「……」
壱加と代わったがいいが、何で野郎と2人きりで形代作んなきゃなんねーんだ。つーか何で日野の奴、形代作り手伝ってんだ?壱加か日吉が話した…壱加が初対面の奴にそんな話しねぇか。理名が関わってるから日吉が?だからって下手に聞けねぇしな。これで壱加に頼まれたってだけで紙切ってんのかもしんねーし。(※正解です)
盛大に溜め息を吐けば、日野が突然目の前に現れて、人形の紙をビローっと広げた。
「うおぉぉ!!!」
「溜め息は幸せが逃げるぞ宍戸」
「だからって急に人形広げんな、って器用だなお前!!」
「よく言われる」
そう答えてから手際良く折り畳んで、繋がっていた手の部分を切り離していく。向日とはまた違う、このおちゃらけた感じ苦手なんだよ。何で理名と仲良いのかもイマイチわかんねーし。今度は小さく息を吐いて、再び紙に向き直って切り始めると、部室のドアが勢い良く開いた。
「あり?九十九さんコッチにいるって聞いたんだけど見なかった?」
「芥川、九十九ちゃんならそこにいるポニーテールが俺とのランデブーを邪魔したからもういないぞ」
「悪かったな邪魔してよ」
やれやれ、とわざとらしく肩を落とす日野にトゲがある返しをすれば、ジローがケラケラと笑った。笑うとこじゃねぇよ。くそ、と頭を掻けばジローがピタリと笑うのを止めて俺達の手元をジッと見つめる。そこにあるのは人形で、まじまじと見つめた後、俺らの近くまで来てベンチに座るとその一枚を手に取った。
「全校生徒分って大変だよなー」
待てジロー。日野がその事知ってるか分からねぇから変な事言うな。
ピタリと切る手を止めた日野に内心ハラハラしながら2人から目を逸らす。目を見られたら日野にはバレる気がすんだよ。ヘタレとかじゃねぇ。
「…九十九ちゃん達は、キューピッドさんの出処を追って出て行った。芥川もその事で九十九ちゃんを探してるんだろう?」
「そう!日野スッゲー!何で分かったの!?」
パッと顔を明るくするジローに、何となくな、と綺麗に切り離した人形をベンチの隅に積み上げる。キューピッドさんを調べてるだけじゃなく、犯人探してんのは知ってんのか。くそ、壱加にどこまで話してるか聞いとけば良かったぜ。
「お前は、何か分かったのか?」
「準レギュラーでキューピッドさんやってた奴!あ、日野はやった!?」
「やってない。九十九ちゃん達には話してあるぞ」
「そっかー。これ聞いて回んのシンドいCー」
「芥川は苦手だろうな」
「日野は上手そー。九十九さん手伝わねーの?」
「器用だからってコッチを任された」
そう言って、いつの間に作ったのか手を繋いだ人形をビローっとジローに広げてみせる。マジマジスッゲー!なんて目を輝かせるジローに呆れつつ日野を見れば、コイツも俺を見ていて、そしてニィと口元を上げた。…何となく、嫌な予感。
「おいジロー、壱加なら日吉と多分コートの方だ」
とりあえずジローを追い出しとかねぇとやばい気がする。直感的にそう感じて早口にジローに言えば、思い出したようにジローが立ち上がる。
「キューピッドさん、治まるといいな」
不意に日野が呟いた言葉に、俺もジローも動きが止まる。一体どこまで知ってる。壱加と日吉が何故追ってるのかまで知ってるのか?それとも『呪術者』だから俺達の行動に感づいてるのか?
(―――いや、それはねぇな)
握り締めた拳を緩める。理名が一番しんどい時に、普段通り何も変わらずアイツに接してた。それに何より、アイツの心配をするのはジローの次にコイツと言ったっておかしくねぇ。
「こんなモノが必要な程酷い状況なのか?」
人形を1枚顔の前でヒラリと振ってジローを真っ直ぐ見つめる。ジローもさっきまでの笑顔は無くなって同じように日野を見つめた。
「……死ぬかもしんないって。呪ってる奴に呪い返しをしたらそいつも死んじゃうからって、そうならないようにって、九十九さんが色々、頑張ってくれてる」
「…なるほど。呪い返しの代わり身がこんなに必要なのはキューピッドさんをやった奴等も呪いを手伝った事になるからか」
小さく息吐く日野に、ジローは小さく頷いた。日野の奴、キューピッドさんが呪いって事は知ってたみたいだな。只、形代を作り始めた理由までは知らなかったって事か。ほんと 、聞き出すの上手いよなコイツ。『情報屋』とか影で言われてる理由が分かったぜ。人形とハサミをベンチに置いて立ち上がると、入口にいるジローの傍まで日野が歩いていく。
「九十九ちゃんに会うなら伝えといてくれ」
「?何を?」
「呪いであると分かっている、その上でキューピッドさんを広める奴が発信源が自分なんてバレるような事はしない。そいつもきっと『誰かに貰った』と言うだろう」
真っ直ぐと、ジローを見てそう言い放つ日野に、一瞬部室に沈黙が流れる。目を丸くしていたジローが、ニカッと笑ってオッケー!と親指を立てて部室を出て行くと、日野は何事も無かったように再びベンチに腰掛けて黙々と人形を切り始めた。
「…お前、どこまで知ってんだよ」
眉間を寄せて問いかければ、飄々とやはり手を繋いだ人形を広げて、そうだな、と呟く。
「九十九ちゃんがこの紙を持ってくるまでは、オカルト好きの日吉と九十九ちゃんがキューピッドさんを調べてて、キューピッドさんをやるために紙を探してるんだと思っていた」
「……は?」
「芥川が全校生徒だと言うまでは、コイツはキューピッドさんをやった事で出てきた幽霊でも退治する道具だと思っていた」
ちょっと待て。つまりそれって、
「―――何も、知らなかったんだな?」
そう言えば、先程のようにニィ、と笑った。くそっ、そういや『呪い』じゃなくて『キューピッドさん』としか言ってねぇし、形代の事も『こんなモノ』としか言ってないんだよな。ジローが呪いだって言ったから幽霊退治じゃないと判断してあそこまで推理したのかよ。舌打ちを一つすれば日野が、怖いな、と人形量産を再び始めた。まぁ、ジローも馬鹿じゃない。呪われてる相手は言わなかったし、誰が呪いの事に気付いたとかその辺は話してない。これ以上コイツに変な事は言わねぇ方がいいな。俺が視えるのがバレるのも面倒臭ぇし。
「ちなみに、お前がもう話す気が無いだろうから言うが」
「あん?」
「呪われてるのは理名で、四天宝寺に呪いに詳しい奴がいる。キューピッドさんを作った奴を死なせたくないと言ったのが九十九ちゃんで
、日吉は偶然聞いて手伝っている」
「…………」
「当たりだろう?こういうのは得意なんだ」
少し自慢げにハサミをくるくる回す日野に俺は頭を抱えた。
「何で理名だと思う」
「芥川が寝もしないで調べてる。しかもあんなに真面目な表情、先ずレギュラーか理名まで絞れる。そこに他校の九十九ちゃんが必死になっている所から同じ女子として話した理名しかいないと思った」
「呪いに詳しいのが日吉じゃなくて四天の奴だと思ったのは?」
「行動を始めたのが今日だからだ。呪いに詳しい…いや、仮にそういうのが視える奴が四天宝寺にいるから今日突然聞き込みを始めた。九十九ちゃんは視えるか分からないが信じているタチだろう。あんなに必死だからな」
マジでコイツ何者だよ。あからさまに顔を歪めた俺に、天才だからな、と返す日野は一発ぶん殴りたい。情報屋、って言われる理由分かったぜ。日野は少ない手札で相手の情報を引き出して、自分が確信持てる「言葉」を見つけるのが得意なんだ。ブラックジャックやポーカーやらせたら負けねぇんじゃねぇか。それと今回の犯人探しも、だ。コイツなら些細な違和感くらい見つけられるんじゃ。
「相談は乗るが手伝わないぞ。九十九ちゃんや日吉が話さなかったものを無理に聞き出したんだ。助けを求められた訳じゃない」
それにこれはあくまで憶測だしな、とハサミの音が響く中、日野が呟く。心も読めんのかよこの野郎。じとりと睨み付ければ、大量の人形を押し付けられる。
「なっ、」
「俺の分は終わった。そろそろテニスでもしてくる」
一つ伸びをして扉へと向かう日野を呆然と見送っていると、はたと立ち止まって振り返る。
「理名を呪った奴、分かったらこっそり教えてくれ」
「…何でだよ」
「あぁ…、取り敢えず、鼻からコーラを流し込んで、ワサビを溶かした塩水を目薬代わりにさそうと思う」
いつも通りの無表情でそう言ってから、引き攣る俺に構わず、それと、と続ける。
「お前の事も、黙っておいてやる」
頼んだぞ、と踵を返して部室から出て行った日野の後ろ姿を扉が閉まるまで見送って、扉が閉まると同時に盛大に溜め息を漏らしてしゃがみ込んだ。
俺の事って、俺の事ってどれの事だよ…!つーか、ジローが犯人分かっても半殺しとかやりかねねぇけど、日野にバレんのもやべぇぞこれ。そんで俺の事って、アイツ何に気付いたんだよ……!押し付けられた人形を折らないように握り締めて、暫く俺はその場で見悶えていた。
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