キューピッドさん3



「ラケットの握りが甘いでぇボクぅ」
「ほんなら跡部の“あの技”で終わりといこか」
「っ…!」
「破滅へのぉ…」
「「ロ・ン・ド!」」


コートに戻ってきたら、一氏くんと小春ちゃんがコートの真ん中で輪舞曲踊ってました、まる。
ラケット持ったままとか器用だね。相手コートの人ボール打ち損ねてるし…あ、それが狙いか。遠い目で見つめる私とあからさまに眉間を寄せる日吉くんに、たまたま近くにいた千歳くんがケラケラ笑って肩を叩く。練習騒がしいなぁと思ってたけど、まさか試合中までコントしてるとか思わなかったよ。戸惑いながらも審判(氷帝の人)が「ゲ、ゲームセット、ウォンバイ、金色・一氏ペア!」とコールすると、最後のフィニッシュポーズを華麗に決めて、四天宝寺の皆から拍手や歓声が沸き起こる。跡部くんの技って言ってたから、この為だけに輪舞曲の練習したの?一氏くんがモノマネ上手いのは、学校行事のに名前あったから知ってたけど、それにしたってクオリティ高くない?ナンちゃん彩さんペアもビックリだよ。


「ふざけてるんですか?」
「ウチのモットーは『笑かしたモン勝ち、勝ったモン勝ち』やさかい、これが普通なんや」
「銀さん」


日吉くんの素直な感想に答えたのは銀さんで、ゆっくりと此方に来る銀さんの名前を呼べば、彼は小さく微笑んだ。


「何か分かったんか」
「そうですね…」


そう言葉を濁して千歳くんを見る日吉くんに私も千歳くんに視線を向ける。そっか、呪いの事知ってるの四天宝寺は一氏くんと銀さんだけなんだっけ。そう当たり前に説明する訳にもいかないよね。オロオロと3人を見れば、きょとんとしていた千歳くんが二パッと笑って私の頭を撫でた。


「そげん顔せんともう行くっち、心配せんでよかね。小春とユウジ、どっちば呼べばいいと?」
「え?」
「何か探しとっと、ばってん俺達には話せん理由がある。なら何も聞かんとよ」


やだ、ほんと王子好き。ニコニコと笑う千歳くんのジャージの裾をギュッと握り締めれば、伸びっとよー、とやはり優しく頭を撫でられる。にしても、どうしてそんなにお見通しなの千歳くん。名前の通り、本当に千里眼だったりして。…どうしよう、有り得そうだから考えるの止めておこう。で、どっちば呼ぶと?と首を傾げる千歳くんに、一氏くん、とだけ伝えれば、了解という意味なのだろう、ポンポンと2回私の頭を叩いてからフラリと去っていく。


「……不思議な人ですね」
「ほんとにねー…」
「それより、もう少し人気の無い場所に移動したかったんですが、一氏さんを待っていた方が良さそうですね」
「それは心配いらんやろ」
「「え?」」
「千歳はんの事や、そこも見越してくれとるやろ」
「何者ですかあの人」


間髪入れずにツッコむ日吉くんに曖昧に笑う。それは私も知りたい。聞いた話だと千歳くん、3年の時に転校してきてるはずなのに昔からの仲、ってくらい皆当たり前に信頼してるし。ほんと不思議な人だよね。そんな事をぼんやりと考えていたら、何も言わずに銀さんが歩き始めるので慌てて着いていく。結局、何処に向かうんだろう。そっと銀さんを見上げれば何故か目が合って思わず声が漏れる。


「芥川はんが、まだ樺地はんにも見つかってへん昼寝スポットがある言うて教えてくれたんや」
「あ、そうなんだ」
「一氏はんも一緒に聞いとったから、問題ないやろ」
「まぁ、あの人何処でも寝ますけどね。人が居ようが居まいが」
「ねぇ信じて平気かなぁ銀さん」


ジャージを掴んで眉を下げれば銀さんも困ったように微笑んだ。確かにジローくん、四天宝寺と対面って時も爆睡してたもんね。見つかってないからって人が居なかったとは限らない訳だし。


「それは問題ねぇよ。樺地に見つかってないって事は理名と2人きりで寝る場所だろうしな」


不意に声がして振り返れば、ラケットを指先で弄びながら気だるそうに亮が歩いて来るのが見えた。


「虐められてたって話ししただろ?それからよく2人でいなくなんだよ」


小さく息吐く亮に日吉くんがあぁ、と空を仰ぐ。そっか、理名ちゃんが人に会いたくなくて、誰にも見つからない場所をジローくんと共有してるなら、他の人は居ないよね。でも、そんな大事な場所を私達に教えちゃって良かったのかな。

(―――あ、それだけ理名ちゃんを助けたいんだ。ジローくん)

助けたいと笑ったジローくんの顔が頭をよぎって思わず口元が緩む。
先を行く銀さんの後を3人で追いつつ辺りを見渡す。にしても、ホントに広いな氷帝学園。人為的な神隠し起きそう(迷子とも言う)。後は気付いたら1人増えてるけど誰もそれが誰か分からない、ってやつとか。本当にあるのかなそういうの。


「この辺りやな」


ぼんやり下らない事を考えていれば、銀さんがゆっくりと歩くペースを緩めていて、亮が、そうだな、と近くにあった花壇の淵に腰掛けた。確かに、人気は無いみたいだし気にしないで話が出来そう。私も亮の隣に腰掛けてふっと空を仰いだ。草木が風でそよぐ音だけが響く此処は、さっきまで私達のいた氷帝学園とは別の場所みたいだ。理名ちゃんは此処で、独りで泣いてたんだろうか。なんて目を閉じれば、肩に何かの気配を感じてちらりと横を見る。細長い狐が私の肩に乗って顔を覗き込んでいた。


「ぅおわぁぁ!!」
「もう少し可愛げある声出せよ」
「どうしたんですか?」


驚いて後ろにひっくり返った私に、亮にはツッコまれ日吉くんには冷静に尋ねられた。もうちょっと「どうした!?」とかあってもいいと思うんだけど。あと花潰しちゃったかもしれない、ごめんなさい。そんな私の上で、さっきの狐がひょこりとやはり私の顔をを覗き込んできた。あれ、この子物凄く見覚えがあるぞ。


「管狐、やな」


倒れ込んだ私に手を差し伸べながら銀さんが呟く。手を取り起き上がると、管狐はスルスルと膝の方まで移動して亮や日吉くんの方をキョロキョロと見回す。恐る恐る手を伸ばして背中を撫でれば、気持ち良さそうに目を閉じた。


「管狐、って言うんだこの子。」
「管狐、妖怪の一種です。人に取り憑いて精気を食らい、祟り殺す力を持っています。その一方で、使い魔や式神のように使役することも出来、管狐を崇敬し守り神とすれば、人間に仕え、術者に富を与えるために働いてくれる存在です。ちなみに管狐を使役する家系を管憑きと呼び、管狐を使役する術者を飯綱使いやクダ持ち、クダ使いと呼び、恐れられていたとされています」
「日吉くん本当に好きなんだね」
「このくらいウィ〇ペ〇ィアで出てきますよ」
「うん、でも暗記は無理かな」
「こんな生き生きしてる日吉初めて見るぜ」


目をキラキラさせて私の目の前に座り込む日吉くんを見て、亮が目を丸くする。当の本人はそんなの気にせず、管狐の頭を指の腹で優しく撫でている。少しだけ口元が緩んでいるから、きっと物凄く喜んでるなこれ。


「此処におったんか」


不意に声がして全員が顔を上げて声の方を見れば、一氏くんがゆったりと歩いてきていた。やっぱり、この子前に私を助けてくれた式神だったんだ。


「早かったね一氏くん、千歳くんにこの場所聞いたの?」
「いや?」
「「え?」」
「『九十九達が呼んどるけん、ユウジば考えとうとこで待っとっとよ』言うて行ってまうし、全っ然思い当たるとこなんか浮かばへんから式神つこてんねん」
「えっととりあえず、声マネとかいうレベルを超えてる件をツッコミたい」
「只の千歳がいたけどどっから出してんだよその声」
「口」
「「そりゃそうだ」」
「千歳さん、やはり何も考えてませんでしたね」
「一氏はんの式神について誰もツッコまんとこが流石やな」


いやだって千歳くん本人がいたんだもん。むしろ日吉くんと銀さんがツッコまないのが不思議だよ。あと、私は式神使えるの知ってるし。私の膝から一氏くんの所まで飛んでいく管狐を見送りつつ一氏くんを見つめれば、不意に目が合った。


「……九十九は見た事あるやろ」
「え?あ、うん」
「ほんならあんま見んなや」


ふいとそっぽ向く一氏くんに目を丸くする。え、何かしたかな私。もしくはずっと見てると敵って認識されるとか?それは悲しいし怖い。青ざめる私を横目に見て、一氏くんが息を吐いた。


「そいつみたいに穴あくほど見られたら流石にコイツも怖がるわ」
「あぁ、うん…」


一氏くんの後ろをふわふわ浮いている管狐を、さっきの3割増しキラキラさせてガン見している日吉くんを指差すので、思わず渇いた笑いが漏れた。うん、何ていうか日吉くんが楽しそうで何より。怯えているのか一氏くんの背中に隠れた管狐に、もうえぇぞ、と一氏くんが声を掛ければ管狐はふっと消えて一枚の紙が残った。おお、式神って和紙札の式札なんだ。式札はじいちゃんも持ってるから知ってるぞ。あ、消えちゃったから日吉くん残念がりそう。なんて思いつつ彼を見れば物凄く感動していた。うん、楽しそうで何より。


「ほんで、呼び出したゆー事は何か分かったんか」
「噂の出処はまだ分かりませんが、キューピッドさんの用紙は見つけたので一度見てもらおうと思いまして」


一氏くんの問い掛けに、さっきまで嬉々としてたのが嘘みたいに淡々と日吉くんが答える。オンオフ激しいなぁ。切り替えが早い、のが正しいかな。まぁ一緒にいて思ったけど、表情も口調も感情豊かだしね。あくまで光くんと比べて、だけど。メモ帳に挟んでいたキューピッドさんの紙を取り出して手渡すと、一氏くんは紙を開き目を細めて見つめる。


「特殊な模様て、梵字か」
「分かるのか?」
「全然読めへん。しかも一文字だけやないしな。読めるか師範」


亮に答えてから銀さんに紙を手渡す。銀さんはそれを受け取ると、じっくりと模様の部分を見つめてから口を開いた。


「全ての文字が重なっとって読みづらいが…」


僅かに眉を寄せて目を伏せた銀さんが、一息置いてから紙を再び4つ折りに畳む。


「『渡瀬 理名』そう、書かれとるんで間違いはないやろな」


と、いう事は。


「これが呪具、キューピッドさんが呪詛で決定っちゅー事やろな」


胸元のポケットに用紙をしまう銀さんに、一氏くんが一つ舌打ちをした。









管狐 引用Wikipediaより
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