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ネクタイを衣擦れの音をシュルリとさせながらほどき、どくどくと血が流れ続けていた右手にうまく巻き付ける。今はアドレナリンのおかげで痛みも感じないが、アジトに戻るころにはその痛覚も蘇ってくるだろう。現に今、想像しただけでちょっと痛い。返り血と煤で汚れた黒手袋とジャケットはその場に放り捨てた。先ほど連絡を回しておいたから、あとはファミリー達がどうにかするだろう。

あー、とにかく早く帰って風呂に入りたい。

倉庫の外に足を踏み出せば、無駄に車体の長い黒づくめの車が止まっているのが目に入った。どうやらうちのボスの辞書に『世を忍ぶ』なんて言葉はないようだ。

リムジンに乗り込めば嫌でも香るあの人の薫り。

「あの人…、自分の乗用車なんて寄越すなよ…」

これではアジトに着くまでの間、とてもじゃないが気が休まらないじゃないか。あの人を思い出す香りに包まれて、平静でいられるほど図太い神経はしていないのだ。