不動峰中学校
黒いセーラー服に赤いリボン。東京都にある公立中学、不動峰中学校の制服だ。こちらにつくのが入学式前日だったので、制服を初めて着たのが当日になってしまった。最初はリボンの結び方さえわからなかったが、翌日には曲がったリボンを結べるようになった。登校2日目。未だに友達はできないままである。
公立中学である不動峰は付近の小学校から進学してくる生徒しかいないので、自分のように友達がいない人はいなかった。部活のことやいろいろなことが聞きたいのだが、未だに話しかけるタイミングが掴めないでいる。今日は新入生歓迎会、部活動紹介があったから、そこで同じ部活に見学しに行く子と仲良くする作戦を立てていたが、テニス部へ入部する意志がある子はいなかった。不動峰のテニス部は軟式ではなく硬式であり、男女が別れている。珍しいと思いつつも自分は硬式テニスしかした事がないのでありがたい。この学校のレベルがどのくらいかわからないが。
入部予定の女子テニス部に向かっている途中、校舎の裏側に手作り感のある土のテニスコートが目に入った。そこには黒いジャージを着た先輩と思われる人たちが楽しそうに、時には辛そうに練習をしていた。茶髪の片目を隠した先輩はとても足が早く、スピードタイプの選手で、黒いキャップを被った人は小柄な分ちょこまかと動ける典型的な前衛タイプだ。オールバックの人と黒髪の人は卒なく何でもこなせるのでダブルスにもってこいで、タオルの人はパワーが、兄よりもありそうだ。サラサラストレートヘアの先輩は、手先が器用でテクニックタイプだとわかった。そして、その人達をまとめている部長らしき人。彼は指示を出していることが多いが、後ろ姿からもカリスマ性と実力は見える。どこか見覚えある。いや、東京の人と関わったことなんて皆無に等しいが誰かの面影があった。
「君は部活見学か? マネージャーも大歓迎だ」
「……え、あ……はい。見学、です」
「もっとこっちで見たらどうだ? そっちのほうがよく見えるだろう」
「あ、ありがとうございます……」
おもむろに見覚えのある部長らしき人が近づいてきて、ちゃんと見学させてもらうことになった。練習に邪魔にならない程度にコートに近づけば、周りの視線は自然と自分に注がれる。
「マネージャーですか? 橘さん」
「バカ、まだ見学に決まってんだろ」
「ああ。石田の言うとおり見学だ」
タチバナさん。部長らしき人はタチバナさんというらしい。タチバナ、の文字を脳内で探すがヒットするのは九州にいるはずの金髪有名人だけだった。あんな不良に似ても似つかないのできっと人違いだろうと自分の中で完結し、練習の見学に集中した。土のコートともあって、怪我をすることが多そうだ。しかも雨が降ったときや何らかの理由で水がコートに掛かった場合練習ができなくなってしまう。女子テニス部は普通にクレーコートと聞いていたのだが、なぜ男子の方だけこの土のコートなのだろうか。そう疑問に思いながらも、先輩方のテニスを冷静に見ていた。ここの部活を見ていて思うのは部内の雰囲気がとてもいいことと練習メニューがしっかりしていること。体育会系特有の絶対王政のようなものはないらしく上下関係で揉めることはないだろう。逆にお互いがお互いを信頼しあっているのが目に見えてわかる。練習メニューはパワー、スタミナ、スピード、瞬発力が鍛えられるようになっており、試合形式の練習があることで経験を積むことができる。テニスクラブでも、時間が掛かる等の理由でなかなか組み込んでいるところが少ない。それを効率よく練習に組み込むことができているなんてここの部活はきっと強いのだろう。
どこか惹かれるものがあった。
「どうだ、うちの部活は」
「え……あの……」
「……すまん、突然そんな質問を振って」
「い、いや……! 部内の雰囲気が良くて、練習の質がよく感じました……!」
部活も終わり、部長らしきタチバナさんが話しかけてきた。突然の質問で答えることが上手くできなかったが、自分の思ったことは言えたはずだ。
「テニス経験者か?」
「はい。兄がやっていて」
「そうだったのか」
いつの間にか他の部員の方々もこちらに寄って来て、また視線を注がれた。カミオ? さんはマネージャーになるのかしきりに聞いてきたが、他の方……特にテツさんに咎められていた。
本当は今日から女テニに入部して練習に参加したいと思っていたのだけれど、なんとなく、なんとなくだが男テニもいいと思ってしまった。
「すまないなうちの神尾が。そんなに焦らないでいいからな」
「あの!」
自分でも明確な理由はわからない。
「自分……! 入部します!」
テニスの腕は、個人で大会に出て磨けばいい。
「そうか……そうか! これからよろしくな!!」
タチバナさんが笑顔で答えた。
自分、マネージャーになります。
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