テニス部の幽霊?



問題です。
何故、帰宅部の私が男子テニス部の部室でテニス部レギュラーに囲まれているのでしょうか。


「ゆっくりしてってなー!」


眩しいくらいの笑顔で金ちゃん(でいいと彼に言われたのでこの呼び方になった)に言われ、曖昧に笑って頷く。彼の周りには光くんに小春ちゃん、一氏くんに王子もとい千歳くん、銀さんと知り合いが勢揃いである。あとついでに、謙也とテニス部の部長である白石も。何なの?最近知り合ったの、皆謙也と白石の知り合いなんだけど。呪い?
さて、それは置いといて冒頭の答えだが、分かりやすく説明すると、帰ろうとしていたところで金ちゃんと鉢合わせして、暇だったら見に来てやー!と早く帰りたい私などお構い無しに引き摺られ、その途中で千歳くんにも出会い、彼と金ちゃんが知り合いで同じ部活だと聞いて、王子の勇姿が見たい!という恋する乙女全開で金ちゃんが謙也の部活の後輩=白石もいる、ということをすっかり忘れて着いてきてしまったから、という自分でも間抜けな理由である。ほんとに、自分馬鹿じゃないの。まぁ、知り合い多い、というか最近知り合ったのが全員クラスメートと繋がってたとか笑える事実も知れたので、この際良しとしよう。
だけど、私は彼らに問いたい。


「なんや、みんな九十九と知り合いやったんか」
「俺は知り合いちゃうで」
「壱加ちゃんとワイは仲良しなんやでー!」
「あら、仲良しさんは金太郎はんだけやないでぇ?なっ、ユウくん!」
「せやな、小春っ!」
「ばってん、世間は狭かねぇ」
「九十九はんが全員と知り合いやったとは」
「今日初めてちゃんと会ったんやけど」
「俺と金太郎は最近ですけど。謙也さんに巻き込まれた仲なんで」
「巻き込まれたんは俺もや!ホンマ怖かったんやぞ!!」
「それはええんやけど、誰か九十九さんを紹介して、」
「巻き込まれたって何しでかしたん?」
「聞いてや白石!ワイ幽霊さん初めて見たんやー!壱加ちゃんのおかげで助かったんやでー!」
「謙也さんぎゃあぎゃあ泣き叫んでばっかで役立たへんかったんすわ」
「なぁ、」
「やだ謙也くん、か・わ・い・いっ」
「浮気かー!」
「ちゃうで白石!いやだってめっちゃ怖かってん!なっ、壱加っ!?」
「う、うん……」


皆さんお分かり頂けただろうか。今の会話で不自然な、いやむしろいっそ自然なくらい華麗にシカトされている人物がいる事に。
ちらりと彼を見るが、皆は微塵も気にする事なく和気藹々と話し続ける。彼も慣れているのか普通に会話に(スルーされているが)交ざっている。
これはあれかな、幽霊なのかな?え、男子テニス部、なんてもん飼ってんのよ。会話に適当な相槌を打ちながら、ちらちらと彼を見ているのに皆は気付かないということは、やはり私にしか見えていないのか。えぇー、来なきゃよかったよー。


「どないしたん?壱加ちゃん」


私の様子が可笑しいのに気付いたのか、小春ちゃんが顔を覗き込んできた。やっぱり小春ちゃんは天使だ。もうこの際言ってしまった方がいいのかなぁ。


「えっと、その……」
「どないしたんや九十九」
「幽霊、が……いる」
「「はぁ!?」」
「どこや!どこにおるん壱加!?」
「謙也さんうっさいっすわ」
「あ、あそこ……」


ゆっくりと彼を指差すと、全員コントのように同時に彼を見る。指差された彼も振り返る。いや、お前だお前!


「なーんや、ケンちゃんしかおらんやんけー!」
「え、」


ワンテンポ置いて、それこそコントのように同時に私に向き直った全員の気持ちを代弁するように、金ちゃんが笑って言ってのけた。
ケンちゃんとは誰だ。謙也のけん?いや、違うな。金ちゃんは謙也って呼んでたぞ。ってことは幽霊(仮)がケンちゃん…?
眉間に皺を寄せている私なんかお構いなしにテニス部連中は笑いながらまた会話を始めた。しかし、ケンちゃんと呼ばれた幽霊(仮)は小さな溜め息を吐いて私の近くへとやってきた。


「えっと……」
「小石川健二郎、テニス部の副部長やってます」
「あ、九十九壱加です。あー、あの、」
「気ぃ使わんといて下さい。いつもの事なんで」


幽霊とか言って絶対傷付いたはずなのに、幽霊もとい小石川くんは笑ってくれた。
そうか、こんな良い人なのに物凄く地味なのか。可哀想に。いや、私もこのくらい地味だったら白石達に絡まれなかっただろうか。何だそれ羨ましい。


「それはそうと、九十九さん幽霊見えるん?」
「あ、あー…まぁ」
「そら、大変やろなぁ。話聞いとると謙也とか迷惑かけとるみたいやし。ほんと、おおきに」


決定。彼は超良い人。
こんな良い人を私は幽霊だなんて……。というか、此処には幽霊が見える銀さんに一氏くんがいるんだから部室に地縛霊がいたら2人がどうにかしてるよね。何故気付かなかったの私。
小石川くんの制服の袖を軽く掴んで小さく呟いた謝罪は、男子テニス部連中の笑い声で彼には届かなかった。

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