どうせなら最高のシチュエーションで
「で、日吉は?」
「…え?何がですか?」
部活終わり。シャワールームで一浴びしてから制服に着替えていた時。
なんのかんのと先輩方が部室でうるさくしていたのは分かっていたが、全て無視をしてもくもくと着替えを続けていたのだが、とうとう先輩方に話しかけられてしまった。
あまりにも話を聞いていなさ過ぎて聞き返すと、俺が聞いていなかったのも想定済みだったのか忍足さんが顛末を教えてくれた。
「岳人が『テニスをしている姿がかっこよくて好きです』って告白されたらしくってなあ。普段かわいいって言われることの方が多いから嬉しかったんやと。せやから、どんな告白されたら嬉しいんかなー、って話してたんや」
「へえ…、物好きな人も居たものですねえ」
「お前のそういうところがホントむかつくぜ!くそくそ!」
いつもの調子で先輩をからかいながら、
うーん、と一応思考を巡らせてみた。
「そうですね、…まあ、素直に好きです、って言われたほうが嬉しいですね。
あとは、うーん、俺のどこが好きなのか、とか言ってほしいですけど」
「なんやオーディションの面接官みたいやなあ」
そうですね、と適当な調子で返せば、俺がこの話題に飽きていることがすぐに忍足さんにも伝わったのか、話が別の方向に展開した。
――告白のされ方、か。別に、なんだっていいんじゃないか、と思うのだ。
相手が、好きな人ならば。
**
つい昨日のことだ。
報道委員で一緒だった他クラスの子に呼び出されて中庭に向かえば、緊張した面持ちで手を震わせながら告白をされた。
気持ちは有難かったけど、応えることはできないと丁寧にお断りをした。
言えてよかった、と最後に笑顔になるものだから、チクリと心が痛んだ。
自分もこんな風に思いを伝えられたら、そうは思わなかったのかもしれない。
だが同性の、同じ部活の部長さんに、なんて、とてもじゃないが伝えられる訳もない。
素直に思いを伝えられるあの子が羨ましくて、そんなことを考える自分を自嘲する笑みがこぼれた。
**
着替え終わったことだし、一足早く部室をあとにしようと扉へと向かう。
そんな俺を呼び止めたのは耳慣れた低音で。
「日吉、話がある。帰り道で話すからちょっと待ってろ」
「え、あ、はい」
動揺して返事につまってしまった。
跡部さんが俺に話?しかも帰り道で?ここで話せない内容だ、ということだろうか。
予想がつかなくて背中に嫌な汗がつたう。
通学カバンを思わずギュっとにぎりしめた。
「待たせたな」
「いえ」
身支度を整えた跡部さんと共に部室を出る。
最後にチラリと部室内を見ると、いつもポーカーフェイスな忍足さんが珍しく笑みを浮かべていて、その一点が不可解だった。
*
互いに無言のまま、暗くなってきた帰り道を歩く。
もう冬が近いのだろうか、日が沈むのがことさらに早くなっている気がする。
ちらりと横の跡部さんをみやっても、前を向いてただ歩いていくだけで気まずいことこの上ない。
「ここらへんでいいか」
突然跡部さんが足を止めた。あまりにも突然だったから少しつんのめってしまったけれど、俺も止まって跡部さんに目を向ける。
学校からは10分ほど離れた場所。住宅街だから歩行者も特に少なくて、シン、と静まり返った空気が満ちる。
「日吉」
「…はい」
「一生懸命なところが好きだ、いつも俺の背中を追いかけてくる好戦的な瞳が好きだ、諦めない心意気と揺るがない意志の強さも。それに…」
「ちょ、ちょっと!一体何の話をしてるんですか!」
「お前が言ったんだろう?」
「え?は?」
状況がさっぱり呑み込めなくてアワアワとしながら胸の前で手を振る。
なんでいきなり俺は跡部さんに褒められているんだ!って、いうか、好き、好きだなんて軽率に言わないでくれ!!
焦りと、この場にそぐわないけれど跡部さんに褒められた嬉しさで顔が火照っていくのが分かる。
対して跡部さんといえば。首を傾げて不思議そうな顔を見せるばかりで俺と違って動揺したような素振りも見えない。
ただ静かに口を開いて、そこから飛び出た言葉に俺は心底ビックリするのだけど。
「お前の理想の告白だろう?」
「えっ」
「部室で言ってたじゃねーの、『俺のどこが好きなのか言ってほしい』ってな」
「…もしかして、それは告白ですか」
「それ以外の何に聞こえるっていうんだ?アーン?」
「いや、だって、そんな、えっ」
この人にはいい意味で常識なんてものは通じないらしい。
だって、普通、告白すること自体緊張するものなんじゃないのか。
しかも同性に対して、だなんて相手から嫌悪感を示されるかも、だとかそういうことは考えないのだろうか。
伏せていた視線をあげれば予想外に跡部さんがこちらを見つめてきていたのでビックリして、そしてなんだか合わせた目線を逸らせなくなってしまった。
そのまま跡部さんが口を開くのを黙って見つめる。
「?…だって、お前、俺のこと好きだろう」
語尾に疑問符すらつかないその自信っぷりに口から思わず、といった具合に笑い声がもれた。どうやら自分の恋心はこの人にバレバレだったようだ。
テニスだけでなく、こんなことまで敵わないなんて、ちょっと笑えてきてしまう。
ああ、だけど、そんな高い目標に及び腰になるような心の弱さはとうの昔に捨てたのだ。
「跡部さんだって、俺のこと好きなくせに」
冬が近付いてきていて、夜は暗くなるのがことさらに早い。
もう少し周りが暗かったらきっと、と思うので、そこはちょっとだけ残念だ。
抱きしめられたときに触れた頬が熱を持っていたから、跡部さんの珍しい赤面が見れただろうに。