違う気がするんだけど何でだろう。


「―――…貰ったよ。それがどうかしたの?」


あ、分かった。『持ってるか』じゃなくて『貰ったか』になってるんだ。あれ?でも、日野くんが紙を持ってるであろう人を教えてくれたんだから、まだ有るか無いかを聞かないと紙が手に入らないよね?紙に描かれた模様が理名ちゃんに繋がる物なのか知りたいんだし。貰ったかどうかなんて、自分で描けないんだから誰かに貰ったに決まって、


「…………あぁ!!」
「もしかして今気付きましたか」


はい、その通りです。
やれやれ、とでも言いたげに肩を竦める日吉くんにグウの音も出ません。そうだよ、キューピッドさんが理名ちゃんを呪うものだったらなら、紙を作った呪術者を見つけなきゃなんだから、紙その物より貰った相手を辿った方が効率良いじゃんね。紙を探す事しか考えてなかったよ。
日吉くんが最後に使った紙を燃やすのを気にしてたのは『呪術者にしか作れない紙を燃やしてしまうなら、呪術者自身が紙をバラまいてるんじゃないか』って考えたからだよね。それで、滝くんは貰ったって言ったから、滝くんに渡した人が呪術者かもしれないん、だよね。


「えと、その紙って誰に貰ったの?」
「クラスメートだよ」
「その人、今日学校に来てますか?」
「文化部だし、そいつも女子から貰ったって言ってたからな」
「そっ、か…。ちなみに紙を持ってたりとか」
「使わないからクラスの女子にあげちゃったよ」


くぅ、どっちも駄目だったか。そうだよなぁ、興味あれば使うし、無ければ欲しい子にあげたり捨てたりするよね。滝くんにありがとうとお礼を言えば、隣に立つ侑士くんが口元に手を当てて目を軽く伏せた。


「キューピッドさんの紙が欲しいんやったらラウンジに行くとえぇで」


ぽつりと呟かれた侑士くんの言葉に、思わず、え、と声を漏らす。ラウンジに行けば、ってもしかして其処に紙を配ってる人がいるの?


「……どういう事ですか?」


スッと目を細めて問い掛ける日吉くんに私もジッと侑士くんを見れば、彼は私達に向き直って首を傾げた。


「どうもこうも、ラウンジの入口から向かって左手にある、花瓶が置いてあるキャビネットの中に入っとるで」
「まさかの『ご自由にお取り下さい』方式」
「壱加ちゃん、反応早いなぁ」


それ1年の時に白石達にも言われたよ。にしてもキャビネットって。まさかすぎる広め方なんだけども、これはどう反応したらいいの。特殊な模様が描かれてるって言うからそんな数無いんだと思ってたのに、めっちゃ軽いノリであるとかそれでいいのか広めた人。


「なら、どうして皆『誰かから貰ったりしてる』んですか?」


頭を抱える私の上でそんな声がして顔を上げれば、日吉くんが侑士くんを真っ直ぐ見つめていた。直ぐに理解したのか侑士くんはあぁ、と空を仰ぐ。


「聞いたのは、どんなに多くても『3枚』しか入ってへんのやて。全部無くなってもまた数日経てば入っとる。でも3枚なんか興味本意で皆持ってくやん?せやから3枚全部キープして、皆に配ってんのや」
「あぁ…それで誰かに貰ったって人が多いんだ」
「ほんで、休日前と休日には絶対入っとるっちゅー事やから、今日なんかまだあるんとちゃう?」
「詳しいですね」
「藤平が話しとったん」


ふじひら、って誰だろう。きょとんとしてる私に滝くんが、うちの部員だよ、と微笑み付きで教えてくれた。へー、やっぱり男子もこういう話好きなんだ。まぁコックリさんって女子がやるイメージ強いけど、怪談話はどっちもするしなぁ。となると、早いとこ見に行った方がいいよね。ちらりと日吉くんを見れば、彼も私を見て小さく頷く。


「お時間を頂き有難うございました、失礼します」


綺麗なお辞儀をして踵を返そうとする日吉くんに、慌てて私も頭を下げて後を追おうとした所で、日吉くん共々肩を掴まれて同時に振り返る。そこにはニッコリと微笑む侑士くんと滝くんがいて、何となく嫌な予感がしてとりあえず口元だけニコリと笑う。


「九十九さんと日吉は」
「どういう関係なん?」


そうだよね、だと思いましたとも。
隣で日吉くんがあからさまに面倒臭いと顔を歪めて、私も思わず顔を引きつらせると、目の前の2人は表情を変えぬまま私達へと詰め寄る。


「日吉が女子と、しかも他校の子とアイコンタクト出来るくらい仲良ぉなるなんて珍しいやん」
「1年の頃は理名とだって話さなかったのに、九十九さんとは半日で仲良くなるなんてよっぽどの事があったんだろ?」


あぁぁ、何だろうどうしようめんどくさい。理名ちゃんの呪いについて調べてますってハッキリ言えたら楽なんだけどそうもいかないし、かと言って他に日吉くんと共通点なんて無いしなぁ。口籠もる私の横で日吉くんが考える仕草をしてから、そうですね、と口を開く。


「珍しいコアな怪談話が出来る人、ですかね」
「「あぁ、なるほど」」


全力で否定させて頂きたいけれども、他に言い訳も浮かばないし、何より2人が間髪入れずに納得してるから泣く泣く私も頷くしかなかった。





―――…


「ねぇ、此処高級ホテルだっけ?」
「学校ですよ、残念ながら」


嘘だ。今私の目の前に広がるのはどう見ても高級ホテルのラウンジだもの。この先少し行くと食べ放題のとことかあるんだ。


「ビュッフェの事を言いたいなら、此処にもありますよ」
「……実は日吉くん読心術の使い手とか」
「全部口にしてます」


あらやだ私のうっかりさん。しかも馬鹿なのバレた。横文字のオシャンティーな言葉なんか分かんないよ。そんで何で学校にそんなものがあるの。四天と比べ以下略。前を行く日吉くんの後ろでそんな事を考えていたら、あれですね、と日吉くんが呟いた。視線の先を追えば、鮮やかな色合いで飾られた花瓶があり、その下のキャビネットは此処の雰囲気に良く合った落ち着いたブラウンで、それでいて部屋の片隅にぽつんとあるのが其処だけ異様に思えて背筋がゾクリとした。ゆっくりと2人で近付いて、キャビネットの前まで来ると立ち止まる。


「…入ってると、いいね」
「無ければまた聞いて回るだけですよ」


そう言って迷いなく引き出しを開けると、中を見て私達は静止した。
五十音が均等に並ぶソレの一番上には、社ではなく見慣れない模様が描かれていた。唾を飲み込む私の横で、ソレを手に取り日吉くんが枚数を数える。


「3枚、ありますけどどうしますか?」


私を横目に問い掛ける日吉くんにキュッと唇を結ぶ。


「全部持ってこう。コレがもし本当に呪具だったら、これ以上理名ちゃんの呪いを強くしたくない」
「…そうですね」


目を伏せて、キューピッドさんの紙を綺麗に4つ折りにすると、持っていたメモ帳に挟み込む。一氏くんに見てもらって、コレが本当に呪具かどうか確かめないと。目を合わせて小さく頷くと、私達はラウンジを後にした。

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