ジーンさん



怪談話と言うものは、とにかくそう言った『モノ』を引き寄せやすい。
それは霊感の有無を問わず誰にでも出来る霊を呼ぶ方法だ。これを利用して行う降霊術の一つ、百物語とかあるし。まぁ、主に悪意の無い浮遊霊がふらっと立ち寄った、くらいのものである。と言っても長々してればそれなりの数になり、悪いものも来やすくなるので(それこそ百物語とか)しないに限る。
しかし人間というのは悲しいかな、どうにも怪談話が好きらしく。


「『ジーンさん』って知っとる?」


ニッコリと笑う小春ちゃんはとても可愛らしいのですが、長年培われた第六感なるものが「これいつものやで」とか警報を鳴らしているので、これはきっと『そういう話』なんだろう。何で女の子ってこういう噂話好きかなぁ…ん?小春ちゃんは男の子か。いや、女子力高いから女の子でいいよもう。


「「ジーンさん?」」
「何すかそれ」


そして予想通り、白石と謙也が聞き返し、光くんが問い掛ける。ちなみに今はお昼休み。小春ちゃんに誘われて一氏くんも一緒に3人でお昼、と屋上へ行けば既に白石、謙也、光くんと先客がいて今に至る。
やだなぁ、コックリさん系か花子さん系かその辺りかなぁ。
そんな事を考えながら黙々とお弁当を食べていると、小春ちゃんがあんなぁ、と話を続ける。


「ジーンさんは恋しとる女の子の味方、なんやけど」
「なんやけど?」
「電話がかかってくるんや。『もしもし、あたしジーン』…って」
「「それメリーさんやん」」


白石と謙也は、今日も絶好調です、まる。
その横で光くんがアホらしと呟き総菜パンを頬張り始める。3人の対応に小春ちゃんがちゃんと聞いてぇな、とプリプリ怒る。可愛いな、天使か。天使だ。


「一回目の電話はその一言だけ。しかも時間も疎らなのに、二回目は絶対に夜の11時に、同じように名前言うてから、質問されるんやって」
「は?メリーさん言うたら『今あなたの家の前にいるの』ちゅーやつやないん?」
「メリーさんやなくてジーンさんやな」
「質問て何聞かれるんすか?」
「そんな気になるん光くん、うちのこ・と」
「先輩はどうでもいっすわ」


光くんにスッパリと切られ、地面にのの字を書きながら小春ちゃんが、好きな食べ物らしいでーとふて腐れる。それを聞いて白石が庶民的やなぁと呟いた。確かにとても庶民的だ。それを聞いてジーンさんはどうする気だろうか。
ウィンナーに箸を伸ばしたところで、ふと疑問に思う。


「ねぇ小春ちゃん、それって恋してる女の子にかかってくるの?」


恋する女の子の味方であるらしいジーンさん。此方の質問に何でも答えてくれて、好きな彼の事を知ってアプローチ出来る、と言うならまだ分かるが、逆に質問されると言うのは変じゃないか?しかも好きな食べ物聞いてどうやって恋の応援するの。
すると、小春ちゃんの眼鏡が怪しく光った。


「えぇとこに気付くやん、さっすが壱加ちゃん」
「え、よくわかんないけどありがとう」
「実はなぁ、電話がかかってくるのは…男の方、なんやて」


口元に指を当てて微笑む小春ちゃん。なるほど、恋の相手にかかってくるなら納得。私だけでなく謙也も納得といった反応をしていると、今まで小春ちゃんが喋っていると言うのに黙っていた一氏くんが口を開く。


「小春、それ何で女の恋の味方になるん?」
「?どういうことやユウジ」


謙也が首を傾げる。同じ疑問をもっているのか私を含め全員が一氏くんを見ると、よう考えてみぃ、と話し出す。


「今の小春の話やと、そのジーンさんっちゅーのが男に好きな食べ物はなんやって電話かけてるだけやん。それなら普通は、ジーンさんが惚れた男に電話する、っちゅー怪談話になるんやないんか」
「あ、確かに」


私達は小春ちゃんから前もって『恋してる女の子の味方』と聞いていたから、違和感を感じなかったが、今の事実だけを考えてこういった噂話にするなら、一氏くんの言うように「ジーンさんストーカー説」になるはずである。
ポンと手を叩くと、一氏くんが私を見て、せやろ?と頷いた。すると小春ちゃんが一氏くんの鼻をツン、とつついた。一氏くんは小春ちゃんの方を見てなかったので、その不意打ちはどストライクだったのだろう、顔が真っ赤である。ずるい。


「次の日の朝、その男の子に好意を持ってる子のところに、電話で答えた食べ物が届いてる、ってなったらどんな噂になるやろ」


そういう事か。
恐らく、学校に持って行きやすい食べ物だったから持っていったら好きな人の大好物だった、となれば恋のキューピッド『ジーンさん』となるわけだ。
しかし、朝起きたら見に覚えのない食べ物があったら私には十分なホラーである。お願いジーンさん、千歳くんの好きな食べ物は自分で聞くから持ってこないでね。
白石がなるほどなぁ、と如何にも自分には関係ないと言わんばかりの態度で呟いた。お前前科(逸見先生生き霊事件)あんだろうが。謙也も同じ事を考えたのか2人で抗議の視線を送るがスルーされる。
すると突然誰かの電話が鳴り出す。謙也が慌てて、電話や、とケータイを取り出し、私達に背を向けて電話に出た。


「誰だろ」
「あの子やないっすか、ほら、謙也さんのケー番欲しがってた幽霊」
「え、でもあの子まだ学校にいるのかな?」
「あんな、光くんも壱加ちゃんも、別に謙也くん友達がおらん訳でも女の子にモテへんわけでもないんやで?」
「「え?」」
「あかん、本気や。2人とも本気で信じてへんでユウくん…!」
「哀れや、哀れすぎるで謙也…!」


そんなやり取りをしていたら、カシャン、と何かを落としたような音。見れば、謙也の足下にケータイが落ちていて、謙也は電話をしている体勢のまま背を向けて固まっている。どないしたん、と白石が声をかければゆっくりと、ぎこちない動きで謙也が振り返る。その表情は引きつっていて、私の第六感が本日二度目の「これいつものやで」と警報を鳴らす。やめろ、第六感外れてくれ。


「ジーンさんから、電話きたわ」


ハハッと渇いた笑いを浮かべる謙也を殴ってやりたくなったけど、それ以上に謙也に好意を寄せる女の子がいるんだな、と思わず光くんと顔を見合わせてしまったのは、仕方ないと思う。


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