跡部さんが日吉くんに劣情を抱く話
最初に浮かんだのは興味だった。
日吉はいつもツンとすましていて、涼やかな表情を取り繕っていて、なにごとにも一線をひいた立場で話をするやつだった。唯一、テニスにだけは自ら身を投じていたように思えたが。
だからふと思った。その表情を崩してみたいと。
なんでもいい。笑った顔でも、泣いた顔でも、なにかに悔しそうに顔を歪めるでも。人を小馬鹿にするときぐらいにしか仕事をしない表情筋の活躍の場を見たかったのだ。
いつもの通り部活を進め、基礎練習が終わった後の試合形式での練習に移ることにした。
ガットの張りを確かめるみたいにポンポンと手で叩いている日吉の名前を呼んで、試合をするぞとコートへと誘い出した。
ネットを挟んで、ラケットをくるりと回してサーブ権を決める。今回は日吉にその権利が移った。背中を向けて、ベースラインまで下がろうとする日吉の肩を掴んで振り向かせる。
「この勝負、俺様が勝ったら一つだけ言うこと聞け」
「…それは俺が勝った場合も適応されますよね」
「ああ、なんでも聞いてやるぜ」
挑発するように口角を上げれば、それに乗るように日吉も意地悪く目を細める。互いに言葉には出来ない闘志を燃やして、ネットに背を向けラケットを構えた。
*
とまあ、そんな約束をして、試合は当然のように俺が勝ったわけだが。
握手をする前に、顔を伏せた日吉の不服そうな悔しそうな顔がちらりと見えて背筋にゾクゾクとしたものが走り抜けた。
ジャージから制服に着替えようとするのを阻止して、自分と日吉以外の部員がそろって解散し終えた部室の中。どちらも声を出さないから、シンと静まり返っている。
ソファに座っている日吉は冷静な面持ちだが、内心では何をお願いされるのか分からず焦っているに違いない。その証拠にいつもより瞬きの回数がグンと多い。
予告なく座り込んでいた椅子から立ち上がって日吉のもとに歩み寄れば、びくりとその体が震えた。
目の前に立ちはだかるように陣取って、背もたれへと腕を伸ばして日吉との体の距離を縮める。太陽の光を受けて宝石みたいにキラキラと輝く琥珀の瞳は、人工の明かりのもとでも美しいと思った。
「足触らせろ」
「…え」
戸惑ったような日吉の声は無視して、背もたれに伸ばした方とは逆の手を日吉の足に這わせた。古武術で鍛えられたしなやかな足だ。足首からふくらはぎを順になぞりあげ、膝裏をくすぐった。
皮膚が弱い部分だからか、それとも日吉が感覚を拾いやすいのか。
困惑した表情を浮かべながらも、頬には赤みが差し始めていた。
そのままじっくりと撫で上げていると、なにかを我慢するかのように日吉の口がかたく引き結ばれていく。白のハーフパンツの中へと手のひらを進めると、日吉から遅すぎる静止の声が上がった。
「なっに、してるんですか!」
「試合に勝ったら俺様の言うこと一つ聞く約束だろう」
吸いつくような肌触りが心地よい。チラリと日吉を伺えば、俺の言葉に押し黙って眉根を寄せながら見下ろしている。視線を合わせたまま膝頭を擦り上げれば、口元がひくひくとわなないた。
口角を上げて、太ももへと手を這わせる。細身な印象を受ける日吉だが、太ももは人並に太い。というよりむしろ、鍛えられた筋肉で分厚いかもしれない。
手のひらをいっぱいに広げて鷲掴むようにして、小指から絞るかのように指を順繰りに動かす。
体の内側の部分はより感じやすいのか、なぞれば目をつむって耐えられないとばかりに息を漏らす。顔は耳まですっかり真っ赤に染まっていて、ふるふると震えたまつ毛が持ち上がったかと思えば、生理的な涙をたたえた瞳と再度視線がかち合った。
ああ、やっぱり良い。
いつも勝気な笑みを浮かべる日吉をぐずぐずに溶かせば、こんなにも愛おしい表情を向けるのか。
もっと、もっと見せてくれよ、日吉。
ハーフパンツから手を引っこ抜いて、首裏へとその手を差し込む。ぐいとこちらに寄せて、唇が触れ合ってしまいそうな距離でしばし見つめあう。親指で唇をなぞれば、それに従うように薄く唇が開く。ちろりとのぞいた赤にこちらの体温が否が応でも上昇した。
「もっと、もっと乱れろよ」
足を持ち上げれば、ずるりと背中が下がった。見せつけるみたいに、日焼けのない白い太ももに唇を落として、赤い印をつけた。舐めあげれば、日吉から小さく声が上がる。
普段の怜悧さが引っ込んだその顔に、粟立つような快感が背中を走り抜けた。