キューピッドさん14



「呪術者は男で、今日学校に来てる人物……」
「となると、やはりテニス部の可能性は拭えませんね。理名さんの交友関係に詳しい訳では無いですが、余程の執着のようですし親しくなる異性は身内の方が多いかと」
「でも、片想いしてて理名ちゃんがテニス部の他の男子と仲良くしてるのを『どうして俺に気付いてくれないんだよ!』みたいに逆ギレしてたとしたら?」
「面倒な男ですね」


舌打ち付きでそう吐き捨てる日吉くんに、自分から言っておいてなんだけど確かにと頷く。でもヒロちゃん曰く現実的にいるらしいしなぁ、告白しても付き合っても無いのに彼氏面する人とか。
ジローくんとアオさんは二人共理名ちゃんの所に戻ると言うので別れて、私と日吉くんは先程の秘密の昼寝スポットで名簿を見つめて推理中です。あの後わざわざ聞いて回ってくれたのか早坂くんと日野くんのお陰で、直接ではないけど部員全員から話を聞く事が出来たので、呪術者候補を上げて話をしていくのが今一番最良の行動だろうという事になり、人目を気にせず考えられる此処に来たのだけど。


「そもそも、執着を強く感じるから呪術者本人が近くにいる、というのも信頼出来る事かも分かりませんからね」
「うーん、でもアオさんは理名ちゃんの側にずっといて呪いの執着にずっと触れてるから信じていいとは、思う」
「なら呪術者を見たら一発で見つけて欲しいものですが」
「あ、それはね、キューピッドさんをやった人達からも呪いの執着が視えるからゴチャゴチャになってて霞んで分かりにくいって言ってたよ」
「木を隠すなら森の中……という事ですか」


アオさんから聞いた情報から色々意見を出してはみるものの、やはり200人超えの部員から探すのは、私は勿論、多分日吉くんも色恋沙汰に疎いので一進一退を続けている。いやでも理名ちゃん自身が恋愛疎そうだし、これ本当に私が言ったみたいに全く理名ちゃんと親しくなさそうな人だったらどうしよう。


「あの幽霊もですけど、呪術者も理名さんが好きだなんて物好きですよね」
「知ってたけど日吉くん酷い」
「親愛はあったとしても恋慕するというのがあの人相手に湧く感情とは思えないので」


名簿を捲りながら溜息混じりに零す日吉くんに苦笑する。滝くんだかが理名ちゃんともそんな話さなかったのに、って言ってたから本当に部活とか無かったら話さない相手なんだろうなぁ。横から名簿を眺めて、そういえばレギュラーのページは見てないなと日吉くんの顔をちらりと覗き込む。


「日吉くん、あの」
「?何ですか?」
「レギュラーの人達のページは、見ないのかなって」
「……あの人達がこんな事するとは思いませんよ」
「え、でも」
「理名さんの虐めを誰よりも近くで見て、誰よりも巻き込まれて、誰よりも助けようとしてましたから」


真っ直ぐと私の目を見る日吉くんに息を呑む。そうだった。最初からずっと亮もジローくんも、理名ちゃんの肩を叩く跡部くんの表情も、困ったように微笑んでた侑士くんも樺地くんも、理名ちゃんの事を本気で心配してた。他のレギュラーさんは分からなくても、きっと皆同じように思っているなら。


「それに、好きになったり腹が立ったなりしたなら直接行動しますよ。こんな回りくどい手の込んだ事はしません」


ごめん、と小さく呟けば、日吉くんから呆れたような声色でそう返ってきて、そっかと返す。回りくどい、は納得出来るけど手の込んだってところは跡部くんならやると思うんだ。手の込んだサプライズとか全力でやりそう、何となくだけど。


「何ばしよっとね?」
「ぅおわぁぁ!」
「驚きすぎですよ」


ひょこりと私の顔を覗き込む様に突然現れた顔に驚いて後ろにひっくり返った私に、日吉くんは冷静にツッコんできて、もうちょっと心配してくれても、あれこれデジャブ。花が潰れてないか確認しつつ顔を上げれば千歳くんがすまんったい、と眉を下げて笑いながら手を差し伸べてくれていて慌ててその手を取る。


「千歳くん、こんな所でどうしたの?」
「そんこっちが台詞ったい。探し物あったっと?」


探し物、は一氏くんを呼んでもらった時にはもう見つかってたんだけど。首を傾げる千歳くんにおずおずと頷けば満面の笑顔を返された。破壊力ヤバイ。王子最高、好き。口元を隠して顔を逸らした私を日吉くんが冷めた目で見ている気がするのは、光くんと同じものを彼に感じるからだと信じたい。


「今度ばなんしとっと?」
「調べ物です。コートに戻らなくていいんですか?」


興味津々と覗き込んできた千歳くんに、有無を言わさず名簿を閉じて日吉くんが切り捨てる。容赦無いなぁ流石日吉くん。しかし此方も流石千歳くん。きょとんと目を丸くしたと思ったらへらりと笑って一言。


「戻り方分からんち、迷子ったい」
「……そうですか」


あ、日吉くんが折れた。いやまぁ、こんなあっけらかんと言われたら拍子抜けするよね。というかこんな迷子に見えない迷子、流石千歳くんとしか言いようが無いよ。光くんの言う通り紐付けておけば良かったね、なんて思ってない、思ってないんだから。私の横に当たり前のように座る千歳くんに日吉くんが盛大に溜息を吐いたのを眺めて、少し合ってから日吉くんの膝から名簿を抜き取り千歳くんに向き直る。


「ねぇ千歳くん、今私達、理名ちゃんを呪った犯人探しをしていてね、」
「ちょっと何普通に話してるんですか」
「唐突過ぎて流石にたまがるねぇ」
「え、たまが……?って?」
「驚くっち意味たい」


コロコロ笑う千歳くんがちゃっかりと私の手から名簿を取ると、パラパラと中を読み始める。それを眺めていたら、急に後ろへ引かれて引っ張った相手を振り返ると思い切り眉間を寄せた顔が見えた。おおう、ここまで「貴方馬鹿なんですか」って顔初めて見た。


「九十九さん」
「ナンデショウ、ヒヨシクン」
「何考えてるんですか」
「いや、三人寄らば文殊の知恵、って言うじゃん?」
「三人目の選択がおかしいでしょうよ」


日吉くんが小声で話し始めたので、つられてひそひそと話し始めたけど千歳くん隣にいるし意味無いんじゃないかな、なんて思いつつ答えれば日吉くんの眉間のシワが大変な事になってきた。理名ちゃんの嫌味食らった跡部くんと良い勝負。えー、いいと思ったんだけどな。どうせ二人だと悩み続けそうだったし、千歳くん駄目だったら白石のとこ行こうかなとか思ってたんだよね。アイツこういうの得意そう。ダメだったかな、と首を傾げていたら肩を叩かれる。


「ん?どうしたの千歳くん」
「こんチェック付いとるんが呪いばやった人なら多すぎん?」
「あ、えっとね、キューピッドさ、じゃなくて狐狗狸様やった人も呪いをやった事になるんだけど、私達はその呪うための狐狗狸様の用紙を作った人を探してて」
「成程、真犯人ば探しよるんね」
「うん。テニス部の人達からは話を聞けたんだけど用紙のばら撒き方は分かっても出処が分からなくて」
「……さしより、九十九と日吉が聞いた人達ん話ば全部聞かせて貰うてよか?」


こてん、と小首を傾げる千歳くんに私と日吉くんは見つめ合ってから一つ頷いて自分達が聞いた話とアオさんから聞いた話をし始める。状況説明は日吉くんがしてくれて、私はその人が実際に言っていた言葉を日吉くんの説明の補足程度に思い出せるだけ伝える。
ひとしきり説明し終わると、考える仕草をした後に手にしていた名簿を私に差し出して微かに笑った。


「九十九はもうそん犯人に会うとるばい」
「「……え?」」
「何気なか会話ん中で真犯人だけは決定的なミスば犯しとる。上手く隠しとっと、きっとその言葉は無意識やったんじゃなか?ばってん二人は知っとるけん気付かんかったんばい」
「ちょっと待って下さい、俺達が直接話を聞いた中にいると言うんですか?」
「そういう事ったい。よう思い出してみとっと、たった一人だけ他と違う事ば言うた人がおるはずけん」


ほい、と胸元に名簿を押し付けられて、咄嗟に受け取ると千歳くんは何食わぬ顔で去っていってしまった。あれ迷子って言ってたのに、じゃなくて。


「たった一人、他と違う事……?」


今話した内容を思い出しながら胸元の名簿を見つめる。呪いだと分かっていてキューピッドさんを広める奴が発信源が自分なんてバレるような事はしない、そう日野くんから聞いたとジローくんが言っていたし、私達が出会った人達にキューピッドさんの話で何か違いがある人なんて、


「……あ!」
「九十九さん?」
「呪術者……分かっちゃったかも」

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