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初めて入った喫煙所の中はどこも白いカルデアの中にあって、不思議とどこか黄ばんでいるように見えた。大きなガラスを嵌め込まれたサッシが煙草の煙のせいか随分くすんだ色合いに見えて内心首を傾げる。たかだか嗜好品一つでここまで景色が変わって見えるものだろうか。
……煙草を吸うのは今日が初めてだった。誰もいない喫煙所に身を滑り込ませて、一本取り出した煙草に火をつけるのはそれなりに重労働だったけれども、こうして咥えていざ吸おうとすると、吸い込むことの方が遥かに難しく感ぜられる。咳き込みながらそれでも何とか煙を口の中に溜めることに成功して密かに喜んでいると、すっと唐突に扉が開いて、向こうから見知った顔がひょっこりと覗いた。
「あれ、マスターだ」
ここで会うのは初めてだね、と金髪を揺らしながらビリーが不思議そうに言葉を発した。
「うん」
「君って煙草吸うんだ。ちょっと意外かも」
前から?と問われていいやとかぶりを振る。
「今日初めて吸った。ちょっと気になってたんだ、煙草」
カルデア内に喫煙者はそう少なくはない。休憩時間なんかに喫煙所に人が集まっているのを見たことも何度かあるし、その中にビリーやそれにロビン、巌窟王、孔明たちサーヴァントが混じっているのも幾度か目撃した。彼らとすれ違うたびに仄かに香る紫煙の匂いに、前々から密かに興味を惹かれていたのだ。それでも成人するまで待って、やっと煙草を取り寄せて、ここに入る機会をずっと窺ってようやく今日に至った。
「へぇ。どうだい、初めての煙草は」
手慣れた様子で煙草に火をつけながらビリーがそう問いかけてくる。どう、と言われると少し困ってしまうけれど、初めての煙草は、何というか――……
「意外と不味くない」
「それだけ?」
「あと難しい」
簡単そうに見えるのに、とぼやきながらもう一度煙草を吸い込んでみる。やはり難しい。何となくだけれども、うまく煙を吸い込めていないような気がする。
ビリーは眉を顰めた私に微笑みかけて、「慣れるまでは確かに難しいかもね」と口にした。
「コツとかある?」
「コツかぁ……ストローを吸うみたいにするとうまく吸えると思うんだけど、どうかな。そっと優しく吸ってみて」
「ありがと、やってみる」
ストローを吸うように。優しく、を意識してすぅ、と息を吸い込む。じりじりとかすかに焦げつくような音がして、灰色の面積がわずかに増えた。口の中に甘いような苦いような不思議な味わいが充満する。ここから更に吸い込むんだっけ、と考えてちょっと吸い込んだ途端、気管に絡みつくような、喉に刺さるような煙の温度にけほけほと咳き込んでしまった。開いたくちびるの間から白んだ煙がふわふわと漂って、天井に向けて立ち上っていく。「大丈夫かい?マスター?」とビリーが優しく肩をさすって、私の顔を覗き込むように見つめた。その手にはまだ長く残った煙草――確かマルボロだった気がする――が挟まっている。かろうじてうんと頷いて、刺々しくけばだった喉を「大丈夫」と震わせると、彼はやはり心配そうな顔をしながら「無理に肺に入れようとしなくたっていいのに」と口にした。
「ふかしはなんかダサいって言うから……煙草に失礼!みたいな」
「誰にそんなこと吹き込まれたのさ……?好きな吸い方でいいんだよ。肺に入れなくたって美味しいものは美味しいじゃないか」
君の吸いやすいように吸いなよ、とビリーは再び煙草を咥えて深く息を吸い込んだ。それをしばらくの間観察して、今一度私も吸い込んでみたけれどやはりまだうまく煙を口の中に留めることはできなかった。