空腹ラプソディ



 リビングに鎮座するローテーブルの上に木製の鍋敷きを敷いて、その上にでんとした大ぶりの鍋を置く。ソファーに放っていたクッションを二つ取り上げて、その上に座り互いに顔を見合わせた。

「それでは」
「はい」
「「いただきます」」

  声と手を合わせて早速箸を手に持つ。蓋を開ければ鍋からは白い湯気がたち、覗き込みすぎたらしい跡部さんから、熱っ、と声が上がる。お盆の上に上手く蓋を安置することに格闘している跡部さんを横目に、俺は手早く自分用の小皿に鍋の中身を盛り付ける。
 厳しい残暑が続いたかと思えば急に寒くなってきた今日この頃。今年度初鍋デビューである。豆乳ベースの鍋は暖かく、そして美味しく体にしみわたり、あっという間に小皿が空になってしまった。いそいそと追加分をよそうも、えのきがおたまにへばりついて邪魔をするので振り切るのにだいぶ苦労した。ちなみに跡部さんはしらたきの新食感 に目を輝かせながら口に運んでいる。

「最近野菜高いんですよね、鍋も貴重です」
「んー、家庭菜園でもするか?上手く行けばだいぶ食費が浮くらしいぞ」
「あー、明日、考えます」
「...明日には忘れてるに一票」
「十票ぐらい入れてもいいですよ」

 もう考える気ねぇのかよ、と呆れた声色をしながらもその端々で笑いを堪えてるのがよく分かる。白菜の旨みを噛み締めながらも鶏肉に手をつける。こちらもうまいこと火が入ったようで、ほう、と息がもれた。

「食べたな」
「食べましたね」

 すっかり空になった鍋を見つめて似たような感想を呟く。自慢じゃないが、長いこと 一生にいると相手の思考回路が読めてくる。...というよりも、感性が似通ってきてるの かもしれないが。だから多分、次に紡がれる言葉も一緒だ。

「うどんだな」「うどんですね」

 言い方までシンクロしたから思わずと言った具合に顔を見合わせた。そのまましばらく睨めっこのような状態が続いたが、跡部さんが耐えきれずに笑いだしたので俺もつられて顔が緩む。
 じゃんけんぽん、とパーで俺が勝ったので棚から袋麺を探し出す係に就任した。リビ ングから鍋を持ってきた跡部さんが早速コンロの上に設置した。豆乳だしが残った鍋に うどんを投入しコンロのスイッチをオンにする。俺たちのディナーはキッチンへと場所を移したのだ。