黒尾と発覚


「仁王雅美じゃ。合宿までの間だがよろしくの」


彼女にマネージャーを引き受けてもらってから数日後。約束通り部活に顔を出した臨時マネージャーは、仕事内容を覚えるためにも合宿前から部活に参加することにしたらしい。相変わらずのボサボサ銀髪に黄色の澄んだ瞳は後輩たちの目を引いていた。特に山本は今にも倒れそうな勢いで顔を真っ赤にしている。3年生は多少は見慣れているからか容姿に驚くことはなかったが、流石に仁王が来たことには驚きが隠せないようだった。

「……クロの言ってた人ってあの人だったんだ」
「言ってた人? 俺なんか言ってた?」
「誰かあてがあるのかって話」
「ああ……」

そういえばそんな話をしていたかもしれない。全く記憶になかった。

「いつもと違って珍しいね」

唐突に研磨が言った。先程の会話とは噛み合わないその言葉に首を傾げれば、好きな人と言われた。

「……はァ?」
「今までのタイプと違う。前までは……」
「おい、何言ってんだよ」

お前勘違いしてるだろ、と一言言うと意味がわからないという顔をされた。いや、自分も意味がわからない。
遠目で銀髪とモヒカンが顔を合わせているのが見えた。山本の方は相変わらず顔が真っ赤で、仁王はいつも通りの眠そうな顔をしていた。
笑って、なかった。なぜかわからないけれど彼女が笑っていなかったことを確認して、少し気が抜けた。いつからかわからないが手に力は入っていたようで、気が抜けた今。手が少し強張っていた。



「黒尾」
「あァ? ……って仁王か」
「ククッ……柄が悪いのう」
「柄が悪くて悪かったですねー! で、なんのよう?」

部活終了後。部室から出てきてすぐに声を掛けられた。施錠の関係もあって自分以外の連中はもう帰っていたはずなので、少し驚いてしまった。驚いて彼女曰く柄の悪い声を発していなんて、完全に無意識だった。その無意識が山本に向けていなかった顔を俺に向けてくれたんだけれど。

「そうじゃ。そうじゃった。黒尾のせいで忘れるところだったぜよ」
「俺のせいかよ……で要件は?」
「んー、LINE交換せんか?」

突然の一言に思わず動きが止まった。LINEの交換、LINEの交換……。突然、なんでだ。

「マネージャーとして主将と連絡取れたほうがいいと思っての」
「あ、ああ。ソウダネ」
「……どうしたんじゃ、なんか様子がおかしいぜよ」
「なんでもねェよ」
「そーか」

確かにマネージャーと主将は連絡取れたほうが都合がいいから、彼女の言い分も理解できる。こんな単純な理由だったらあんなに動揺した意味がないじゃないか。
連絡先を交換して、彼女が友達に追加された。彼女のプロフィール画面は、同じ顔が2つ並んだ写真。というよりは彼女と彼女のそっくりさんが二人並んだ写真だ。違うのはそっくりさんのほうが目の色が青いことと、肌の色が薄い褐色色ということだ。顔が似ているということは血縁者だろう。
写真の中の彼女の顔はいつか見たニコリとした顔で、自分だけしか見たことのない顔だと思っていたものがこうやって不特定多数の人に見られていることに地味に腹が立った。

「これ……」
「ん? ああ、その写真か。それうちの弟じゃ」
「……瓜二つだな」
「よう言われる。中学3年生でまだまだ子供なのに、背も追い越されてしまってのう……」

170ぐらいある彼女の身長を追い越すとは、中学生にしてはなかなかの成長だ。まあ、かわいい弟ナリと最後に付け加えた心理は、きっと大切にしているからなんだろう。
スマホの上の方を見て気づいた。もう遅い時間だ。帰らなければ。流石にこの時間に女子を一人で帰らせるわけにもいかないから、彼女を送っていくことにした。

「おい、お前家どこ? 送ってく」
「別に大丈夫じゃよ。ありがとうな」
「いや、流石に一人は危ないから……な?」
「……じゃあお言葉に甘える」

彼女から聞き出した住所は、東京の中でも中心街ではあったがここからは電車通学の範囲だった。そのため最寄りの駅まで送ることになった。

「黒尾は優しいのう」

唐突に言われた言葉に飲んでいたお茶をこぼしそうになった。彼女とよく話すようになってから、こういう機会は増えた。

「ボクが親切なのはいつものことですよ」
「嘘付け。灰なんたらくんが意地悪って言ってたぜよ」
「灰羽リエーフな」

リエーフの名前が会話に出てきて、彼女もバレー部と関わりを持ってしまったんだと少し残念な気持ちになった。誘ったのは自分だから仕方がないことだけれど、あんまりリエーフあたりとベタベタしないでほしいと思ってしまう。最近の自分はなんだか変だ。
他愛のない話をしていればすぐに駅についてしまった。もっと学校から駅までが長くなればいいのにと、叶わないことを願ってしまう。ふと研磨との会話が蘇る。まさか、な。

「黒尾、本当にありがとうな」
「いいんだよ、俺が好きでやってることだから」
「また明日」
「……おう。また、明日」

その笑顔に頬に熱が集まるのがわかって、遂に気づいてしまった。
ニコリとした顔で手を振って、彼女は駅の改札に向かっていった。彼女の姿が見えなくなるまで見届けると、どうにも立ってられなくなって駅前で座り込んでしまう。

「どうすりゃいいんだよ」

俺は仁王雅美に恋をした。

前へ次へ
戻る