やる気のない案内人



「日吉ってひまわりみたいだね」

珍しく起きていると思ったら、なんとも意味不明なことを言う。
日陰になっているベンチに仰向けに寝転がりながら、首だけをこちらに向けている。
立っているはずの俺の方が目線は上のはずなのに、その眼差しはとても深くて、こちらが見下ろされている気分になるから少し、苦手だ。

「どういう意味ですか、それ」

腕を組んで、目を細めて。
少し威嚇するような声色で芥川さんに尋ねた。夏はまだこれからなのに、背筋には寒気が走った。

うーん、と唇をとがらせて、少し悩んでいるようだ。どうかそのまま、言葉を考えあぐねてこの話は忘れて欲しい。なんだか、開けてはいけない箱に触れそうだからだ。

日差しが強く照りつけるテニスコート内では、総当りで部員同士が戦っている。この距離からでは誰と判別するのも難しいはずだ。──たった一人を除いて。

パコン、という小気味の良い音を立ててラケットで打ち返されたボールはワンバウンドののちに勢いよくコート外に飛んでいく。どうやらマッチポイントが決まったようだ。タオルやらドリンクやらが置いてあるこちらのベンチへと彼が足を向けている。

「あ、それだ」

弾かれたように、芥川さんがベンチから起き上がり無遠慮に俺の肩を掴んで揺らす。何がですか!と大きな声で問えば、彼の瞳は弧の形を描いた。

「ほら、跡部がいる方向にずっと顔を向けてる」

その言葉に息が止まるほどの衝撃を受けた。向日葵には太陽がある方向に向かって花が開き続ける習性があって、いつでも太陽を追いかけるように動いていることは知っていた。

芥川さんに揶揄された俺は、いつも跡部さんに向かって首を伸ばし続けているとでも言いたいのだろうか。

「いじらしいね、日吉も」

耳元に吹き込まれた声は低くて、ビクリと全身が震えた。当の本人は、といえば、そんな不穏さなど微塵も感じさせない人好きのする笑みを浮かべていて、さっきのは幻かと、脳が都合よく解釈しようとしている。

「あくたがわさっ」
「日吉」
「っ、はい!」

呼び止めようとした俺の声は、無視することを許さない低音の響きによってかき消された。跡部さんに声をかけられて向き直ると、ニヤッ、と口角を上げてこちらを見つめられる。

「日吉、次は俺と打つぞ」
「...っ!...下剋上、してあげますよ」

俺の返事にお決まりの高笑いを上げたあと、それでこそお前だ、とかなんとか言われて頭を乱雑に撫でられた。
髪が乱れると慌てて振り払えば、少しだけまたも笑った後、何事も無かったように手だけ振ってその場を去っていく跡部さん。

全くもって嵐のようで、振り回されたと手櫛で頭を整えていると、ケラケラと横で笑い声が上がる。意味が無いと分かってはいても睨みつけずにはいられなかった。

「ひよC〜、今度はバラだね〜!」
「ほんっと、うるさいです!」

情緒が有るんだか無いんだか分からないこの先輩に、これ以上振り回されるのはごめんだと、ラケットを引っ掴んで跡部さんの背中を追いかけた。

アンタはたんぽぽみたいだ。ふわふわとやわらかそうに見えて、その実、触れようとすれば風に吹かれて飛んでいく。捉えどころのないことこの上ない。