黒尾と名前

「雅美さーん、臨時じゃなくてずっとマネージャーとしていてくださいよー」
「灰羽くん、うちは今年受験生じゃき」
「あ! リエーフって呼んでくださいって言ったじゃないですか!」
「あ、忘れとった。さっき夜久が呼んでたぜよ」
「うげ……夜久さんが」

部活終わり。体育館からは銀髪コンビことリエーフと仁王雅美の声が聞こえた。

臨時とはいえマネージャーが部活にいることで、目に見えて変わったことがあった。それは部員のモチベーションが上がって練習の質が上がったことだ。特に山本(仁王にいいところを見せたい)とリエーフ(仁王のおかげで居残り練習をサボらなくなった)が筆頭角だろう。研磨から、最近のクロは格好つけてると言われたがそれは気にしないでおく。

「ちょっと張り切り過ぎだな」
「山本とリエーフか」
「……お前もだぞ」

おもむろに海が近づいてきたと思ったら、そんなことを言われた。

「……俺ってそんなにバレバレなの?」
「ああ。わかりやすい」
「マジかよ……」

研磨、海とあまり色恋沙汰に縁がなさそうなやつに指摘されたことが若干ショックだった。アイツらは人に口を出すタイプではないというのに俺には口を出すなんて……そんなにわかりやすくて見苦しかったのか心配になる。
彼女への恋愛感情を自覚してから、俺は彼女の目を見て話すことができなくなってしまった。もともとあの吸い込まれそうな金色の瞳に苦手意識を持っていたため、あまり目を見ることはなかったけれど。ただ彼女には少し伝わっていたみたいで最近心配されることが増えた。自分の身勝手な理由で余計な心配をかけさせていることに心が痛むが、その度に話しかけてくれるのが喜びでもあった。

「ついに明日からか」
「ホント忙しい時期に引き受けてもらってわりいな」
「大丈夫じゃよ。親も快諾じゃ」

部活終わり。俺が彼女を送っていくのことがここ何日かの間で日課に変わっていった。リエーフがしつこく送っていくと言い寄っていたが、仁王が断ったらしい。少し自惚れてしまったが、あとに夜久が理由を聞いたところ「単純なやつは面白くない」とのことだった。

「黒尾」
「なんだよ」

少し前を歩いていた彼女に声をかけられた。体の動きは止まって、俺が横に並んで表情を伺えば考え込んでいる様子だった。視線は少し上を向いていて、真顔に似たその表情は笑ったりして崩れていない分きれいだ。思わず息を呑む。

「下の名前、なんだっけ」
「なんだよ、いきなり」
「気になったんじゃ」

下の名前を聞かれた。横顔はまだ真顔のままで恥ずかしがっている様子はない。でも、これは期待をしてもいいだろうか。

「鉄朗。鉄道の鉄に、朗報の朗」
「ほう。ほがらかのほうなのか」
「あの字そんな読み方すんの?」
「漢字の勉強したらどうじゃ?」
「ケッコウデス」

名前を呼んでもらえるか期待をしたが駄目だったらしい。彼女は好奇心旺盛な部分が多々見られるから、俺の名前がその一部に入っただけだろう。なんとも複雑な心境だ。興味を持たれただけいいとしよう。

「明日、何時集合? 早い時間じゃないのは覚えてとるんだか」
「7時に校門前集合。覚えとけよな」
「すまんすまん。物覚えは悪いほうでの」
「口調と合わさって、ババアになったか?」
「花のJKにそれは失礼ぜよ」
「もう一年もねえよ」
「ククッ……その通りじゃな」

小さく笑った彼女を見て、少し心が満たされた。

「毎回送ってもらって悪いのう……」
「いいんだよ。引き受けてもらったんだしこれくらいはやらないとな」
「そーか」

駅前に着いて、彼女が俺のもとから少しずつ離れていく。ちゃんと駅の構内の入るのを見てから帰ろうと見守っていると突然彼女は振り返った。

「鉄朗、ありがとうな。また明日!」

俺の好きなあの笑顔でそう言い放った。
明日は遂に合宿、だ。





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