だからやっぱり冬は苦手



 夏服の半袖に着替えた生徒もまばらにいる中で、寒さを敵対視している目の前のこいつはきっちりと袖口のボタンまで留めきった長袖のシャツを着ている。
 そのシャツと同じくらい真っ白なベストまで着ているから、見ているコチラとしては暑そうだな、という印象ばかりを受けるのだが。

 昼休みの空き教室。一緒に昼ごはんを食べよう、と誘ったのはたしかに俺の方だったが、ここまで話もせずに弁当を食べ続けられるとは思いもしなかったわけで。

「なあ」

 口から出た言葉は問題なく届いているはずなのに、チラリとこちらに目を向けただけであとはすぐに手元の白ご飯へと視線を戻してしまった。
 カーテン越しに差し込む陽射しを浴びしてキラキラと光を反射する色素の薄い髪。いくばくか健康的に焼けた肌。一等好きな煌々とした瞳は、今は伏し目がちに隠されている。

「なあ」

 もう一度声をかければ、ようやく箸をおいて、なんですかと訝しげな声を上げる。そんな飾らないところが好きだと、心の中でまた一つ感情が降り積もる。

「夏は好きか」

 口から出たのはそんな他愛もないことだった。それでも気になったのだから仕方ないと言いたい。眉根を寄せて少しだけ悩んで、そしたら顔を上げるから目線がかち合った。
 
「…好きですね」

 意外だな、という声が思わず漏れた。潔癖のきらいがあるから、汗をかいてジャージがベタベタと張り付くこの季節は苦手な方に分類されるのだと思っていた。
 そんな心境を察したのか。口元をきゅっと引き結ばれて、それからためらいがちに口を開く。

「…貴方のテニスがたくさん見られますから」

 二人っきりの教室では、普段なら聞き逃してしまいそうなそんな小さな声も確かに聞こえた。チラチラと髪に見え隠れする耳はすっかり赤く染まっていて、そんな様子にこちらまで暑さが伝わってくるみたいだ。
 机の上にぐいと体を乗り上げて顔を近づける。一気に近づいた距離感に、琥珀の瞳がパタパタとまばたきを繰り返した。

「お前、結構俺様のこと好きだろ」

丸まった瞳を覗き込み続ければ、ゆるりと弧を描いた。

「それは…何を今さら」



ーー夏に近づく日差しを避けながら内緒話でもするような声量で交わしあった言葉は合わせた唇へと吸い込まれていった。